マスク氏がトランプ大統領に再接近、Starlink事業拡大が狙いか
はじめに
米起業家イーロン・マスク氏とトランプ米大統領の関係が、再び接近局面に入っています。2025年6月に両者の関係は一度決裂しましたが、2026年1月現在、マスク氏はトランプ政権のベネズエラ軍事作戦を全面的に支持する姿勢を示しています。
この背景には、マスク氏が率いるSNS「X」や衛星通信サービス「Starlink」の海外事業拡大という商業的な狙いがあるとみられます。特にベネズエラやイランでの事業機会を見据え、トランプ政権との関係修復に動いている可能性が指摘されています。
本記事では、マスク氏とトランプ氏の関係の変遷、ベネズエラ・イラン情勢との関連、そしてStarlinkを中心とした商機拡大の狙いについて詳しく解説します。
マスク氏とトランプ氏の関係変遷
蜜月期:巨額献金と政権入り
2024年の米大統領選挙において、イーロン・マスク氏はトランプ陣営に約2億8,800万ドル(約450億円)を寄付し、最大の個人支援者となりました。この貢献が認められ、2025年1月のトランプ政権発足と同時に「政府効率化省(DOGE)」の事実上のトップに就任しました。
DOGEは連邦政府の支出削減、官僚制度の簡素化、ITシステムの近代化を目指す時限組織で、マスク氏は2兆ドル(約308兆円)の予算削減を掲げていました。組織メンバーの過半数はスペースXやテスラなどマスク氏関連企業の出身者で構成されていたとされています。
しかし、2025年5月末にマスク氏は「特別政府職員」の任期(年間130日以下)が終了したことを理由に、政権から距離を置く姿勢を示しました。
決裂:歳出法案を巡る対立
関係の決裂は2025年6月に表面化しました。きっかけはトランプ大統領が推進する所得減税の恒久化を含む歳出法案でした。マスク氏は「財政赤字を削減するどころかさらに拡大し、DOGEチームの取り組みを損なう」と批判し、議会共和党に法案成立阻止を呼びかけました。
事態は急速にエスカレートし、マスク氏は新党立ち上げを示唆してトランプ氏を牽制。一方のトランプ氏はスペースXへの政府契約打ち切りをほのめかしました。さらにマスク氏は、性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン元被告に関する資料公開をトランプ氏が妨げていると主張し、大統領の弾劾まで呼びかける事態となりました。
世論調査ではマスク氏の支持率は34%にとどまり、不支持率が49%に達していました。DOGE活動に対しても、成果の数値に疑問を呈するメディア報道が相次いでいました。
関係修復の動き
しかし2025年6月11日、マスク氏はX上で「トランプ大統領についての先週のいくつかの投稿を後悔している。言い過ぎた」と投稿し、関係修復に向けた姿勢を示しました。トランプ氏もこれを「良いことをした」と評価しましたが、完全な関係改善には至っていませんでした。
そして2026年1月、米政権によるベネズエラ軍事作戦を契機に、両者の関係は再び接近局面に入っています。
ベネズエラ軍事作戦とマスク氏の支持
トランプ政権のベネズエラ攻撃
2026年1月2日深夜から3日未明にかけて、米軍はベネズエラの首都カラカスを含む複数の拠点を爆撃しました。特殊部隊デルタフォースによりニコラス・マドゥロ大統領夫妻が拘束され、米国内に移送されました。
この作戦には150機以上の航空機が投入され、F-22やF-35ステルス戦闘機、B-1爆撃機などが参加。ベネズエラ軍のロシア製地対空ミサイルはジャミングにより無力化されました。米政府はマドゥロ氏の麻薬取引関与を作戦の根拠として主張していますが、トランプ大統領はベネズエラの石油資源への関心も隠していません。
マスク氏の全面支持
マスク氏はこの軍事作戦を全面的に支持する姿勢を示しています。この背景には、Xや Starlinkのベネズエラでの事業拡大機会があるとみられます。
マドゥロ政権下では米国系サービスの展開に制約がありましたが、政権転換後は状況が一変する可能性があります。特にStarlinkは、通信インフラが不十分な新興国市場で急成長を遂げており、ベネズエラも有望な市場と位置づけられています。
トランプ大統領はベネズエラへの関与が年単位になる可能性を示唆しており、「もっと長いだろう」とニューヨーク・タイムズのインタビューで述べています。米国主導の再建過程でマスク氏の事業が優先的に展開される可能性があります。
イランでのStarlink展開の可能性
イラン抗議デモとインターネット遮断
2025年12月28日に始まったイランの大規模反政府デモは、経済危機への不満から政治体制の変革を求める運動へと発展しています。イラン当局は2026年1月8日から国内のインターネットを事実上完全に遮断し、60時間以上にわたって通信を制限しました。
注目すべきは、イラン当局がStarlinkの衛星インターネットサービスへの妨害(ジャミング)も実施している点です。報道によると、Starlinkのアップリンク・ダウンリンクトラフィックの約30%が当初妨害され、数時間以内に80%以上に達したとされています。
Starlinkの役割と密輸端末
イランではStarlinkは公式にサービスを提供していませんが、端末が密輸され、活動家、ジャーナリスト、企業が検閲回避のために使用しています。専門家は現在イラン国内で数万台のStarlink端末が稼働していると推定しています。
X上ではマスク氏がイラン全土でStarlinkの無料アクセスを可能にしたという情報も流れましたが、本人やStarlink公式アカウントからの確認は取れていません。
トランプ氏との協議
トランプ大統領はイラン国内のインターネット接続を復旧させるため、マスク氏と協議する意向を示しています。もしイランで体制変革が実現すれば、Starlinkにとって中東地域での大きな事業機会となる可能性があります。
イランはこれまで「反スパイ法」を制定し、Starlinkなど衛星インターネットサービスの無許可使用を禁止してきましたが、政権交代が起これば規制環境も大きく変わることが予想されます。
Starlinkの戦略的重要性
グローバル展開の現状
Starlinkは高度約500キロメートルの低軌道衛星を使った通信サービスで、すでに3,000基以上の衛星を打ち上げています。2022年10月に日本でもサービスが開始され、世界中で急速に普及が進んでいます。
2026年以降には、日本ではKDDIやNTTドコモがスマートフォンとStarlink衛星の直接通信サービス(Direct to Cell)を開始予定です。スマホ単体で衛星通信を利用できるようになれば、市場はさらに拡大するとみられます。
地政学的なツールとしての側面
Starlinkは単なる通信サービスにとどまらず、地政学的なツールとしての側面も持っています。ウクライナ紛争では、ロシアの通信妨害を回避するために広く活用されました。
一方で、Starlinkが闘市場で取引され、制裁対象国やテロ組織に渡るリスクも指摘されています。ブルームバーグの報道によると、Starlink端末の不正利用が安全保障を脅かす懸念もあります。
マスク氏の商業戦略
マスク氏にとって、トランプ政権との関係は商業的に極めて重要です。スペースXは米政府から多額の契約を受注しており、Starlinkも軍事・政府向けサービスで成長を続けています。
ベネズエラやイランでの事業機会は、こうした政権との関係次第で大きく左右されます。2025年6月の決裂時にトランプ氏がスペースXへの政府契約打ち切りをほのめかしたことは、マスク氏にとって大きなリスクを示すものでした。
今後の展望と注意点
関係の不安定性
マスク氏とトランプ氏の関係は、これまでも蜜月と対立を繰り返してきました。両者とも個性が強く、利害が一致する場面では協力しますが、衝突する場面では激しく対立します。
トランプ政権の任期中(2029年1月まで)、この関係がどのように推移するかは予測が難しい状況です。商業的利益と政治的思惑が複雑に絡み合っており、一時的な和解が長期的な安定につながるとは限りません。
国際法上の問題
ベネズエラ軍事作戦については、国連事務総長が「危険な前例」と批判し、国際法上の正当性に疑問が呈されています。マスク氏がこうした作戦を支持することは、Starlink ブランドのレピュテーションリスクにもなり得ます。
規制環境の変化
各国でのStarlink規制も今後の重要な変数です。イランのように衛星通信を禁止する国もあれば、日本のように積極的に受け入れる国もあります。マスク氏とトランプ政権の関係が、こうした規制環境にどう影響するかも注視が必要です。
まとめ
イーロン・マスク氏とトランプ大統領の再接近は、単純な関係修復ではなく、商業的利益を見据えた戦略的な動きと考えられます。
ベネズエラ軍事作戦の支持やイランでのStarlink展開可能性を通じて、マスク氏はトランプ政権との協力関係から事業拡大の機会を引き出そうとしています。一方のトランプ政権も、Starlinkという強力なツールを外交・軍事政策に活用する意図があるとみられます。
ただし、両者の関係は不安定であり、再び対立に転じる可能性も否定できません。今後の動向を見守る上では、商業的利益と地政学的思惑の両面から分析することが重要です。
参考資料:
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