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by nicoxz

プリ機にもサイバー防衛が必要な時代へ、背景と対策

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はじめに

プリントシール機(プリ機)といえば、10代・20代の若年女性を中心に長年親しまれてきたアミューズメント機器です。しかし近年、こうした機器もインターネットに常時接続されるIoT機器の一つとなっており、サイバー攻撃のリスクと無縁ではいられなくなっています。

プリ機最大手のフリュー株式会社が、NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)と連携し、設置済み機器にサイバー防衛機能を追加する方針を打ち出しました。利用者の写真データや会員情報を守るためのこの取り組みは、IoT時代のセキュリティ対策として注目に値します。本記事では、その背景にあるIoT機器への脅威の実態と、通信一体型セキュリティの仕組みについて解説します。

プリ機が抱えるセキュリティリスクの実態

通信機能の高度化と攻撃対象の拡大

現在のプリントシール機は、単にシール写真を印刷するだけの機器ではありません。撮影した写真をクラウドサーバーに送信し、専用アプリ「ピクトリンク」を通じてスマートフォンで閲覧・共有できる仕組みが一般的です。フリューのピクトリンクは、ピーク時に約1,650万人の利用者を抱えるサービスに成長しており、大量の写真データと会員情報がネットワークを介してやり取りされています。

こうした通信機能の高度化は利便性を大幅に向上させた一方で、プリ機がサイバー攻撃の対象となりうる「IoT機器」としての側面を強めています。全国のアミューズメント施設に設置された機器が常時ネットワークに接続されている状況は、攻撃者にとって魅力的な標的となりえます。

IoT機器を狙うサイバー攻撃の急増

IoT機器へのサイバー攻撃は年々深刻化しています。チェック・ポイント・リサーチの調査によれば、IoT機器を狙ったサイバー攻撃は日本国内で前年比68%増加したとされ、日本へのサイバー攻撃全体の約40%をIoT機器への攻撃が占めていたと報告されています。

特に脅威とされるのが「Mirai」と呼ばれるマルウェアです。Miraiは、IoT機器の初期設定のIDとパスワードに対して総当たり攻撃を仕掛け、乗っ取った機器をボットネットの一部として悪用します。2024年12月末から2025年初頭にかけても、Mirai由来のマルウェアによる大規模なIoTボットネット活動がトレンドマイクロにより観測されています。プリ機のような消費者向けIoT機器もこうした攻撃の対象から除外されるわけではありません。

フリューとNTTドコモビジネスの連携が意味するもの

業界シェア94%の最大手が動く意義

フリューはプリントシール機市場において圧倒的なシェアを持つ企業です。フリュー自身のプレスキットによれば、アミューズメント施設などに設置されているプリ機のシェアは極めて高く、全国で約5,700台が稼働しているとされています。この最大手企業がサイバー防衛に本格的に乗り出すことは、業界全体のセキュリティ水準を引き上げる効果が期待できます。

フリューは2026年3月期の業績予想で、プリントシール機の年間総プレイ回数が約3,100万回と前年比で増加に転じる見込みを示しています。利用回数の増加はすなわちデータ通信量の増加でもあり、セキュリティ強化のタイミングとしては合理的な判断といえるでしょう。

NTTドコモビジネスのIoTセキュリティサービス

NTTドコモビジネスは、IoT機器向けのセキュリティサービスとして「docomo business SIGN」を2025年12月から提供しています。このサービスの特徴は、セキュリティ機能が通信サービスに標準搭載されている点です。

具体的には、サービス網内で通信を監視し、脅威検知システムがIPアドレス脅威リストと照合して悪性サーバーとの通信を検査します。危険な通信が検知された場合、SIM単位で通信を遮断することが可能です。この脅威検知・遮断技術は特許を取得しています。

さらに2026年3月25日には、SIMアプレット機能の拡充が発表されました。IoT SAFEアプレットでは、機器の電源投入時にSIM内で鍵情報と証明書を自動生成し安全に保管する仕組みが提供されています。これにより、IoTデバイスの製造・運用時におけるセキュリティ管理の負荷が大幅に軽減されます。

通信一体型セキュリティの技術的な強み

閉域網による根本的な防御

NTTドコモビジネスのIoTセキュリティの根幹にあるのが「閉域網」の考え方です。インターネットを経由せず、端末からクラウドやお客さま環境までエンド・ツー・エンドでセキュアな閉域ネットワークを構築できる点が大きな強みです。

従来のIoT機器では、インターネットを経由して通信を行うため、その経路上で攻撃を受けるリスクがありました。閉域網では認証したIoTデバイス以外のアクセスを遮断できるため、不正アクセスの危険性が大幅に低減されます。プリ機に適用した場合、利用者の写真データや会員情報が公衆インターネットに晒されることなく安全に転送できるようになります。

既設機器への導入が可能な点

今回の取り組みで注目すべきは、新規設置の機器だけでなく「設置済みの機器」にもセキュリティ機能を追加する点です。IoTセキュリティにおいては、既に稼働中の大量の機器をいかに保護するかが大きな課題とされてきました。通信レイヤーでのセキュリティ対策であれば、機器本体のソフトウェアを大幅に改修することなく導入できる可能性があり、実効性の高いアプローチといえます。

注意点・展望

IoTセキュリティ制度化の動き

日本では経済産業省が「IoTセキュリティ適合性評価制度」の策定を進めており、IoT機器のセキュリティ基準が制度として整備される方向にあります。今後、アミューズメント機器を含む幅広いIoT機器に対してセキュリティ対策が義務化・推奨される可能性があり、フリューの今回の動きは先手を打った対応ともいえます。

消費者向けIoT機器全体への波及

プリ機のような消費者が直接利用するIoT機器のセキュリティ対策は、産業用IoTに比べて後手に回りがちでした。しかし、利用者の個人情報(写真データや会員情報)を扱う以上、対策の重要性は産業用と変わりません。今回のフリューの取り組みは、アミューズメント業界やリテール業界における消費者向けIoT機器のセキュリティ対策の先行事例として、他企業への波及効果が期待されます。

一方で、通信一体型セキュリティの導入にはコストが伴います。中小規模の事業者がどこまで追随できるかは、サービスの価格設計やセキュリティ投資に対する意識の変化にかかっているでしょう。

まとめ

フリューがNTTドコモビジネスと連携し、プリントシール機にサイバー防衛機能を追加する動きは、IoT時代の消費者向け機器セキュリティにおける重要な一歩です。IoT機器を狙ったサイバー攻撃が急増する中、全国で数千台が稼働するプリ機の写真データや会員情報を守ることは喫緊の課題でした。

NTTドコモビジネスが提供する閉域網や脅威検知・遮断技術を活用した通信一体型セキュリティは、既設機器にも導入可能な実用的なアプローチです。今後のIoTセキュリティ制度化の動きも踏まえ、アミューズメント業界に限らず消費者向けIoT機器を扱う企業全体にとって、参考となる取り組みといえるでしょう。

参考資料:

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