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by nicoxz

LNG輸送船が次々とアジアへ、中東危機で争奪戦の様相

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はじめに

液化天然ガス(LNG)を積んだタンカーが、洋上で相次ぎ行き先を欧州からアジアへ変更しています。2026年2月末に始まった中東情勢の緊迫化により、世界最大級のLNG輸出国カタールの生産が停止し、グローバルなLNG供給に深刻な影響が出ています。

欧州の調査会社ケプラーの船舶追跡情報によると、少なくとも3件のLNGカーゴが欧州からアジアへの仕向地変更を実施しました。アジアのLNG価格が急騰する中、トレーダーたちは利ざやを求めてかじを切っています。この動きが長引けば、欧州の在庫水準にも影響が及び、本格的な争奪戦に発展する可能性があります。

ホルムズ海峡危機とLNG供給の混乱

カタールのLNG生産停止

2026年2月28日、中東情勢が急変しました。イランの関連施設への軍事攻撃に対する報復として、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言しました。この影響で、世界最大級のLNG輸出国であるカタールは、国内のラス・ラファン工業都市やメサイード工業都市の施設が攻撃を受けたことを受け、LNG生産を停止しました。

ゴールドマン・サックスの分析によると、この生産停止により世界のLNG供給は短期的に約19%減少すると試算されています。ホルムズ海峡は世界のLNG輸出の約20%が通過する要衝であり、その封鎖は世界のエネルギー市場に激震を与えました。

価格の急騰

中東危機が始まって以降、欧州とアジアの天然ガス価格はともに約65%上昇し、2023年3月以来の高水準に達しています。LNGタンカーのチャーター料金も急騰し、大西洋盆地では1日あたり20万ドルを超えています。これは危機前の水準(約6万1,500ドル/日)の3倍以上です。

スポットLNG価格の急騰は、長期契約に依存しないスポット調達の比率が高い国々にとって特に深刻な問題です。

タンカーの針路転換が意味するもの

大西洋から太平洋へのシフト

欧州向けに出航したLNGタンカーがアジアへ針路を変える動きは、純粋に経済合理性に基づいています。中東からの供給が途絶えたアジア市場では、代替調達の需要が急増し、スポット価格が欧州を上回る水準に達しています。

ケプラーの分析では、約0.2百万トンのLNGカーゴが欧州からアジアへ振り替えられたことが確認されています。米国テキサス州から出航したカーゴなど、大西洋盆地と太平洋盆地の間の価格差(アービトラージ)を狙った商業的判断です。

アジアの中東依存リスクが顕在化

今回の危機で改めて浮き彫りになったのが、アジア諸国のエネルギー調達における中東依存のリスクです。日本のLNG調達先に占めるカタールの割合は約5%と限定的ですが、問題はホルムズ海峡を通過するすべてのエネルギー輸送が影響を受ける点です。

世界の海上輸送される石油の25%以上がホルムズ海峡を通過しており、LNGに限らず原油や石油製品の供給にも影響が及んでいます。日本は石油の法定備蓄として約254日分(純輸入量ベース)を確保していますが、LNGには石油のような法定備蓄の仕組みがありません。

欧州とアジアの争奪戦

欧州の在庫水準に懸念

欧州にとって深刻なのは、LNGカーゴがアジアに流れることで、自国の在庫補充が困難になる点です。欧州はロシアからのパイプラインガス供給が激減して以降、LNGへの依存度を高めてきました。冬場の暖房需要期を乗り越えた後は在庫水準が低下する傾向にあり、春から夏にかけての補充が重要です。

しかし、アジアとの間でLNGの争奪戦が起きれば、欧州も買値を引き上げざるを得ません。LNGは石油と異なり、パイプラインに依存しないため調達先の柔軟性がありますが、その分、価格競争が激しくなりやすい構造です。

世界経済への波及リスク

エネルギー価格の高騰は、世界経済全体に波及します。特に注目すべきは、ホルムズ海峡を通過する肥料原料への影響です。世界で取引される尿素の約3分の1がホルムズ海峡を通過しており、肥料価格の上昇は食料価格に直結します。

原油価格も上昇しており、1バレル100ドルに達するとの予測も出ています。日本では、エネルギー価格の上昇がインフレを加速させ、円安圧力を強める懸念も指摘されています。

注意点・展望

短期的な供給リスクと長期契約の重要性

今回の危機は、スポット調達に依存するリスクを改めて示しました。LNG購入者は、スポットカーゴを競争力のある価格で容易に調達できるという前提を見直す必要があります。長期契約による安定調達の重要性が再認識されています。

北東アジアのバイヤーが代替供給を求めることで、スポット価格は当面高止まりする見通しです。危機が長期化した場合、欧州とアジアの双方がLNG確保に動き、価格の上昇スパイラルに陥るリスクがあります。

日本のエネルギー安全保障への教訓

日本にとって、今回の事態はエネルギー安全保障の脆弱性を突きつけています。石油備蓄は法律で義務づけられていますが、LNGの備蓄制度は整備されていません。調達先の多角化や、再生可能エネルギーへの転換加速など、中長期的なエネルギー戦略の見直しが求められています。

米国やオーストラリアなど、ホルムズ海峡を経由しない調達先の比重を高めることも重要な選択肢です。

まとめ

中東情勢の緊迫化に伴うLNG供給不安は、世界のエネルギー市場に大きな混乱をもたらしています。LNGタンカーが欧州からアジアへ針路を変える動きは、市場の需給バランスの変化を象徴しています。カタールの生産停止とホルムズ海峡の通航制限により、世界のLNG供給は約19%減少する見通しです。

欧州とアジアの間でLNG争奪戦が激化する中、エネルギー調達の多角化と備蓄制度の整備が急務です。今後の中東情勢の推移と、各国のエネルギー政策の動向を注視する必要があります。

参考資料:

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