NEC営業利益率10%超へ、海底ケーブル黒字化が鍵
はじめに
NECが2027年3月期(2026年度)に、調整後営業利益率10%超の達成を目指す方針を示しています。2026年3月期の計画値である9.6%からさらなる上積みを狙う格好です。この目標達成の鍵を握るのが、工事遅延などで赤字が続いてきた海底ケーブル事業の損益改善と、主力のITサービス事業における高利益率商材の拡大です。
国内IT需要の堅調さに支えられた足元の好業績を追い風に、NECは収益構造の転換を加速させています。本記事では、NECの利益率改善に向けた戦略と、注目される海底ケーブル事業の行方について解説します。
好調なITサービス事業が利益率改善を牽引
2025年度第3四半期は増収増益で通期予想を上方修正
NECの2025年度(2026年3月期)第3四半期連結業績は、売上収益が前年同期比4.3%増の2兆4,223億円、営業利益が46.8%増の1,851億円と大幅な増収増益を記録しました。純利益にいたっては前年同期比98.8%増の1,422億円と、ほぼ倍増の水準です。
この好調な結果を受け、NECは通期業績予想を上方修正しています。ITサービスの売上収益は従来予想から700億円引き上げて2兆4,700億円に、調整後営業利益も100億円増の3,310億円へと見直されました。
国内ITサービスの高い利益率が全体を押し上げ
好業績の最大の要因は、国内ITサービス事業の強さです。9カ月累計の売上収益は前年同期比2.9%増の1兆4,728億円、調整後営業利益は630億円増の1,705億円と大きく伸びています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)需要の拡大を背景に、企業のIT投資意欲は引き続き旺盛です。NECはクラウドサービスやAIソリューションなど、利益率の高い商材の比率を高めることで、売上の伸び以上に利益を押し上げる構造を構築しつつあります。
航空宇宙・防衛(ANS)事業も好調で、社会インフラセグメント全体の収益を支えています。防衛費増額の流れを受けた需要増がNECの業績に追い風となっています。
海底ケーブル事業の黒字転換が最大の課題
工事遅延と不採算案件で赤字が継続
NECの海底ケーブル事業は、世界で40万キロメートル以上の敷設実績を持ち、市場シェア約15%を占める有力プレーヤーです。しかし近年、この事業は赤字が続いてきました。
その主な原因は、工事の遅延リスクです。海底ケーブルの敷設は天候の変化による作業中断が避けられず、各国の許認可取得にも予測しにくい時間がかかります。こうした「読めないリスク」が重なり、プロジェクトのコストが膨らむケースが相次ぎました。
加えて、過去に受注した一部案件で契約条件が不利だったことも、損益を圧迫する要因となっています。
契約条件の見直しと事業体制強化で改善へ
NECはこの課題に対し、顧客との契約条件の見直しに着手しています。工事遅延リスクを適切に価格に反映させることで、プロジェクト単位での採算性を改善する方針です。
さらに、事業体制の強化にも動いています。NECは海底ケーブル敷設船の自社保有を検討しており、従来は外部に委託していた敷設・保守作業を内製化することで、コスト管理の精度を高めようとしています。M&Aによる船舶取得も視野に入れており、製造から敷設・保守までを一貫して手がける体制の構築を目指しています。
成長市場としてのポテンシャル
海底ケーブル市場自体は力強い成長が見込まれています。2024年の市場規模は約182億ドルで、2029年には約297億ドルに達すると予測されています。年平均成長率は10.3%です。
この成長の背景には、データ通信量の爆発的な増加があります。AIの普及やクラウドサービスの拡大により、大陸間の大容量通信インフラへの需要はかつてないほど高まっています。NECはインド・太平洋地域を中心に事業を拡大し、世界トップシェアを目指す方針を掲げています。
経済産業省も海底ケーブルの戦略的重要性を認識しており、日本企業のシェア拡大を後押しする政策を進めています。NECにとって、赤字事業の立て直しと市場成長の取り込みを同時に実現できるかが、利益率10%超の達成を左右する重要な要素です。
2026年度からの新中期経営計画と組織再編
NECは2026年4月から新たな中期経営計画をスタートさせます。これに合わせて、組織体制を「ITサービス事業」「社会インフラ事業」「テクノロジー&イノベーション」「コーポレート」の4領域に再編する予定です。
この再編は、事業ポートフォリオの最適化と経営資源の集中を狙ったものです。海底ケーブル事業は社会インフラ事業に位置づけられ、防衛・航空宇宙やテレコムサービスとともに、成長投資と収益改善の両立が求められます。
調整後営業利益率10%超という目標は、M&A関連費用(無形固定資産の償却やアドバイザリー費用)を除いた指標であり、NECの本業の実力をより正確に反映するものです。2026年3月期計画の9.6%から0.4ポイント以上の改善を目指すことになります。
注意点・展望
NECの利益率改善の道筋は明確ですが、いくつかのリスク要因にも注意が必要です。
まず、海底ケーブル事業の黒字化が計画通りに進むかどうかは不透明です。天候リスクや許認可の遅れは構造的な問題であり、契約条件の見直しだけで完全に解消できるわけではありません。
また、中東情勢の緊迫化による原油価格の高騰は、エネルギーコストの上昇を通じて日本企業全般の収益を圧迫する可能性があります。NECも例外ではなく、為替変動リスクと合わせて注視する必要があります。
一方で、AI需要の拡大は海底ケーブル市場にとって強力な追い風です。データセンター間の大容量通信需要は今後も増加が見込まれ、NECの技術力と実績が評価される局面が続く可能性があります。
まとめ
NECは2027年3月期に調整後営業利益率10%超を目指し、ITサービス事業の高利益率化と海底ケーブル事業の黒字転換を柱とした収益改善を推進しています。2025年度第3四半期の好調な業績と通期予想の上方修正は、この戦略が着実に進んでいることを示しています。
海底ケーブル事業は赤字からの脱却が最大の課題ですが、成長市場であることに変わりはなく、事業体制の強化と契約条件の見直しが奏功すれば、NECの収益構造を大きく改善させる可能性を秘めています。2026年度から始まる新中期経営計画の具体的な内容にも注目が集まります。
参考資料:
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