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by nicoxz

イラン親日論の限界と日本外交の現実を読み解く

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はじめに

イランは日本でしばしば「親日国」と語られます。シルクロード以来の交流、植民地支配の歴史がないこと、そして日本が米欧とは異なる対話重視の姿勢を取ってきたことが、その背景です。実際、外務省は2023年時点でも日本とイランが90年以上にわたる伝統的な友好関係を発展させてきたと整理しています。

ただし、2026年3月のホルムズ海峡危機が示したのは、象徴的な友好と実務的な関係の強さは別だという現実です。経済交流は制裁で大きく細り、政府間対話は続いても、高位の往来や議員外交が厚みを保っているとは言いにくい状況です。この記事では、「親日」というイメージの土台がなぜもろくなっているのかを、経済、外交、安全保障の三つの面から整理します。

「親日」の土台はどこにあったのか

歴史的な好意は本物だが、それだけでは関係は維持できない

日イラン関係には確かに歴史があります。外務省によると、2019年は国交樹立90周年で、両国は記念行事を実施しました。外交青書も、シルクロードを通じた交流や伝統的な友好関係に言及しています。2019年には安倍晋三首相がイランを訪問し、2023年には岸田文雄首相が国連総会に合わせてライシ大統領と会談するなど、日本は対話の回路を絶やさない姿勢を示してきました。

このため、日本は米国のような敵対国でも、欧州のような制裁主導国でもないという見られ方をイラン側から受けやすいです。日本企業や日本文化への好意も一部で根強く、こうした積み重ねが「親日国」という表現の根拠になってきました。

しかし、国家間関係は好意だけでは動きません。核問題、金融制裁、海上安全保障のような高コスト分野では、友好イメージより制度と利害が優先されます。歴史的な親近感は、危機時に対話の入り口にはなっても、経済や安全保障の制約を消してはくれません。

交流の中身は「首脳外交」から「細い実務対話」へ

関係の変化は外交日程に表れています。2019年には首相訪問がありましたが、近年の外務省の対イランページに並ぶのは、2025年12月の外相電話会談、同月の局長級協議、2026年3月の外相電話会談といった実務レベルの接触が中心です。2026年3月9日の茂木外相とアラグチ外相の電話会談でも、日本側はホルムズ海峡の航行の自由と安全を脅かす行動の停止を強く求めています。

つまり、対話は切れていませんが、関係を押し上げる大型案件や象徴的往来が増えているわけでもありません。議員外交もゼロではないものの、在イラン日本大使館が伝える近年の動きは大使面談や限定的な交流が中心です。かつてのように、議連や要人往来が関係全体を底上げする局面ではなくなっています。

経済交流はなぜ細ったのか

制裁で貿易は激減し、「再開期待」だけが先行している

経済面の変化はさらに明確です。外務省の基礎データによると、日イラン貿易総額は2011年の145.7億ドルから2021年には1.08億ドルへ急減しました。対日輸出は原油取引の縮小で111.7億ドルから0.38億ドルへ落ち込み、日本からの輸出も20.8億ドルから0.70億ドルまで縮みました。これは単なる景気循環ではなく、米国の対イラン制裁と金融規制が商流そのものを細らせた結果です。

2025年には情勢がさらに厳しくなります。G7は10月、イラン制裁のスナップバックを支持し、日本も9月29日に外為法に基づく資産凍結や支払規制などを再適用しました。制裁が再強化されるなかで、企業が安心して決済し、保険をかけ、長期案件に投資するのは容易ではありません。

ジェトロとテヘラン商工会議所は2025年12月に、制裁解除後を見据えた企業間協力の覚書を結びました。ですが、このMOU自体が現状を物語っています。協力の前提が「制裁解除後」であり、足元の本格的な取引拡大ではないからです。友好ムードは残っていても、経済交流はなお「将来の可能性」を語る段階にとどまっています。

エネルギー関係も「深い縁」から「高い依存リスク」へ変質した

かつての日イラン関係は、原油と資源外交が太い柱でした。ところが現在の日本は中東全体への依存は高い一方、イランとの直接取引は限定的です。JOGMECによると、日本は国家備蓄142日分、民間備蓄85日分、産油国共同備蓄8日分を持ちます。備蓄が厚いのは、それだけ中東依存とホルムズ海峡リスクが大きいからです。

2026年3月、経産省はイラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部を設置しました。政府は「日本に直ちに影響はない」と説明しつつ、放出準備や供給確保を急ぎました。日本にとって重要なのは、イランとの友好そのものよりも、海峡の通航が安定することです。ここに、関係の重心が「二国間の親密さ」から「地域リスク管理」へ移った現実があります。

注意点・展望

注意したいのは、「親日だから日本だけは特別扱いされる」と考えることです。2026年3月の外相電話会談では、日本はイランに対し、海峡の安全確保と攻撃停止を求める立場を明確にしました。日本も核問題ではG7と足並みをそろえ、制裁の再適用を実施しています。価値観や安全保障上の立場がぶつかる場面では、日本も例外ではありません。

今後の展望は二つに分かれます。第一に、核協議や制裁が緩和へ向かえば、日本は人道、環境、防災、医療、非制裁分野を起点に関係を立て直す余地があります。第二に、ホルムズ海峡の緊張が長引けば、日本にとってのイランは「友好国」より「シーレーン安定の鍵を握る当事国」としての意味合いが強まります。後者が続く限り、議員外交や経済交流だけで関係を底上げするのは難しいでしょう。

まとめ

日本とイランの間に歴史的な友好の蓄積があることは確かです。ですが、その土台だけで現在の中東危機や制裁下の実務関係を支えることはできません。経済交流は大きく縮小し、外交接点は維持されていても、関係を押し広げる力は弱くなっています。

ホルムズ海峡危機が示したのは、日本にとってイランが「親日国」である以上に、エネルギー安全保障を左右する重要な隣接当事者だということです。これから必要なのは、友好神話に依存することではなく、制裁、核問題、通航安全、非制裁分野の協力を分けて冷静に管理する現実的な外交です。

参考資料:

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