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by nicoxz

USTR代表が示す関税の行方、相互関税水準への回帰とは

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はじめに

米通商代表部(USTR)のジャミソン・グリア代表は2026年2月25日、FOXビジネスのインタビューで、世界各国・地域に課す関税率を将来的に相互関税を適用していた従来の水準に戻す考えを示しました。

この発言の背景には、2月20日の米連邦最高裁による相互関税の違憲判決と、その代替として24日に発動された通商法122条に基づく10%の追加関税という一連の動きがあります。トランプ政権の通商政策は法的な転換点を迎えており、グリア代表の発言は今後の方向性を示す重要なシグナルです。

本記事では、違憲判決から代替関税への流れ、グリア代表の発言の意味、そして日本を含む各国への影響を解説します。

最高裁の違憲判決 ── 何が変わったのか

IEEPA関税が無効に

米連邦最高裁は2月20日、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に発動した相互関税について「大統領の権限を超えている」として違憲判決を下しました。相互関税の法的根拠が否定されたことで、2月24日をもって関税の徴収が停止されました。

最高裁は、IEEPAに基づく関税が「範囲・金額・期間のいずれも無制限であり、大統領に委任された権限の範囲を超えている」と判断しました。議会の承認なく大統領が広範な関税権限を行使することの限界を、司法が明確に示した歴史的判決といえます。

通商法122条への緊急転換

違憲判決を受けたトランプ政権は、即座に代替手段に移行しました。大統領は24日、1974年通商法122条に基づき、世界各国・地域に対して150日間限定で10%の追加関税を発動する大統領令に署名しました。

通商法122条は「巨額かつ重大な国際収支赤字への対処」を目的として、大統領が150日間を限度に15%を超えない範囲で関税を賦課することを認める条項です。議会の承認があれば期間の延長も可能ですが、IEEPA関税と比べると大幅に権限が制約されています。

グリア代表の発言 ── 「相互関税並みに戻す」の真意

段階的な関税率引き上げを示唆

グリア代表はFOXビジネスのインタビューで、現在の10%の追加関税は一時的な措置であり、将来的には各国との個別合意に基づく相互関税と同等の水準に戻す意向を示しました。「一部の国では15%に引き上げられ、他の国ではそれ以上になるかもしれない」との認識も示しています。

この発言は、通商法122条の150日間の制限内に、各国との二国間交渉を通じて新たな関税枠組みを構築する方針を示唆したものと解釈できます。

対中関税は維持の方針

グリア代表は中国に対する関税について、現行の合意水準を維持する考えを明確にしました。米中間の通商摩擦は最高裁判決後も基本的な構図が変わっておらず、中国に対する強硬姿勢は継続されるとみられます。

「過去1年間の合意は真の合意」

グリア代表は「過去1年間に締結したすべての協定は真の合意だ」とも述べ、相互関税体制のもとで各国と結んだ通商合意の有効性を強調しました。違憲判決によって合意の法的基盤は揺らいでいますが、政治的にはこれらの合意を維持・発展させる姿勢を示したことになります。

日本への影響

日米関税合意の行方

日本は2025年の日米関税合意で、相互関税を15%に引き下げる代わりに、5,500億ドル(約80兆円)規模の対米投資を約束していました。しかし、IEEPAの違憲判決により、この合意の前提が大きく変化しています。

現在は通商法122条に基づく一律10%が適用されていますが、グリア代表の発言からすると、将来的に日本に対しても15%程度の関税率が適用される可能性があります。対米投資の約束がどう取り扱われるかは、今後の日米間の協議で決まることになります。

日本企業への実務的影響

関税の法的根拠が変わったことで、日本企業にとっては既に支払った関税の還付可能性という新たな論点が浮上しています。違憲判決によりIEEPA関税が無効となった場合、過去に徴収された関税の返還が求められる可能性がありますが、最高裁は還付について明示的な判断を示していません。

日本企業は関税政策の不確実性が続く中、サプライチェーンの見直しや調達先の多角化など、中長期的なリスク管理が求められています。

注意点・展望

150日の期限と議会の動向

通商法122条に基づく関税は150日間の期限付きです。7月下旬までに議会が延長を承認しなければ、現行の10%関税は失効します。議会での議論がどう進むかが、今後の通商政策の最大の焦点となります。

トランプ政権にとっては、150日以内に各国との二国間交渉をまとめ、議会を説得して恒久的な関税枠組みを構築するという難題が待ち受けています。時間的制約の中で、どこまで実効性のある合意を積み上げられるかが問われます。

世界経済への波及

関税政策の法的基盤が揺らいだことで、通商ルールの不確実性が高まっています。各国の企業は投資判断や生産拠点の配置を慎重に検討せざるを得ず、世界経済の成長にとってマイナス要因となる可能性があります。

一方で、最高裁判決は大統領の関税権限に歯止めをかけた点で、長期的には通商政策の予見可能性を高める効果も期待できます。

まとめ

グリア代表の発言は、最高裁の違憲判決後もトランプ政権が通商政策の基本路線を変えないことを明確にしたものです。法的根拠はIEEPAから通商法122条に変わりましたが、各国に対して相応の関税を課すという方針は維持されています。

今後は150日の期限内に各国との交渉がどう進むかが最大の注目点です。日本を含む各国の企業は、関税政策の不確実性が続く中で、柔軟な対応力を維持することが重要です。

参考資料:

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