59歳カズJ3福島復帰の裏側、営業力が支えるスポーツ地方創生
はじめに
サッカー元日本代表の三浦知良選手、通称「カズ」が2026年シーズンからJ3福島ユナイテッドFCに加入し、5年ぶりにJリーグの舞台に復帰しました。59歳にしてなお現役を続けるカズの加入は大きな話題を呼びましたが、その裏側には、運営会社スポーツX株式会社の地道な営業活動と、スポーツを通じた地方創生への強い意志がありました。
カズ招聘を実現させた「1日3件の商談」を10年間続けてきた営業力とは何か。そして福島ユナイテッドFCが描くスポーツを軸とした地域活性化の新モデルとは何か。本記事では、その全貌を解説します。
カズ5年ぶりのJリーグ復帰と歴史的記録更新
横浜FCからの期限付き移籍
2025年12月30日、福島ユナイテッドFCは三浦知良選手の横浜FCからの期限付き移籍加入を正式発表しました。移籍期間は2026年6月30日までとされています。カズにとっては2021年以来5年ぶりのJリーグ復帰であり、初めてのJ3クラブへの所属です。
加入にあたりカズは「全力でプレーすることをお約束いたします」とコメントを発表しました。J3というカテゴリーにこだわらず、チームの姿勢や環境を重視した決断だったとされています。
最年長出場記録を次々更新
2026年2月7日、秋春制移行に伴う特別大会「明治安田J2・J3百年構想リーグ」の開幕戦で、カズはJ2ヴァンフォーレ甲府を相手に先発出場を果たしました。この出場により、Jリーグ公式戦の最年長出場記録を更新しています。
さらに3月8日、福島のホームで行われた長野戦にも途中出場し、自身の持つ記録を59歳10日にまで伸ばしました。2月26日に59歳の誕生日を迎えた際には、福島県知事を表敬訪問し「1日でも長くピッチに立てるよう努力したい」と決意を語っています。
なぜJ3福島を選んだのか
カズがJ3福島を選んだ理由として、チームの「熱い気持ち」「コンセプト」「サッカーの質」「練習環境」の全てが揃っていた点が挙げられています。福島ユナイテッドFCは前シーズンにリーグ屈指の得点力を誇る攻撃的サッカーを展開しており、寺田周平監督のもとでチーム改革が進んでいました。
このような魅力的な環境を整えた背景には、2024年から運営に参画したスポーツX株式会社の存在があります。
スポーツXと「1日3商談」の営業力
藤枝MYFCから始まったクラブ経営の道
スポーツX株式会社は京都市に本社を置くスポーツクラブ経営企業です。代表取締役社長の小山淳氏は、かつて藤枝MYFCを創業した実績を持ち、Jリーグクラブのインキュベーション(育成)事業を主軸としています。2017年の設立以来、おこしやす京都AC、みちのく仙台FC、そして福島ユナイテッドFCと複数のプロサッカークラブの運営に携わってきました。
小山氏は2024年4月に福島ユナイテッドFCの代表取締役CEOに就任し、クラブの環境構築やチーム強化、地域に密着したホームタウン活動に本格的に取り組んでいます。
10年間毎日3件以上の商談を続けた執行役員
カズ招聘の裏側で重要な役割を果たしたのが、スポーツXの執行役員・高橋純一氏です。高橋氏は一橋大学を卒業後、東京電力に入社し、オール電化の提案営業や電気工事の申請受付などを経験。2012年に藤枝MYFCに転じ、経営企画部門で事業・財務計画の立案や法人営業に携わりました。
高橋氏の最大の特徴は、10年以上にわたり毎日3件以上の経営者との商談を続けてきたことです。年間にして600人以上、累計では約1万人の経営者とのネットワークを構築しています。この圧倒的な営業力こそが、スポンサー獲得やクラブの財務基盤強化に直結し、カズのような大物選手を招聘できる経営体力を生み出しました。
地方のJ3クラブにとって、選手獲得だけでなくクラブ運営を支えるスポンサー企業の確保は死活問題です。高橋氏が築き上げた経営者ネットワークは、単なる営業成績にとどまらず、クラブと地域経済をつなぐ重要な基盤となっています。
福島から発信するスポーツ地方創生モデル
30名の社員が福島に移住
スポーツXの取り組みで注目すべきは、その本気度です。同社はスタッフ約30名を福島市に移住させ、総勢50名以上のフロントスタッフ体制でクラブ運営にあたっています。115坪のオフィスを拠点に、単なるサッカークラブの運営を超えた地域創造プロジェクトを推進しています。
地域特性を活かしたクラブビジョンを掲げ、サッカーを核とした「まちづくり」に取り組んでいます。年齢や性別を問わず参加できる8人制サッカーリーグ「Uリーグ」の創設も計画しており、クラブと市民の接点を増やすことで地域のにぎわい創出を目指しています。
世界初の循環型木造スタジアム構想
福島ユナイテッドFCが掲げるビジョンの象徴が、新スタジアム構想です。建築テック企業VUILDとの協業により、日本初の完全木造かつ世界初の循環型木造スタジアムの実現を目指しています。
収容人数は約5,000席を想定し、福島県産の木材を活用したHPシェル構造を採用。「式年遷宮」から着想を得た設計は、部材の解体・再利用を前提とした循環型の建築です。福島の盆地気候を活かしたパッシブデザインも取り入れ、夏の日射を遮り冬の冷風を防ぐ屋根形状が特徴とされています。
意匠設計はVUILDの秋吉浩気氏が担当し、構造・環境設計には国際的なエンジニアリングファームArupが参画。東日本大震災からの復興のシンボルとして、クラブのエンブレムに描かれた「不死鳥」の精神を体現する施設を目指しています。
スタジアムを核としたまちづくり
スポーツXは福島で、スタジアム・ホテル・温泉・再生可能エネルギー・農業・文化を融合させた統合型プロジェクトの実現を構想しています。「福島モデル」と呼ばれるこの取り組みは、スポーツクラブを起点とした未来都市の新たな原型を世界に示す挑戦です。
Jリーグ全体でも、クラブによるホームタウン活動は年間2万回以上実施されており、スポーツを通じた地域活性化は全国的な潮流となっています。その中で福島ユナイテッドFCの取り組みは、スタジアム建設から地域経済の循環まで包括的にデザインしている点で、他のクラブとは一線を画しています。
注意点・今後の展望
カズのJリーグ最年長記録は今後も更新が期待されますが、期限付き移籍の期間は2026年6月末までとされており、それ以降の動向は未定です。59歳という年齢を考えれば、出場機会は限定的になる可能性もあります。
一方で、カズの加入がクラブにもたらす効果は試合出場だけではありません。メディア露出の増加やスポンサー企業の関心向上など、クラブのブランド価値を大きく引き上げる効果が見込まれます。
木造スタジアム構想については、まだ計画段階であり、資金調達や行政との協議など多くの課題が残されています。しかし、復興のシンボルとしての意義は大きく、実現に向けた進捗が注目されます。
Jリーグは2026年から秋春制への移行を進めており、クラブ経営環境も大きく変化しています。地方のJ3クラブが持続的に成長するためには、試合の勝敗だけでなく、地域との結びつきをいかに深められるかが問われています。福島ユナイテッドFCの挑戦は、その一つの解を示すものといえるでしょう。
まとめ
59歳のカズがJ3福島ユナイテッドFCを選んだ背景には、スポーツX株式会社が築いてきた組織力と営業力がありました。10年間毎日3件以上の商談を重ねてきた高橋純一執行役員のネットワークは、地方クラブの経営基盤を支える原動力となっています。
福島ユナイテッドFCは、カズの加入という話題性にとどまらず、世界初の循環型木造スタジアム構想やスポーツを核としたまちづくりなど、地方創生の新たなモデルを提示しています。スポーツの力で地域を育む挑戦の行方に、今後も注目が集まりそうです。
参考資料:
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