オカルトとSNSの共鳴が狂信とテロを招く時代にどう向き合うか
はじめに
科学技術が進めば、オカルトや疑似科学は自然に消える。そう考えたくなりますが、現実はそう単純ではありません。人は不確実な時代ほど、複雑な現実を一気に説明してくれる物語や、自分だけが真実を知っているという感覚に引き寄せられます。オカルトが危ういのは、単に非科学的だからではなく、共同体意識や救済願望、敵味方の二分法と結び付いたとき、社会的な排除や暴力を正当化しやすくなるからです。
日本でもその兆候は繰り返し現れてきました。明治末期の千里眼事件、1990年代のオウム真理教、そして現在のSNS上の陰謀論拡散は、時代も媒体も違いますが、検証より共鳴が先に立つ点でつながっています。この記事では、歴史的な前例と最新の研究を手がかりに、オカルト的思考がなぜ消えず、なぜ今あらためて警戒が必要なのかを考えます。
オカルトはなぜ繰り返し社会に入り込むのか
千里眼事件が示したのは「権威と話題性」の危うい結合
1910年前後に大きな話題となった千里眼事件は、超能力を信じる人だけの周辺現象ではありませんでした。福来友吉が御船千鶴子らの透視を研究対象にし、公開実験には学界や報道関係者も集まりました。J-STAGEで公開されている催眠史や理科教育史の資料でも、この事件が催眠ブームと結び付き、新聞報道を通じて一大論争となった経緯が確認できます。
ここで重要なのは、内容の真偽以前に、権威ある研究者と大衆メディアが一緒に注目したことで、超常現象に「検証済みらしさ」が生まれた点です。後に疑義が強まり、学術的信頼は失われましたが、いったん拡散した物語は簡単には消えません。現代のSNSでも、専門家らしい語り口や一部のデータを組み合わせることで、根拠の薄い主張に説得力があるように見せる手法が繰り返されています。
人は事実そのものより「意味の整合性」に引かれやすい
近年の日本の研究では、陰謀論や疑似科学への傾きは、単に知識不足だけで説明できないことが示されています。日本語版陰謀論的心性質問票の研究では、陰謀論的心性が制度不信や被害的な認知と関係することが示されました。別の研究では、陰謀論を信じやすい人ほど他者への信頼行動が低くなる傾向も確認されています。
さらに、人工知能学会の研究では、疑似科学や陰謀論を信じる傾向は、反証情報を受けても信念を更新しにくい認知特性と関係することが示されています。人は必ずしも「証拠が多い説」を選ぶわけではなく、「自分の不安や怒りを最もよく説明してくれる説」を選びがちです。オカルト的思考は、その心の隙間に入り込みやすい構造を持っています。
SNS時代に何が危険なのか
オウム後継団体の勧誘は終わっていない
日本でオカルトと暴力の結び付きが最もはっきり露出したのは、オウム真理教事件でした。教団は宗教、終末論、疑似科学、選民思想を混ぜ合わせ、閉じた共同体の内部で現実認識そのものを書き換えていきました。問題は、それが過去の話ではないことです。2025年3月の報道では、公安調査庁が後継団体による若年層への勧誘継続に警鐘を鳴らしており、新規構成員の多くを20代、30代が占めるとされています。
これは、事件の記憶が風化した若い世代ほど安全だという直感が外れていることを示します。むしろ、実体験がないからこそ、断片的な動画、切り抜き、コミュニティ内の成功談だけでイメージが再構成されやすい面があります。組織名を隠した勧誘や、自己啓発、ヨガ、能力開発の文脈を借りた入り口は、SNS時代にも十分通用します。
SNSは「反証より仲間」を優先させやすい
SNSの問題は、虚偽情報が速く広がることだけではありません。似た考えの人が集まりやすく、同じ主張に何度も接触することで、内容の真偽より「多く見たから正しい」という感覚が強まる点にあります。日本の心理学研究でも、陰謀論信念は制度や他者への信頼低下、感染リスク行動の増加、政策不支持などと関連していました。つまり、誤った信念は頭の中だけの問題ではなく、行動や政治的態度にまで影響します。
また、オンライン上の陰謀論運動を分析した研究では、敵対する巨大な陰謀組織と、それに対抗する自分たちという物語が、参加者に使命感を与え、集団的行動へ向かわせる過程が描かれています。オカルトや陰謀論が危険なのは、奇妙だからではなく、仲間意識、被害者意識、使命感を一体化させると、現実の暴力や排除へ接続しやすいからです。
注意点・展望
このテーマで避けたい誤解は、オカルトやスピリチュアルへの関心を持つ人を一律に危険視することです。問題なのは、個人の信仰や趣味そのものではなく、反証を受け付けない閉鎖性と、外部の敵を設定して行動を正当化する構造です。そこを区別しないと、かえって対話の窓口を閉ざしてしまいます。
今後の対策は、単純な「デマに気をつけましょう」では足りません。教育現場やメディアでは、情報の真偽だけでなく、なぜ人が確信を深めるのか、なぜ共同体が安心感を与えるのかまで扱う必要があります。行政やプラットフォーム側にも、違法情報の対処だけでなく、勧誘や過激化の初期兆候を可視化する工夫が求められます。
まとめ
オカルト的思考は、時代遅れの残りかすではありません。不安の強い社会では、形を変えながら何度でも現れます。千里眼事件が示した権威と話題性の結合、オウムが示した共同体化と暴力への転化、SNSが加速させる共鳴の仕組みは、別々の問題ではなく同じ連鎖の一部です。
だからこそ必要なのは、信じるなと突き放すことではなく、検証の回路を社会に残すことです。証拠に基づいて考え直せる環境、孤立を深めない居場所、そして扇動より対話を選べる情報空間をどう守るかが、これからの大きな課題になります。
参考資料:
- “オウム後継団体を監視” 公安調査庁「事件を知らない若者を勧誘」|ANNnewsCH
- 陰謀論信奉と信頼行動との関連:二次分析による検討|J-STAGE
- 日本語版陰謀論的心性質問票の開発と妥当性の検討|J-STAGE
- COVID-19に関する陰謀信念がもたらす感染防止政策の否定と感染リスク行動|J-STAGE
- 陰謀論・疑似科学信念と信念更新の関連:BADE課題を用いた検討|人工知能学会全国大会論文集
- 過激な集団的運動へ至る陰謀論とその相互行為的特徴|J-STAGE
- 『人間と環境』22(2025.3)掲載資料 PDF|J-STAGE
- 明治・大正期における東京高等師範学校の物理教師 PDF|J-STAGE
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