ホルムズ海峡不安で日経平均急落、製造業に波及
はじめに
2026年3月13日の東京株式市場で、日経平均株価が大幅に続落しました。下げ幅は一時1,100円を超え、午前終値は前日比666円安となっています。背景にあるのは、イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師によるホルムズ海峡封鎖継続の表明です。
ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約2割が通過する要衝であり、日本が輸入する原油の約9割がこの海峡を経由しています。封鎖の長期化懸念は、原油価格の高騰にとどまらず、日本の製造業全体のサプライチェーンを揺るがす事態に発展しつつあります。
この記事では、ホルムズ海峡危機の最新動向と、日本の製造業に及ぶ影響の全体像を整理します。
ホルムズ海峡危機の経緯と最新動向
封鎖に至るまでの流れ
ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、2026年2月28日に実施された米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃が発端です。この攻撃でイランの前最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡し、イラン革命防衛隊は直ちにホルムズ海峡を通過する船舶への攻撃を警告しました。
3月1日から2日にかけて、日本郵船や川崎汽船を含む世界の海運各社が相次いで通峡を停止しました。タンカーの通航量は当初約70%減少し、150隻以上が海峡外に停泊する異常事態となりました。その後、通航量はほぼゼロにまで落ち込んでいます。
新最高指導者の強硬姿勢
3月9日に就任したモジタバ・ハメネイ師は、12日に発表した初の声明で「ホルムズ海峡の封鎖は戦争の圧力の手段として使い続けなければならない」と表明しました。さらに「殉教者たちが流した血への復讐を諦めない」と徹底抗戦を誓い、中東の全米軍基地の閉鎖も要求しています。
一方で、イランの国連ジュネーブ大使は「ホルムズ海峡を封鎖する意図はない」と発言しており、イラン内部でも方針が統一されていない状況がうかがえます。この矛盾したメッセージが市場の不確実性をさらに高めています。
原油価格の高騰と日本市場への衝撃
原油市場の反応
ホルムズ海峡の封鎖を受け、WTI原油先物は3月上旬に1バレル95ドルを超える水準まで急騰しました。封鎖前と比較して20%以上の上昇率です。野村総合研究所の試算によれば、海峡の完全封鎖が続けば原油価格は1バレル140ドルまで上昇する可能性があるとされています。
日経平均の下落構造
3月13日の東京株式市場では、特に製造業セクターの下落が目立ちました。投資家の懸念は多層的です。まず原油価格の上昇による原材料コストの直接的な圧迫があります。さらに、海上輸送の混乱による輸送費の上昇、そして世界経済の減速による外需の下振れリスクも意識されています。
日経平均は3月に入って以降、下落基調が続いています。3月4日には2,033円安と歴代5番目の下落幅を記録し、週初から3営業日で7.8%の急落となりました。中東リスクが解消される見通しが立たない中、市場のセンチメントは極めて悪化しています。
日本の製造業サプライチェーンへの波及
エネルギー依存構造の脆弱性
日本の中東原油依存度は2025年時点で約94%に達しており、そのほぼ全量がホルムズ海峡を経由しています。この高い依存度が、今回の危機で日本の製造業に深刻な影響を及ぼす構造的要因となっています。
特に石油化学産業への打撃は大きく、製造業を支える基礎原料「ナフサ」も中東からの輸入に大きく依存しています。日本のナフサ備蓄は約20日分しかなく、封鎖が3月中旬以降も続けば本格的な減産が避けられない状況です。
自動車・化学産業への連鎖
影響は石油化学にとどまりません。日本の自動車メーカーは世界有数のプロピレン消費国であり、1台の自動車には石油化学由来の素材が数百点以上使われています。素材供給の途絶が数週間続けば、自動車産業で生産停止が発生する恐れがあると専門家は指摘しています。
出光興産は、山口県と千葉県のエチレン生産設備について、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば停止する可能性があると取引先に通知しています。こうした動きは、川上の原料不足が川下の完成品メーカーへと連鎖的に波及するリスクを示しています。
ジャスト・イン・タイムの限界
日本の製造業が長年誇ってきたジャスト・イン・タイム(JIT)方式は、効率を最大化する一方で在庫バッファーを極限まで薄くしています。平時には強みとなるこの仕組みが、今回のような供給途絶の局面では脆弱性に転じます。
コロナ禍や半導体不足を経てサプライチェーンの多元化が叫ばれてきましたが、エネルギー供給の中東集中という根本課題は解消されていませんでした。今回の危機は、その構造的問題を改めて浮き彫りにしています。
注意点・展望
マクロ経済への影響
野村総合研究所の試算では、ホルムズ海峡の封鎖によって日本の実質GDPは最大0.65%押し下げられ、物価は1.14%上昇するスタグフレーション的な状態に陥るリスクがあるとされています。ガソリン価格や電力料金の上昇を通じて、企業収益と個人消費の両方が圧迫される可能性があります。
今後の焦点
短期的には、イランと米国の間で停戦や交渉の動きが出るかどうかが最大の焦点です。イラン内部でも封鎖の継続について意見が割れている点は、外交的解決の余地を示唆しています。
中長期的には、日本の製造業はエネルギー調達先の多元化や安全在庫の積み増しといった「冗長性」の設計が急務です。複数調達先の確保や国内代替生産能力の維持など、効率一辺倒ではないサプライチェーン戦略への転換が求められています。
まとめ
ホルムズ海峡の封鎖継続を表明したイラン新最高指導者の声明は、日本の株式市場と製造業に大きな衝撃を与えています。原油価格の高騰は原材料コストの上昇にとどまらず、輸送費や外需にまで波及し、日本のものづくりの基盤を揺るがしています。
投資家にとっては、中東情勢の推移とエネルギー関連銘柄の動向を注視することが重要です。また、企業経営者にとっては、短期的なコスト対策と中長期的なサプライチェーンの再構築を同時に進める必要があります。ホルムズ海峡危機は、日本のエネルギー安全保障のあり方を根本から問い直す契機となっています。
参考資料:
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