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by nicoxz

補正回し見直しは進むか当初予算主義を阻む制度と政治の壁を読む

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はじめに

日本の予算編成では、年度当初に組む本予算よりも、年末の補正予算で実質的な大型政策を積み増す流れが長く続いてきました。景気対策や災害対応のように補正が本来機能すべき場面はありますが、近年は「最初から補正ありき」で政策を走らせるとの批判も強まっています。

高市首相は2026年2月20日の施政方針演説で、「毎年補正予算が組まれることを前提とした予算編成と決別し、必要な予算は可能な限り当初予算で措置する」と明言しました。もっとも、この方針を実現するのは簡単ではありません。本稿では、なぜ補正回しが生まれるのか、何が企業や行政の予見可能性を損ねるのか、改革の障害はどこにあるのかを整理します。

なぜ補正回しが常態化したのか

政策需要と予算査定の時間差

補正回しが起きやすい理由の一つは、政策需要の発生時期と本予算の査定ルールがずれていることです。概算要求は夏に始まり、年末に政府案が固まります。その後、景気悪化、物価高、外交安全保障の変化、政権の新看板政策が重なると、各省庁は補正の方が通しやすいと考えがちです。特に成長投資や危機対応のように政治的優先度が高い案件ほど、年末の補正に載りやすくなります。

実際、2025年度補正予算は一般会計歳出総額が18兆3034億円に達し、コロナ禍を除けば過去最大規模となりました。物価高対策だけでなく、AI・半導体、宇宙、国土強靱化など幅広い項目が盛り込まれています。補正の役割が「緊急対応」にとどまらず、成長戦略や産業政策の実質的な入口にもなっていることが分かります。

当初予算で積みにくい支出構造

高市首相が問題視したのは、まさにこの構造です。施政方針演説では、必要な予算をできるだけ当初予算で措置し、複数年度予算や長期基金を活用するとしました。裏を返せば、従来の単年度予算の枠組みでは、中長期投資や機動的対策を当初予算に十分載せにくかったという認識です。

財務省の財政制度等審議会も、2025年5月と12月の建議で、歳出拡大の平時化や補正の積み上がりに強い警戒感を示しています。補正が大型化すると、その年度に執行しきれない支出が翌年度に繰り越されやすくなり、財政運営の見通しも曖昧になります。会計検査院は以前から、補正予算と翌年度繰越の関係を検査対象としてきました。補正回しは単なる政治技法ではなく、執行管理の問題でもあります。

見直しが難しい理由

政治にとっての使い勝手

補正予算は政治的に使い勝手が良い面があります。景気下支え、選挙前の給付、災害・物価高対応、地域配分の調整を一つの枠でまとめやすいからです。しかも本予算より短期間で意思決定しやすく、政権の「即応力」を演出しやすい。経済対策を掲げる政権ほど、補正を完全には手放しにくくなります。

2026年度予算の説明でも、政府は危機管理投資や成長投資を多年度で管理する考え方を示しています。しかし、これは補正の代替になる一方で、基金や別枠管理が増えれば、かえって歳出の見通しが見えにくくなるリスクもあります。当初予算主義を進めるには、単に入口を変えるだけでなく、執行と評価の透明性を一段と高める必要があります。

行政実務の慣性

もう一つの壁は行政実務です。各省庁にとって補正は、翌年度以降の制度化を見据えた試行枠でもあります。まず補正で事業化し、後に恒久予算へ移す流れは珍しくありません。こうした慣行が続くと、要求段階では絞り込み、政治判断が固まった後に補正で上積みする動きが合理的になってしまいます。

企業や自治体の立場からみても、予算の読みにくさは投資判断を鈍らせます。政府が年度途中に補助金や基金を追加すると、設備投資や研究開発のタイミングを補正成立待ちにする誘因が生まれます。高市政権が「民間が安心して投資できるようにする」と強調するのはこのためですが、予見可能性を高めるには、補正で毎年方向が変わる運営をやめる必要があります。

注意点・展望

ここで注意したいのは、補正予算そのものを悪とみなす議論です。大規模災害、安全保障危機、急激な景気後退では、補正は不可欠です。問題は、緊急対応と平時の政策積み増しが一つの器で混ざり、何が本当に緊要だったのか見えにくくなることにあります。

改革の現実的な方向は三つあるでしょう。第1に、成長投資や危機管理投資は初めから複数年度の枠組みで明示すること。第2に、補正で積んだ予算の執行率、翌年度繰越、不用額を分野別に検証し、翌年査定へ反映すること。第3に、基金化した支出も含め、国会と国民に対する説明責任を強めることです。首相の宣言だけでは足りず、査定・執行・事後評価の三点セットが必要です。

まとめ

補正回しが問題なのは、財政規律を緩めるからだけではありません。企業や自治体が政策の持続性を読みづらくなり、執行の遅れや繰越が積み上がり、結局は予算の実効性も落ちやすいからです。高市政権の「補正前提と決別」という方針は、方向としては分かりやすい一歩です。

ただし、本当に変えるべきなのは言い方より仕組みです。大型補正を必要とする政治と行政のインセンティブを変えない限り、当初予算主義は掛け声に終わりかねません。補正をゼロにすることではなく、何を当初で措置し、何だけを補正に限定するのか。その線引きを制度として定着できるかが、今後の最大の焦点です。

参考資料:

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