JCBとりそながUWB決済を開発、スマホ不要の新時代へ
はじめに
キャッシュレス決済の進化が止まりません。QRコード決済やタッチ決済が普及する中、次の段階として注目されているのが「スマホすら取り出さない決済」です。JCBとりそなホールディングス(HD)は、超広帯域(UWB)無線技術を活用し、バッグやポケットにスマートフォンを入れたまま決済が完了する仕組みの開発を進めています。2028年度の商用化を目指すこのプロジェクトは、キャッシュレス決済の利便性をさらに一段階引き上げる可能性を秘めています。
UWB決済とは何か
超広帯域無線の仕組み
UWB(Ultra Wide Band)は、非常に短いパルス信号を送受信し、その到達時間差を利用して相手との距離を高精度で推定できる無線技術です。iPhoneやAndroid端末にもすでに搭載されており、AirTagなどの紛失防止タグでも利用されています。
従来のBluetooth(BLE)と比較して、UWBは距離推定の精度が格段に高いのが特徴です。BLEでは数メートル単位の誤差が生じることがありますが、UWBでは数十センチ単位の精密な測位が可能です。この精度の高さが、決済のセキュリティを担保する重要な要素となります。
「タッチしないタッチ決済」の実現方法
JCB、りそなHD、そして決済端末メーカーのベスカは、2024年1月に「タッチしないタッチ決済™」プロジェクトに関する戦略的パートナーシップを締結しました。このプロジェクトでは、BLEとUWBの2つの通信技術を組み合わせて使います。
具体的な流れは以下のとおりです。まず、顧客のスマートフォンにインストールされた決済アプリがBLEで店舗の端末を検知します。次に、UWBで顧客の正確な位置を特定し、レジの前にいることを確認します。そして、端末側で顧客情報を照合し、決済処理が実行されます。顧客はスマートフォンを操作する必要がなく、画面のロック解除すら不要です。
次世代決済がもたらす変化
店舗側のメリット
この技術は単なる決済手段の進化にとどまりません。店舗側には大きなメリットがあります。顧客が来店した時点で情報を把握できるため、過去の購買履歴に基づいたVIP向けサービスや、その場で興味を持っている商品に応じた優待・クーポンの配信が可能になります。
りそなHDは約50万社の法人顧客基盤を持ち、中小企業との広いネットワークを確立しています。このネットワークを活かし、大手チェーンだけでなく中小店舗への普及も視野に入れています。2026年度からは大手飲食チェーンなど複数社と組んで実証実験を行う計画です。
QRコード・タッチ決済との比較
現在主流のQRコード決済では、スマホを取り出してアプリを起動し、QRコードを表示する操作が必要です。タッチ決済でもスマホやカードを端末にかざす動作が求められます。UWB決済はこれらの操作を完全に不要にし、「手ぶら」に近い感覚での買い物を実現します。
一方で、NTTドコモとソニーも「おサイフケータイのタッチレス対応」として、UWBとFeliCa技術を組み合わせた実証実験を進めています。JCBとイマーゴも「近づいてチェック」プロジェクトとして、UWBとBLEを活用した店頭体験の開発を行っています。複数の企業が同じ方向を目指しており、次世代決済の実現は時間の問題といえます。
注意点・展望
セキュリティ上の課題
UWB決済が普及するためには、いくつかの課題を乗り越える必要があります。まず、本人確認の精度です。スマホを持っている人が本当に決済を意図しているのかを正確に判定する仕組みが求められます。混雑した店内で他の顧客と取り違えるリスクを排除しなければなりません。
また、UWBに対応したスマートフォンの普及率も重要です。現在、UWBを搭載しているのはiPhone 11以降やSamsung Galaxy S21以降など、比較的新しいモデルに限られます。2028年度の商用化時点では対応端末がさらに増える見込みですが、すべてのユーザーが利用できるわけではありません。
2028年度の商用化に向けて
JCBとりそなは近く事業提携で正式に合意する見通しです。2026年度から始まる大手飲食チェーンとの実証実験の成果が、商用化の成否を左右することになります。日本発の国際カードブランドであるJCBが主導するこのプロジェクトは、海外展開の可能性も含め、日本のキャッシュレス決済の競争力を高める取り組みとして注目されます。
まとめ
JCBとりそなHDが進める「タッチしないタッチ決済」は、UWBとBLEの通信技術を組み合わせ、スマートフォンの操作なしで決済を完了させる次世代の仕組みです。2028年度の商用化を目指し、2026年度から実証実験が本格化します。QRコードやタッチ決済の先を行くこの技術は、キャッシュレス社会の新たな姿を示しています。決済端末メーカーのベスカや飲食チェーンとの連携も進んでおり、今後の実証実験の動向に注目が集まります。
参考資料:
関連記事
りそな・JCBがステーブルコイン決済を開始へ、個人の買い物に対応
りそなホールディングスとJCB、デジタルガレージが2027年度にステーブルコインによる個人決済サービスを実用化します。企業間送金から個人消費へ広がる次世代決済の仕組みと影響を解説します。
PayPayが東証を素通りしナスダック上場した理由と戦略
PayPayが東証を選ばず米ナスダックに上場して時価総額約2兆円を達成した背景には、フィンテック企業への高いバリュエーション・迅速な審査プロセス・Visa提携で狙う米国市場への本格進出という三つの明確な戦略的理由がある。Arm上場の成功体験を活かしたソフトバンクグループの上場価値最大化戦略を詳しく解説する。
キャッシュレスお小遣い革命、Revolut参入で決済額12倍の衝撃
英フィンテック企業Revolutが日本で提供する子ども向けキャッシュレスサービスの決済額がわずか1年で12倍に急増しました。現金手渡しが約9割を占めてきた日本の伝統的なお小遣い文化を大きく変えるおこづかいDXの現状と課題、そして親子の金融リテラシー教育への具体的かつ多様な影響をわかりやすく解説します。
PayPay米ナスダック上場、公開価格16ドルの背景
ソフトバンクグループ傘下のPayPayが米ナスダックに上場し、公開価格は仮条件17〜20ドルを下回る16ドルに決定。中東情勢の緊迫化でロードショーが延期を余儀なくされたことが影響しました。時価総額は約107億ドル(1.7兆円)規模にとどまり、日本最大のフィンテック企業の今後の展望とIPOの詳細を解説します。
三井住友カード初の生え抜き社長誕生へ、その意味と展望
三井住友カードの社長に佐々木丈也副社長が昇格へ。1967年の創業以来初となる生え抜き社長の誕生が、キャッシュレス競争激化の中で持つ意味を解説します。
最新ニュース
エアコン「2027年問題」省エネ基準強化で価格は数万円上昇か
2027年度から家庭用エアコンの省エネ基準が大幅に強化され、低価格帯モデルが市場から消える「2027年問題」が注目を集めている。普及機種で数万円の値上がりが見込まれる一方、年間電気代の削減で長期的には元が取れる可能性も。新基準の中身と買い替え判断のポイントを解説。
半導体メモリー不足が長期化、家電や車に波及
AI向け高帯域メモリ(HBM)への生産シフトにより、DRAMの供給不足が2027年まで長期化する見通しだ。Samsung・SK Hynix・Micronの米韓3社による寡占構造のなか、増産ペースは需要に追いつかず、家電や自動車の生産コスト上昇が懸念される。ホルムズ海峡封鎖によるナフサ高騰も重なり、半導体産業の構造的リスクを読み解く。
技能実習後の大都市流出が深刻化、地方8県の現実
技能実習を終えた外国人材の約半数が青森・島根など地方8県から大都市圏へ流出している実態が明らかになった。特定技能への移行時に転職の自由が生まれることで賃金格差が人材移動を加速させる構造を分析。2027年施行の育成就労制度による転籍制限や、茨城・群馬など流出率が低い地域の成功要因、賃上げ以外の定着策まで多角的に解説する。
国債利払い費が2035年度に45兆円へ急膨張の衝撃
財務省が公表した試算では、長期金利の上昇が続いた場合、国債の利払い費が2035年度に45.2兆円と現在の3倍超に達する。国債残高1100兆円超を抱える日本の財政運営は「金利のある世界」で新たな局面を迎えており、プライマリーバランス黒字化の裏で膨らむ利払い負担の構造的リスクを読み解く。
日産がEVモーターでレアアース9割減を実現した背景と意義
日産自動車が新型リーフのEVモーターで重希土類の使用量を9割削減し、ミネベアミツミもスマホ部品でジスプロシウムフリーを達成した。中国のレアアース輸出規制が強まるなか、日本の製造業が推進する「脱レアアース」技術の最前線と経済安全保障上の意義を多角的に解説する。