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by nicoxz

長崎スタジアムシティが示す民間主導の地方創生モデル

by nicoxz
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はじめに

通信販売大手のジャパネットグループが手がける「長崎スタジアムシティ」が、開業から1年を経て着実に成果を上げています。総事業費約1,000億円という巨額の民間投資によるスポーツ複合施設は、行政に頼らない「民設民営」の地方創生モデルとして全国的に注目を集めています。

開業1年で来場者は延べ485万人を突破し、2025年8月には単月で初の黒字化を達成しました。一方で、試合がない日の集客や県外からの誘客といった課題も見えてきています。本記事では、ジャパネットが通販事業とは異なる領域で挑戦を続ける背景と、その成果・課題を詳しく解説します。

ジャパネットが1000億円を投じた理由

人口流出に危機感を抱いた経営者の決断

ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長は1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、2015年に代表取締役社長に就任しました。長崎県は人口転出超過が全国ワースト1位・2位を争う深刻な状況にあり、髙田社長は「地域創生は行政の課題だと思われがちだが、民間として本気で向き合ってみよう」との思いからスポーツ事業に参入しました。

2017年にサッカーJ2クラブのV・ファーレン長崎の経営を引き継ぎ、2020年にはプロバスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」を設立してB.LEAGUE参入を果たしています。スポーツチームの運営を通じて得た知見をもとに、スタジアムを中核とした街づくりの構想が生まれました。

行政支援なしの純民間プロジェクト

長崎スタジアムシティの最大の特徴は、行政からの財政的支援を一切受けていない点です。事業費約1,000億円は、ジャパネットグループが借り入れを含めて全額を拠出しました。全国各地で公設民営のスタジアム建設が進む中、完全民間資本による大規模スポーツ複合施設は極めて異例です。

投資回収の計画は25〜30年を見込んでおり、短期的な利益ではなく長期的な地域価値の向上を目指す姿勢が明確です。

開業1年の実績と進化する運営

485万人が来場、単月黒字も達成

2024年10月14日に開業した長崎スタジアムシティは、開業1カ月で55万人、2カ月で95万人と順調に来場者を伸ばしました。1年間の累計では延べ485万人に達し、2025年8月には単月で初の黒字化を達成しています。

施設は約2万席のサッカースタジアム、約6,000席の多目的アリーナ「HAPPINESS ARENA」、243室のホテル、オフィス、商業施設などで構成されています。平日でも約1万人が訪れるという数字は、スポーツ施設としては異例の集客力です。

日常利用を促す仕掛けづくり

スタジアムやアリーナを核とした施設運営で最大の課題は、試合のない日の集客です。長崎スタジアムシティはこの課題に対し、日常的に利用できる仕掛けを数多く整備しました。

オフィスには20社以上が入居し、商業施設にはスーパーや学習塾など生活密着型の店舗を配置しています。「年をとっても散歩したい」と語る来場者の声が象徴するように、特別なイベントがなくても人々が自然に集まる場所を目指しています。

独自コンテンツで県外からの誘客を強化

2年目のテーマの一つが、県外からの来場者の増加です。ジャパネットは自主興行のエンターテインメントコンテンツを積極的に展開しています。

その代表例が「TALK&LIVE ザ・ゴールデンステージ produced by ジャパネット」です。2025年8月から毎月開催されているこのイベントには、美川憲一さんやコロッケさんといった昭和・平成のスターが出演。平日昼間の開催にもかかわらず約1,200人の観客を集め、広島など遠方からのファンも訪れています。

チケットはジャパネットの通販カタログやアプリで販売されており、通販事業で培った顧客基盤を活用した独自の集客モデルが機能しています。2025年9月には長崎初の屋内大型音楽フェス「HAPPINESS JAM 2025」も開催され、コンテンツの多様化が進んでいます。

「失敗しても翌年進化」する事業文化

通販事業で培ったPDCAの速さ

ジャパネットグループの強みは、通販事業で磨き上げたPDCAサイクルの速さにあります。テレビ通販では視聴者の反応がリアルタイムで数字に表れるため、仮説と検証を高速で繰り返す文化が根づいています。

この文化をスタジアムシティの運営にも持ち込み、イベントの企画や施設の運用に関して、うまくいかなかったことは素早く改善し、次の施策に反映させています。年間485万人という来場者数は、こうした継続的な改善の積み重ねによるものです。

2年目は650万人を目標に

2年目となる2025〜2026年は、来場者数650万人を目標に掲げています。自主興行の音楽イベントの充実に加え、B.LEAGUE PREMIERへの参戦を見据えたアリーナの活用強化が柱です。新Bリーグの最上位カテゴリーであるB.LEAGUE PREMIERのホームアリーナ基準に準拠した設計は、将来の事業拡大を見据えた戦略的な投資といえます。

注意点・展望

収益安定化への道のりは長い

年間売上高は100〜150億円を想定していますが、1,000億円の投資回収には25〜30年かかる計画です。景気の変動やスポーツチームの成績、エンタメ市場の競争激化など、長期的なリスク要因は少なくありません。単月黒字を達成したとはいえ、安定的な収益基盤の構築はこれからです。

「長崎モデル」の横展開は可能か

長崎スタジアムシティの成功は、他の地方都市にとっても大きなヒントになります。ただし、通販で全国に顧客基盤を持つジャパネットだからこそ実現できた面もあり、このモデルをそのまま他の企業や地域が模倣できるわけではありません。各地域の特性に応じたカスタマイズが求められます。

2026年には長崎駅前に多目的広場が設置される予定で、長崎市全体の再開発との相乗効果にも期待が寄せられています。

まとめ

長崎スタジアムシティは、民間企業が本気で地方創生に取り組んだ先駆的なプロジェクトです。開業1年で485万人の来場を達成し、通販事業で培ったノウハウを活かした独自コンテンツの開発や、失敗を恐れず改善を重ねる事業文化が成果を生んでいます。

投資回収までの道のりは長いものの、スポーツとエンターテインメントの力で街を活性化させるという試みは、人口減少に悩む日本の地方都市に一つの解を提示しています。2年目以降の進化に引き続き注目です。

参考資料:

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