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by nicoxz

脂質異常症の予防で脳梗塞・心筋梗塞を防ぐ方法

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はじめに

脳梗塞や心筋梗塞は、日本人の死因の上位を占める深刻な疾患です。これらの病気は突然発症し、命に関わるだけでなく、後遺症によって寝たきりになるリスクもあります。その根本的な原因の一つが「脂質異常症」です。

脂質異常症は自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー」とも呼ばれています。気づかないうちに血管の中で動脈硬化が進行し、ある日突然、脳梗塞や心筋梗塞として発症するのです。日本動脈硬化学会が2022年に改訂した「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」をもとに、脂質異常症の予防と管理について解説します。

脂質異常症とは何か

血液中の脂質バランスの乱れ

脂質異常症とは、血液中の脂質のバランスが乱れた状態を指します。診断の主な指標は3つあります。

1つ目は**LDLコレステロール(悪玉コレステロール)**です。肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割を持ちますが、過剰になると血管壁に蓄積し、動脈硬化の直接的な原因となります。基準値は140mg/dL未満です。

2つ目は**HDLコレステロール(善玉コレステロール)**です。血管壁に溜まったコレステロールを回収して肝臓に戻す働きがあります。この値が低すぎると動脈硬化が進みやすくなります。基準値は40mg/dL以上です。

3つ目は**中性脂肪(トリグリセライド)**です。エネルギー源として重要ですが、過剰になると小型のLDLコレステロールを増加させ、動脈硬化を促進します。空腹時の基準値は150mg/dL未満です。2022年版ガイドラインでは、新たに随時(非空腹時)の中性脂肪値として175mg/dL未満が診断基準に追加されました。

動脈硬化が進むメカニズム

血液中のLDLコレステロールが過剰になると、血管壁の内皮細胞の裏側に入り込みます。血管壁に侵入したLDLは酸化され「酸化LDL」に変化します。

体内の掃除役であるマクロファージは、この酸化LDLを取り込んで「泡沫細胞」に変化します。泡沫細胞が血管壁に蓄積すると、「プラーク」と呼ばれる脂質のコブが形成されます。プラークが成長すると血管の内腔が狭くなり、血流が低下します。

特に危険なのは、脂質の割合が多い「不安定プラーク」です。不安定プラークが破裂すると、そこに血小板が集まって血栓を形成し、血管を完全に塞いでしまいます。これが脳の血管で起これば脳梗塞、心臓の冠動脈で起これば心筋梗塞となるのです。

最新ガイドラインに基づく管理目標値

リスクに応じた管理目標

2022年版の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、個人のリスクに応じたLDLコレステロールの管理目標値が設定されています。リスク評価には、福岡県久山町の住民を対象とした疫学研究に基づく「久山町スコア」が新たに採用されました。

一次予防(まだ病気を起こしていない人) では、リスクの程度に応じて以下の目標値が設定されています。

  • 低リスク: LDLコレステロール160mg/dL未満
  • 中リスク: LDLコレステロール140mg/dL未満
  • 高リスク: LDLコレステロール120mg/dL未満

二次予防(既に冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞を起こした人) では、より厳格な管理が求められます。

  • 通常: LDLコレステロール100mg/dL未満
  • 高高リスク: LDLコレステロール70mg/dL未満

高高リスクには、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病を合併している場合、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を併発している場合が該当します。

糖尿病患者への新基準

2022年版ガイドラインでは、糖尿病患者に対してより厳しいLDLコレステロール管理目標値が設定されました。末梢動脈疾患、細小血管合併症、喫煙のいずれかがある場合は100mg/dL未満、それ以外の場合でも120mg/dL未満を目標とします。

食事と運動による予防・改善法

食事療法の5つのポイント

脂質異常症の治療の基本は生活習慣の改善です。食事療法では以下の5つのポイントが重要です。

1. 適正なエネルギー摂取量を守る: 1日の摂取カロリーは「標準体重(kg)× 25〜30kcal」を目安にします。肥満は脂質異常症の大きなリスク因子であり、適正体重の維持が基本です。

2. 動物性脂肪を控える: 肉の脂身やバター、生クリームなどに多く含まれる飽和脂肪酸はLDLコレステロールを上昇させます。代わりに、青魚に含まれるDHA・EPAやオリーブオイルの不飽和脂肪酸を積極的に摂りましょう。

3. コレステロール摂取を抑える: 1日のコレステロール摂取量を200mg未満に抑えることが推奨されます。卵黄、レバー、魚卵などに多く含まれるため、これらの食品は摂取量を調整します。

4. 食物繊維を増やす: 野菜、海藻、きのこ類、豆類に含まれる食物繊維はコレステロールの吸収を抑える効果があります。1日25g以上の摂取が目標です。

5. 過度な飲酒を避ける: アルコールは中性脂肪を上昇させる主な要因の一つです。適度な飲酒量を守ることが大切です。

運動療法の効果と実践法

運動は中性脂肪を減らし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす効果があります。厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、以下の運動が推奨されています。

有酸素運動がもっとも効果的です。ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどを1日30分以上、週3回以上行うことが推奨されます。速歩きやスロージョギングなど、「ややきつい」と感じる程度の運動強度が適しています。

筋力トレーニングも週2回程度取り入れると、基礎代謝が向上し、脂質の代謝改善につながります。スクワットや腕立て伏せなど、自宅でできる運動から始めるのが実践的です。

運動習慣がない方は、まず日常生活で歩く機会を増やすことから始めましょう。エレベーターの代わりに階段を使う、一駅分歩くといった小さな変化が大きな効果をもたらします。

注意点・展望

よくある誤解

脂質異常症に関してよくある誤解の一つが「コレステロール値が高くても症状がないから大丈夫」という考えです。脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化を進行させるため、定期的な健康診断で血液検査を受けることが極めて重要です。

もう一つの誤解は「痩せていれば脂質異常症にはならない」というものです。遺伝的な要因(家族性高コレステロール血症など)により、痩せている方でもLDLコレステロールが高い場合があります。

薬物療法という選択肢

生活習慣の改善だけではLDLコレステロールが十分に下がらない場合、薬物療法が検討されます。代表的な治療薬である「スタチン」は、肝臓でのコレステロール合成を抑制し、LDLコレステロールを効果的に低下させます。多くの臨床研究で、スタチンによる治療が脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクを有意に低下させることが証明されています。

中性脂肪が高い場合には「フィブラート」系の薬剤が使用されることもあります。いずれの場合も、医師の診断に基づいた適切な治療が重要です。

まとめ

脂質異常症は、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気の根本的な原因の一つです。LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の3つの指標を定期的にチェックし、自分のリスクレベルに応じた管理を行うことが予防の鍵となります。

まずは食事の見直しと運動習慣の導入から始めましょう。バランスの良い食事を心がけ、1日30分以上の有酸素運動を取り入れることで、脂質バランスの改善が期待できます。年に一度は必ず健康診断を受け、血液中の脂質値を確認することをお勧めします。

参考資料:

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