多重債務者が12年ぶり高水準、物価高とカード借金の実態
はじめに
日本信用情報機構(JICC)のデータによると、2026年1月末時点で貸金業者からの無担保・無保証での借り入れが3件以上ある人が151万人に達しました。これは2014年以来、12年ぶりの高水準です。
かつて「消費者金融問題」として社会問題化した多重債務が、形を変えて再び増加しています。背景には、長引く物価高による生活コストの上昇と、スマートフォンで簡単に借り入れができるネット融資の普及があります。本記事では、多重債務者増加の実態とリスク、そして対策を解説します。
多重債務者151万人の意味
12年ぶりの水準に
多重債務者の人数は、貸金業法の改正(2006年成立、2010年完全施行)以降、大幅に減少してきました。総量規制の導入や上限金利の引き下げにより、2010年代前半にかけて減少が続きました。
しかし、2020年代に入ってからは増加傾向に転じ、2026年1月には151万人に達しています。規制による抑制効果が薄れ、新たな借入チャネルの普及が多重債務者の増加を後押ししている状況です。
過去の「消費者金融問題」との違い
1990年代後半から2000年代前半にかけて深刻化した消費者金融問題では、多重債務者が200万人を超え、過酷な取り立てや自殺の増加が社会問題となりました。当時は年利29.2%もの高金利や、執拗な督促が横行していました。
現在は法規制が整備され、金利は年20%以下に制限されています。強引な取り立ても禁止されており、かつてのような深刻な被害は減少しています。しかし、多重債務者の数そのものが再び増加していることは、別の形で問題が生じている証拠です。
物価高が家計を直撃
生活コストの上昇
多重債務者増加の最大の要因は、2022年以降続く物価高です。食料品、光熱費、日用品の価格が軒並み上昇し、家計の支出は大幅に増えています。総務省の消費者物価指数は前年比で2〜3%台の上昇が続いており、賃上げが物価上昇に追いつかない世帯では、生活費の不足分を借り入れで補う傾向が強まっています。
特に非正規雇用者やひとり親世帯、年金生活者など、収入が限られている層ほど物価高の影響を受けやすく、借り入れに頼らざるを得ない状況に追い込まれています。
クレジットカードのリボ払いのリスク
物価高の中で増えているのが、クレジットカードの「リボルビング払い(リボ払い)」の利用です。リボ払いは毎月の支払額を一定に抑えられるため、一見すると家計管理がしやすく見えます。
しかし、リボ払いの手数料率は年15〜18%程度と高水準です。支払い残高が増えるほど利息負担が雪だるま式に膨らみ、元金がなかなか減らないという構造的な問題があります。物価高で支出が増える中、リボ払いの残高が積み上がり、返済が困難になるケースが増えています。
ネット借入の手軽さが裏目に
スマホ完結の融資サービス
近年急速に拡大しているのが、スマートフォンで完結する個人向け融資サービスです。大手消費者金融のアプリやフィンテック企業のサービスにより、本人確認から借り入れまでをオンラインで手軽に行えるようになりました。
来店不要、最短即日融資といった利便性は、急な出費が必要な場合には便利です。しかし、借り入れの心理的ハードルが大幅に下がったことで、計画性のない借入が増えるリスクも生まれています。
総量規制の抑止力と限界
貸金業法の総量規制により、貸金業者からの借り入れ総額は年収の3分の1までに制限されています。これにより、一定の歯止めは効いています。
ただし、銀行のカードローンやクレジットカードのキャッシングは総量規制の対象外です。複数の借入チャネルを使えば、規制の上限を超える借り入れが可能な構造になっています。
金利上昇がもたらす新たなリスク
利上げで返済負担が増加
日銀の利上げに伴い、消費者向けローンの金利も上昇傾向にあります。変動金利型の住宅ローンだけでなく、カードローンや消費者金融の金利も、今後さらに上がる可能性があります。
すでに借入残高がある人にとって、金利上昇は返済負担の直接的な増加を意味します。物価高で支出が増え、金利上昇で返済額も増えるという二重の圧力が、多重債務者をさらに苦しい状況に追い込むおそれがあります。
「借りやすさ」と「返しにくさ」の矛盾
ネット融資の普及で借り入れは容易になった一方、金利上昇で返済環境は厳しくなっています。この「借りやすさ」と「返しにくさ」の矛盾が、多重債務者増加の構造的な背景です。
注意点・展望
相談窓口の活用
多重債務に陥った場合、早期の相談が重要です。各自治体の消費生活センターや、法テラス(日本司法支援センター)、弁護士会の無料相談窓口など、支援の仕組みは整っています。
債務整理の方法としては、任意整理、個人再生、自己破産などがあり、それぞれの状況に応じた選択が可能です。問題を一人で抱え込まず、専門家に相談することが解決への第一歩です。
政策対応の必要性
金融庁は多重債務問題の再燃を警戒しており、借入規制の見直しや啓発活動の強化を検討しています。ネット融資の普及に対応した新たな規制の枠組みが必要だとの指摘もあります。
まとめ
多重債務者が151万人と12年ぶりの高水準に達した背景には、物価高による生活コストの上昇と、ネット融資の普及による借入の手軽さがあります。さらに金利上昇が返済負担を増やすリスクも高まっています。
借り入れを検討する際は、返済計画を慎重に立て、リボ払いの利息負担や金利変動リスクを十分に理解することが大切です。すでに返済に困っている場合は、早めに専門窓口に相談してください。
参考資料:
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