ガソリン急騰190円台へ――イラン情勢と円安の二重苦
はじめに
資源エネルギー庁が2026年3月11日に発表したレギュラーガソリンの全国平均小売価格(3月9日時点)は、1リットルあたり161.8円でした。前週比3.3円の上昇で、4週連続の値上がりです。
しかし、これはまだ序章に過ぎません。石油元売り各社は3月12日から卸売価格を1リットルあたり約26円引き上げることを決定しました。消費税を含めると小売価格は30円近く上昇する見込みで、レギュラーガソリンは190円台に突入する可能性が高まっています。米国・イスラエルによるイラン攻撃に端を発する原油高と、1ドル158円台の円安が、日本の消費者を直撃しています。
原油価格急騰の構造
イラン攻撃とホルムズ海峡封鎖
ガソリン価格高騰の最大の要因は、原油価格の急騰です。2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始して以降、原油市場は激変しました。
WTI原油先物価格は攻撃前の2月27日時点で1バレル67ドルでしたが、3月9日には一時119ドル台を記録。わずか10日間で約78%の上昇です。アジア市場の指標となる中東産ドバイ原油も3月11日時点で110ドル台で推移しており、攻撃前比で62%上昇しています。
原油価格を押し上げている直接的な要因は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖です。世界の原油輸送の要衝であるこの海峡は、イランの報復措置により通常の航行が困難になっています。日本郵船や川崎汽船など国内大手海運会社も通峡を停止しました。
サウジアラビアなど産油国の生産削減
ホルムズ海峡の閉鎖は、産油国の輸出にも直接影響を与えています。サウジアラビア、UAE、クウェート、イラクを含む主要産油国は、海峡封鎖の影響で合計1日あたり600万バレル以上の生産を事実上削減せざるを得ない状況です。
ただし、3月10日には国際社会の協調的な供給対応策が功を奏し、WTI原油は80ドルを割り込む場面もありました。価格は乱高下を繰り返しており、市場は極めて不安定な状態が続いています。
円安が調達コストを増幅
1ドル158円台の重み
原油価格の高騰に加え、1ドル158円台という歴史的な円安が日本の原油調達コストをさらに押し上げています。原油は国際市場でドル建てで取引されるため、円安が進むほど日本の輸入コストは膨らみます。
仮に原油価格が同じ110ドルでも、1ドル130円と158円では円換算の調達コストに約22%の差が生じます。原油高と円安という二重の負担が、ガソリン価格に直接反映される構造です。
日本の中東依存度という構造的弱点
問題をさらに深刻にしているのが、日本の原油輸入における中東依存度の高さです。日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、そのうち約9割がホルムズ海峡を経由しています。
三井住友DSアセットマネジメントの分析によれば、ホルムズ海峡は日本のエネルギー安全保障における「アキレス腱」です。ニッセイ基礎研究所の試算では、ドバイ原油が110ドルまで上昇した場合、ガソリン小売価格は1リットル204円前後まで急騰する計算になります。
家計・経済への影響と政府の対応
石油元売り各社の卸値引き上げ
ENEOSなど石油元売り各社は、3月12日出荷分からガソリン卸売価格を1リットルあたり約26円引き上げることを系列のガソリンスタンドに通知しました。消費税を含めた小売価格への反映は数日から1週間程度のタイムラグがあるため、来週以降にガソリンスタンドの店頭価格が大幅に上昇する見通しです。
朝日新聞の報道によれば、値上げ前日の3月11日には全国各地のガソリンスタンドで車の行列が発生しました。消費者の駆け込み需要が顕在化しています。
政府の補助金制度再導入
高市政権は、ガソリン価格の抑制に向けた対策を急いでいます。令和8年3月11日の首相会見では、イラン情勢に関する政府の対応方針が示されました。
具体的には、石油元売り会社に補助金を支給し、卸売価格に反映させることで小売価格を抑制する制度の再導入が検討されています。政府の目標は、レギュラーガソリンの全国平均価格を1リットルあたり170円程度に抑えることです。この制度は3月19日出荷分から適用される見込みです。
また、国家備蓄の放出も選択肢として挙がっています。現在の備蓄量は、国家備蓄146日分、民間備蓄101日分、産油国共同備蓄7日分の合計254日分を確保しています。ただし、民間備蓄の大半は精製・流通に組み込まれた在庫であり、全量を危機対応に回せるわけではありません。
注意点・今後の展望
価格上昇は長期化の恐れ
ホルムズ海峡の正常化には時間がかかるとの見方が市場では支配的です。イランとの軍事衝突が長期化すれば、原油価格の高止まりが続き、ガソリン価格は200円を超える事態も想定されます。
また、ガソリン価格の上昇は輸送コストの増加を通じて、食料品や日用品など幅広い物価に波及します。日本経済全体にとって、原油高・円安・景気減速の「三重苦」となるリスクが指摘されています。
消費者にできる対策
当面の対策として、エコドライブの実践や不要な外出の抑制が有効です。また、自治体によっては独自の燃料費補助制度を設けているケースもあるため、居住地域の支援策を確認することをおすすめします。EV(電気自動車)やハイブリッド車への乗り換えを検討する動きも加速する可能性があります。
まとめ
ガソリン価格の急騰は、イラン軍事衝突による原油高と円安という二つの要因が重なった結果です。石油元売り各社の卸値26円引き上げにより、来週以降は190円台への突入が確実視されています。
政府は補助金制度の再導入と備蓄放出で170円程度への抑制を目指していますが、中東情勢の先行きは不透明です。日本のエネルギー安全保障における中東依存度の高さという構造的課題が、改めて浮き彫りになっています。
参考資料:
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