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by nicoxz

NY原油が一時92ドル台に急騰、供給途絶の深刻度

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はじめに

2026年3月6日、ニューヨーク商業取引所のWTI原油先物が一時1バレル92.68ドルまで上昇し、2023年9月以来およそ2年半ぶりの高値を記録しました。わずか2か月前には55ドル付近で推移していた原油価格が急激に跳ね上がった形です。週間の上昇率は約35.6%に達し、1983年のWTI先物取引開始以来、史上最大の週間上昇率となりました。

この急騰の背景には、2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃と、それに対するイランの報復措置があります。特にイランがホルムズ海峡の封鎖を宣言したことで、世界の原油供給の約20%が途絶するという異例の事態に発展しています。本記事では、原油急騰の全体像と、航空・食品など私たちの暮らしへの波及を詳しく解説します。

ホルムズ海峡封鎖と原油供給の途絶

軍事衝突からホルムズ封鎖へ

2026年2月28日、米国とイスラエルは「オペレーション・エピック・フューリー」と呼ばれる共同軍事作戦をイランに対して開始しました。この攻撃にはイラン最高指導者ハメネイ師の殺害も含まれていたとされています。

これに対しイランは、数百発のドローンや弾道ミサイルを用いた大規模報復攻撃を実施しました。攻撃対象はイスラエル本土にとどまらず、カタール、バーレーン、UAE、クウェート、イラク、ヨルダン、サウジアラビアに展開する米軍基地にも及びました。さらに3月2日、イラン革命防衛隊の高官がホルムズ海峡の封鎖を正式に宣言し、通過するすべての船舶に対して警告を発しました。

タンカー通航がほぼゼロに

ホルムズ海峡は、世界の海上原油輸送量の約20%にあたる日量約2,000万バレルが通過する世界最重要のエネルギー輸送路です。封鎖宣言後、タンカー通航量はまず約70%急減し、150隻以上が海峡外で錨泊を余儀なくされました。3月4日には通過した船舶がわずか5隻にまで減少し、3月6日には過去24時間で原油出荷がゼロという状態に陥りました。

大手コンテナ船社のマースク、CMA CGM、ハパックロイドなども海峡経由の航路を停止しています。超大型タンカー(VLCC)の運賃は1日あたり42万3,736ドルと史上最高値を記録し、前週末から94%以上の上昇となりました。

中東産油国への直接被害

イランの報復攻撃は湾岸諸国のエネルギーインフラにも直撃しました。サウジアラビア最大の製油所が操業を停止し、バーレーン、クウェート、カタール、UAEでも製油所が被弾したと報告されています。イラクは日量150万バレルの生産を停止し、クウェートも貯蔵施設の容量不足から減産に追い込まれました。

航空運賃・食品価格への波及と日本経済への影響

ジェット燃料急騰と航空運賃の上昇

原油価格の高騰は、航空業界にも即座に影響を及ぼしています。ジェット燃料価格は3月7日時点で1ガロンあたり3.88ドルに達し、軍事衝突前と比較して約55%の上昇を記録しました。

ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOは、「航空運賃への影響はおそらく早期に始まる」と警告を発しました。ジェット燃料は航空会社の運航コストの25〜30%を占める第2位の経費項目です。特に深刻なのは、米国の大手航空各社が現在、燃料費のヘッジ(先物での価格固定)をほとんど行っていないことです。原油価格の上昇がそのまま経費増に直結する構造になっています。

また、中東上空の空域閉鎖により、欧州とアジアを結ぶ路線では300〜800海里の迂回が必要となっています。燃料費の増加に迂回による追加コストが加わり、長距離便を中心にビジネスクラスやファーストクラスからすでに値上げが始まっています。

日本の消費者物価への影響試算

野村総合研究所(NRI)の分析によれば、原油価格がベースシナリオどおりに約30%上昇した場合、日本国内のガソリン価格は1リットルあたり204円と200円を超える水準まで上昇すると試算されています。楽観シナリオ(原油価格14.9%上昇)でも181円と180円台に乗り、2025年末に廃止されたばかりのガソリン暫定税率引き下げの効果が帳消しになる計算です。

NRIの木内氏の試算では、ベースシナリオのもとで日本の実質GDPは1年間で0.18%押し下げられ、物価は0.31%押し上げられるとされています。原油価格の上昇は、まずガソリン価格に1週間程度で反映され、その後電気・ガス料金の上昇を経て、半年程度をかけて食品を含む幅広い商品に波及していくと見込まれています。

ブルームバーグの報道によれば、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって日本のインフレが加速する恐れがあるとされ、原油輸入の大部分を中東に依存する日本のエネルギー安全保障上の脆弱性が改めて浮き彫りになっています。ガソリン価格が180円台に達する見通しとなれば、高市政権が廃止したばかりのガソリン補助金を再導入する可能性も指摘されています。

注意点・展望

OPECプラスの増産余力は限定的

OPECプラスは3月1日、日量20.6万バレルの増産を決定しました。しかし、サウジアラビアを除く主要メンバーはほぼ生産余力を使い切っている状態です。サウジアラビアは日量180万バレルの緊急増産能力を保有し、OPECプラス全体の余剰能力の51.4%を占めていますが、ホルムズ海峡が封鎖されている現状では、仮に増産しても輸出が困難です。

原油100ドル突破のリスク

市場では、紛争が長期化した場合に原油価格が100ドルを突破する可能性が警戒されています。米国のトランプ大統領は、海軍によるタンカー護衛を検討していると報じられていますが、実現には課題が多いとの見方もあります。紛争の行方と海峡通航の再開時期が、今後の原油価格を左右する最大の変数です。

まとめ

WTI原油先物は一時92.68ドルに到達し、史上最大の週間上昇率を記録しました。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により世界の原油供給の20%が途絶し、ジェット燃料は55%上昇、日本国内のガソリン価格も200円超えが現実味を帯びています。

日本にとって最も警戒すべきは、原油高が時間差で食品・日用品に波及する「コストプッシュ・インフレ」の再来です。OPECプラスの増産余力が限定的ななか、紛争の早期収束と海上輸送路の回復が、世界経済の安定にとって不可欠な条件となっています。消費者としては、今後数か月間のエネルギー価格と物価動向を注視する必要があります。

参考資料:

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