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by nicoxz

トランプ関税の不透明感が日経平均に与える影響を読み解く

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はじめに

2026年2月下旬、世界の金融市場はトランプ米大統領の関税政策をめぐる不透明感に大きく揺さぶられています。2月20日に米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を違憲と判断したことで一時的に市場は安堵感を示しましたが、トランプ大統領が即座に通商法122条に基づく新たな関税措置を打ち出したことで、不確実性がさらに高まりました。2月23日の米国株式市場ではダウ工業株30種平均が約800ドル下落し、その影響は連休明けの東京市場にも波及する構図となっています。一方で、高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」への期待が日本株の下支え要因として注目されています。本稿では、トランプ関税の最新動向と日本の株式市場への影響を多角的に分析します。

IEEPA違憲判決とトランプ新関税の衝撃

米最高裁が下した歴史的判断

2026年2月20日、米連邦最高裁判所は6対3の判決で、トランプ大統領がIEEPAに基づいて各国に課していた関税について「大統領権限の逸脱」にあたると判断しました。IEEPAは1977年に成立した法律であり、国外の「特異で重大な脅威」に対処するために貿易を「規制」する権限を大統領に与えているものの、関税やその他の税に関する言及は一切ありません。最高裁はこの点を重視し、IEEPA関税の法的根拠を完全に否定しました。

この判決により、2025年以降に課されてきた相互関税やフェンタニル関連の関税など、IEEPAに基づく全ての関税措置が法的根拠を失いました。ジェトロの報告によれば、これまでに徴収された関税総額は約1,330億ドル(約21兆円)に上り、この還付の行方も大きな焦点となっています。Bloombergの報道では、リコーなどの日系企業も還付対象となる可能性が指摘されており、日本企業にとっても「情報整理」が急務となっています。

通商法122条という「代替カード」

しかし、最高裁判決からわずか数時間後、トランプ大統領はホワイトハウスで記者会見を開き、1974年通商法122条に基づく全世界一律10%の関税を課す大統領令に署名すると表明しました。通商法122条は、国際収支の深刻な赤字への対処を目的として、大統領が事前調査なしに最大15%の関税を課す権限を認める規定です。

注目すべきは、翌21日にはトランプ大統領がこの関税率を15%に引き上げる意向を示したことです。時事通信によれば、新たな10%関税は2月24日から発動される予定で、実質的にはIEEPA関税の「代替措置」として位置づけられています。ただし、122条には最長150日間(約5カ月間)という時限制限があり、延長には議会の承認が必要です。この期限は2026年7月中旬に到来するため、その後の関税政策がどうなるかは極めて不透明な状況にあります。

野村総合研究所の分析では、122条に基づく関税は過去に一度も発動された前例がなく、実務上の運用に関する判例も行政慣行も存在しないと指摘されています。さらに、米シンクタンクのケイトー研究所は、150日の期限到来後にトランプ政権が新たな国際収支の緊急事態を宣言して122条を再発動する可能性について「重大な権力分立上の懸念がある」と述べており、法的な不確実性は長期化する可能性があります。

米国株急落と日本株への波及メカニズム

2月23日の米国市場で何が起きたか

2月23日(月曜日)の米国株式市場は大幅に下落しました。CNBCやCNNの報道によると、ダウ工業株30種平均は約800ドル(1.66%)下落して48,804ドルで取引を終え、S&P500種株価指数は1.04%安の6,837ポイント、ナスダック総合指数は1.13%安の22,627ポイントとなりました。

この下落の主な要因は2つあります。第一に、トランプ大統領が週末に関税率を10%から15%に即時引き上げる考えを示したことで、通商政策への不安感が一気に高まりました。EU(欧州連合)は関税引き上げに対して「合意は合意だ」として強く反発し、国際的な通商摩擦の激化が懸念されました。第二に、AI関連銘柄の「恐怖売り」が再燃したことです。Motley Foolの報道によれば、AI技術による産業構造の変化を意識した「AIスケアトレード」がテクノロジー株に売り圧力を加えました。

リスク回避の動きを反映して、安全資産とされる金の価格は3.4%上昇し、1オンスあたり5,254ドルに達したとされています。

東京市場への影響と押し目買いの可能性

連休明けの2月24日の東京株式市場では、前週末の米株安の影響が懸念されていました。しかし、実際の結果は市場の予想を覆すものとなりました。日経平均株価は終値で57,321円09銭となり、前日比495円39銭高と上昇して取引を終えました。

この背景にはいくつかの要因が考えられます。米国市場の下落幅が「想定内」であったこと、日本の個別銘柄に対する押し目買いの需要が根強かったこと、そして後述する高市政権の経済政策への期待感が投資家心理を下支えしたことなどが挙げられます。IG証券のアナリストは、トランプ新関税が10%と「予想よりも低い水準」で発動されたことが、市場に一定の安心感をもたらしたと分析しています。

もっとも、CNBCが伝えたある資産運用マネージャーのコメントにある通り、「人々はトランプ大統領の小さな爆発に慣れてしまった」という状況が、市場の反応を鈍化させている面もあります。関税を巡る不透明感が続く限り、企業の設備投資や国際的なサプライチェーン計画に影響を及ぼすリスクは依然として残っています。

高市政権の積極財政と市場の期待

施政方針演説で示された「成長のスイッチ」

2月20日、高市早苗首相は第221回国会で施政方針演説を行い、「責任ある積極財政」への政策転換を改めて宣言しました。東京新聞の全文報道によれば、高市首相は「成長のスイッチを押す」というフレーズを繰り返し用い、AI・半導体、造船、量子技術、合成生物学、航空・宇宙など17の戦略分野に対して大胆な投資を進める方針を示しました。

Bloombergの報道によれば、高市首相は「挑戦しない国に未来はありません」と力強く述べ、複数年度予算や長期的な基金による投資促進策を進めるとしています。成長投資と危機管理投資は複数年度の別枠予算で運営される方針であり、従来の単年度主義から大きく転換する姿勢を鮮明にしました。

市場が評価する財政拡張の効果

2月24日の経済財政諮問会議で、高市首相は「危機管理投資、成長投資といった分野に官民協調で大胆に投資することで強い経済を実現する」と述べています。三井住友DSアセットマネジメントの分析では、高市内閣の経済対策は2026年以降の国内経済を支えるとの見方が示されており、中長期的には株式市場にとって追い風になると評価されています。

2025年11月に策定された総合経済対策は、一般会計で17.7兆円、減税特別会計を含めた国費等で21.3兆円、財政投融資を加えた国の財政措置等で25.5兆円という大規模なものでした。第一生命経済研究所の熊野英生氏は、高市政権の拡張的な財政スタンスと金融緩和の維持方針が、主力株への押し目買いを誘う要因になりうると分析しています。

ただし、同研究所の星野卓也氏は、規模を含めた経済対策の内容はすでに市場に織り込まれている可能性を指摘し、今後は個々の施策の実効性が問われる段階に入っていると指摘しています。

注意点・展望

今後の日本株市場を占ううえで、注視すべきポイントがいくつかあります。

第一に、通商法122条に基づく関税の行方です。150日の期限である2026年7月中旬までにトランプ政権がどのような手段を講じるかによって、世界の通商環境は大きく変わる可能性があります。SOMPOインスティチュート・プラスの分析では、122条の運用自体に法的な挑戦が行われる可能性も示唆されています。

第二に、日米通商交渉の再構築です。2025年7月の日米合意ではIEEPA関税率が15%に設定されていましたが、その法的根拠が消滅したことで、日米間の通商関係は白紙に戻ったも同然です。新たな枠組みの構築には時間を要する見通しで、この不確実性が日本の輸出企業の経営判断に影響を与えかねません。

第三に、イエール大学予算研究所の推計によれば、関税による2026年の米国実質GDPへの影響はマイナス0.4ポイント、失業率は0.6ポイント上昇するとされており、米国経済の減速が日本経済にも波及するリスクがあります。

まとめ

トランプ関税をめぐる不透明感は、IEEPA違憲判決と通商法122条への移行という歴史的な転換を経て、新たな局面に入っています。2月23日の米国株急落は一時的に東京市場にも不安を広げましたが、2月24日の日経平均は底堅さを見せ、高市政権の積極財政への期待が一定の下支え効果を発揮しました。とはいえ、122条の150日期限や日米通商関係の再構築など、中長期的な不確実性は依然として高い状況です。投資家にとっては、トランプ政権の政策動向と高市政権の経済政策の実効性を注意深く見極めながら、過度に楽観的にも悲観的にもならない冷静な判断が求められる局面といえるでしょう。

参考資料:

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