太平洋の軍事力均衡が崩れる、中国空母展開と日本の多国間連携戦略

by nicoxz

はじめに

太平洋地域の軍事力均衡が大きく変化しています。トランプ米政権が西半球(中南米)重視の国家安全保障戦略を打ち出す一方、中国は空母を太平洋に展開し、台湾周辺での軍事演習を強化しています。2025年末には台湾の東側海域にも強襲揚陸艦や無人機を投入する大規模演習を実施し、緊迫感が高まりました。この環境変化に対して、日本は欧州など他地域の同志国を引き込む外交戦略を加速させています。本記事では、変化する太平洋の軍事バランスと日本の対応策について詳しく解説します。

トランプ政権の「西半球」重視とアジアへの影響

戦略転換の衝撃

第2次トランプ政権が2025年12月に公表した国家安全保障戦略(NSS)は、米国外交に大きな転換点をもたらしました。同戦略は「グローバル覇権」を目指してきた従来の戦略を誤りだったと断じ、中南米を中心とした「西半球」への対応を重視する方針を明確にしました。

これは事実上、米国が「グローバル覇権」から「地域覇権」へと戦略を転換することを意味します。トランプ大統領は「米国第一主義」の下、ベネズエラへの軍事行動も辞さない姿勢を示すなど、西半球での影響力拡大に注力する姿勢を鮮明にしています。

同盟国への負担転嫁

この戦略転換により、インド太平洋地域の同盟国は大きな影響を受けます。国家安全保障戦略の中で、トランプ政権は日本や韓国などの同盟国に対して「自分の地域で主要な責任を引き受ける」よう求め、防衛費の大幅な負担増加を要求しています。

米国が西半球支配に軍事力を集中させることで、他地域での米軍の影響力が相対的に低下する可能性が高まっています。これは、アジア太平洋地域で米国が従来果たしてきた抑止力の役割が弱まることを意味し、日本を含む地域の安全保障環境に大きな影響を及ぼします。

中国の軍事力拡大と太平洋展開

空母の太平洋進出

中国は近年、空母の太平洋展開を加速させています。最新のデータによると、空母「遼寧」は2025年5月末時点で累計11回太平洋に進出しており、2023年4月に初めて太平洋に展開した「山東」も、2025年5月末までに8回の進出を記録しています。

さらに、中国は3隻目の空母「福建」を建造中で、2025年3月時点で海上試験を実施していました。福建は前の2隻より大型で、電磁カタパルトを装備し、固定翼早期警戒機の運用が可能です。これにより、中国海軍の遠洋作戦能力は飛躍的に向上することになります。

台湾周辺での軍事演習強化

2025年末、中国軍は台湾周辺で大規模軍事演習「正義使命-2025」を実施しました。この演習では陸海空軍とロケット軍が参加し、台湾の東側海域にも強襲揚陸艦や無人機を展開しました。

中国側はこの演習を台湾独立勢力と外部勢力への「重大な警告」と位置づけています。台湾東側の海域への展開は、仮に中国が台湾に武力侵攻する場合、米国や日本による武力介入を阻止する意図を明確に示すものです。

この演習により台湾の航空便は大きな影響を受け、約10万人の旅客に影響が出たとされています。台湾を取り囲む形での演習は、まさに「台湾侵攻のリハーサル」として現実味を帯びたものとなっています。

日本の多国間連携戦略

日EU安全保障・防衛パートナーシップ

日本は米国の戦略転換を受け、欧州との安全保障協力を大幅に強化しています。2024年11月1日、日本と欧州連合(EU)は、インド太平洋地域で初となる安全保障・防衛パートナーシップを締結しました。

岩屋毅外相とEUのボレル外交安全保障上級代表が都内で初の外相戦略対話を開催し、アジアと欧州の安全保障が「不可分」であるとの認識で一致しました。これは、地理的に離れた地域間での安全保障協力という新たな枠組みを構築する画期的な取り組みです。

具体的な協力分野

日EU間の協力は以下の分野で強化されます:

サイバー防衛:サイバー攻撃への対処能力向上と情報共有 宇宙安全保障:宇宙空間の安全保障ルールづくりの促進 ハイブリッド戦対応:偽情報対策や複合的脅威への対処 海洋安全保障:インド太平洋地域の第三国の海洋防衛能力構築支援

これらの協力により、日本は従来の日米同盟に加え、欧州という新たなパートナーを得ることで、多層的な安全保障体制を構築しようとしています。

NATO+IP4の枠組み

3年連続のNATO首脳会合参加

日本はNATO(北大西洋条約機構)との連携も強化しています。インド太平洋パートナー(IP4:日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国)は2022年に初めてNATO首脳会合とNATO外相会合に招待され、2024年7月のNATO首脳会合には岸田総理が日本から3年連続で出席しました。

この会合では、IP4とNATOの間で持続的な協力を確立するため、4つの分野を旗艦事業とすることが発表されました:

  1. ウクライナ支援
  2. サイバー防衛
  3. 偽情報対策
  4. テクノロジー協力

安全保障の不可分性

岸田総理が主張する「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分」という認識が、関係国間で広く共有されるようになっています。この背景には、北朝鮮がロシアとの相互軍事支援条約を結び、多数の兵士をウクライナ戦線に派遣するなど、アジアと欧州の安全保障が直接結びつく事例が増えていることがあります。

ロシアのウクライナ侵攻は、欧州の問題であると同時に、力による一方的な現状変更を許容しないという国際秩序の問題でもあり、これはアジア太平洋地域にも直接影響します。

防衛装備品協力の進展

技術共有と能力構築

日本と欧州各国は、防衛装備品の共同開発や技術共有も進めています。特に、日英伊3カ国による次期戦闘機の共同開発は、太平洋と欧州をつなぐ安全保障協力の象徴的なプロジェクトです。

また、インド太平洋地域の第三国に対する防衛能力構築支援においても、日欧が協力する枠組みが構築されつつあります。これにより、地域全体の抑止力を高めることが期待されています。

今後の課題と展望

米国の関与維持

日本にとって最大の課題は、トランプ政権の西半球重視にもかかわらず、インド太平洋地域における米国の関与を維持することです。日本は防衛費を大幅に増額し、米国との役割分担を再定義する必要があります。

2025年12月に公表された米国の国家安全保障戦略でも、インド太平洋は「地政学的戦場」と位置づけられており、完全に放棄されたわけではありません。しかし、優先順位が下がる可能性は否定できず、日本の外交的努力が重要になります。

多国間連携の深化

欧州やオーストラリア、インドなどとの多国間連携をさらに深化させることが不可欠です。中国の軍事力拡大に対抗するためには、日米同盟だけでは不十分であり、より広範な国際協力が必要です。

NATO+IP4の枠組みを活用し、情報共有、共同訓練、技術開発などの分野で実質的な協力を進めることが求められます。

経済安全保障との連動

軍事的な抑止力だけでなく、経済安全保障の観点からも多国間連携が重要です。重要技術の流出防止、サプライチェーンの強靭化、経済的威圧への対処などにおいて、同志国との協力が不可欠です。

まとめ

太平洋地域の軍事力均衡は、トランプ政権の戦略転換と中国の軍事力拡大により、大きく変化しています。日本は従来の日米同盟に加え、欧州やNATOとの多国間連携を強化することで、この変化に対応しようとしています。

2024年の日EU安全保障・防衛パートナーシップやNATO+IP4の枠組みは、地理的に離れた地域間でも安全保障が不可分であるという新たな国際秩序の萌芽です。日本にとって、これらの多国間連携を深化させ、実質的な抑止力として機能させることが、今後の外交・安全保障政策の最重要課題となるでしょう。

中国の空母3隻体制への移行、台湾周辺での軍事演習強化という現実を直視しながら、日本は多層的な安全保障体制の構築を急ぐ必要があります。「力の時代」において、同志国との連携こそが平和を守る最大の抑止力となります。

参考資料:

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