赤沢経産相が米に15%関税回避を要請、日米交渉の焦点
はじめに
2026年3月6日、訪米中の赤沢亮正経済産業相はラトニック米商務長官と約2時間にわたる会談を行い、トランプ政権が2月に発動した全世界一律10%の追加関税について、15%への引き上げ対象から日本を除外するよう要請しました。
この会談の背景には、2月20日の米最高裁による相互関税の違憲判決と、それに伴うトランプ政権の通商法122条への転換という大きな政策変更があります。日本は昨年7月の合意で5500億ドル(約86兆円)の対米投資を約束しましたが、その前提条件が大きく変わりつつあります。本記事では会談の内容と日米関税交渉の最新動向を解説します。
赤沢・ラトニック会談の内容
15%関税からの除外要請
赤沢経産相は3月6日午前、ワシントンの米商務省でラトニック商務長官と会談しました。会談の最大の焦点は、通商法122条に基づく追加関税の扱いです。
通商法122条は、大統領が国際収支赤字への対処を目的として、150日間を限度に最大15%の関税を課すことを認めています。現在は10%で発動されていますが、上限の15%まで引き上げられる可能性があり、赤沢氏はこの引き上げ対象から日本を除外するよう求めました。
赤沢氏は会談後、記者団に対し「日本の扱いが昨年の日米間の合意より不利になることがないよう申し入れた」と説明しました。ただし、米国側からの具体的な回答は明らかにされていません。
5500億ドル対米投資の第2弾協議
会談ではもう一つの重要テーマとして、5500億ドル規模の対米投資の第2弾についても協議が行われました。2月にトランプ大統領が表明したガス火力発電、原油輸出、人工ダイヤモンドなどの分野への投資推進が再確認されました。
この対米投資は、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)を通じて日本企業の投資を支援する枠組みで、半導体、医薬品、鉄鋼、重要鉱物、エネルギー、自動車、AI・量子など経済安全保障上重要な分野が対象です。
関税政策をめぐる法的・政治的背景
最高裁の違憲判決と通商法122条への転換
今回の会談を理解するには、2月以降の急激な政策転換を押さえる必要があります。2月20日、米連邦最高裁はトランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課した相互関税を違憲と判断しました。最高裁は「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と断じ、関税の徴収停止を命じました。
トランプ大統領はこれに対抗し、通商法122条に根拠を切り替えて全世界一律10%の関税を2月24日に発動しました。通商法122条は150日間という期限があり、15%が上限です。相互関税時代に国ごとに異なる税率を課していた仕組みから、一律課税に変わったことで、日本にとっては状況が変化しました。
日本にとっての影響
昨年7月の日米合意では、日本は5500億ドルの対米投資と引き換えに、自動車関税を27.5%から15%に引き下げる特例措置を獲得しました。しかし最高裁判決でIEEPA関税が無効となり、代わりに通商法122条で一律10%が課されたことで、合意の前提が変わっています。
赤沢氏が今回求めた「15%への引き上げ除外」は、少なくとも現行の一律10%の水準を維持し、日本の立場が昨年の合意より悪化しないようにするための交渉です。
今後の展望と注意点
3月19日の日米首脳会談に向けて
今回の赤沢・ラトニック会談は、3月19日に予定されている日米首脳会談の地ならしと位置づけられます。首脳会談では関税問題の包括的な解決策が議論される見通しで、それまでに実務レベルでの調整が続く見込みです。
通商法122条の期限問題
通商法122条に基づく関税は150日間が上限であり、議会の承認なしには延長できません。発動日の2月24日から起算すると、7月下旬には期限を迎えます。トランプ政権がその後どのような法的根拠で関税政策を維持するかが注目されます。
違憲関税の還付問題
最高裁判決で違憲とされた相互関税の徴収額は1660億ドル(約26兆円)に達しており、その還付問題も日本企業に大きな影響を及ぼします。リコーなどの日系企業も還付の対象となる見通しです。
まとめ
赤沢経産相による15%関税回避の要請は、目まぐるしく変化する米国の通商政策の中で日本の利益を守るための重要な外交努力です。最高裁の違憲判決、通商法122条への転換、5500億ドル投資との関連など、複雑に絡み合う論点を一つ一つ整理しながら、3月19日の首脳会談に向けた交渉が続きます。
日本企業にとっては、関税率の変動リスクに加え、違憲関税の還付や通商法122条の期限など、複数の不確定要素を注視する必要があります。
参考資料:
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