TSMC米アリゾナ工場、Nvidia Blackwell生産開始で本格稼働
はじめに
台湾の半導体製造大手TSMCが、米国アリゾナ州の工場で本格的な生産を開始しています。2024年末に第1工場が4nm(ナノメートル)プロセスで量産を開始し、米国初のNvidia Blackwellウェハーの生産が実現しました。
総投資額400億ドル超に達するTSMCの米国投資は、米中対立を背景とした半導体サプライチェーンの再編を象徴するプロジェクトです。第2工場は当初2028年の量産開始予定でしたが、2027年への前倒しが報じられています。
本記事では、TSMCアリゾナ工場の現状、生産計画、そして米国半導体戦略における位置づけについて解説します。
TSMCアリゾナ工場の概要
総投資額400億ドル超
TSMCは米国アリゾナ州フェニックス北部で複数の半導体工場を建設しています。当初発表された2つの工場だけで投資総額は400億ドルに達し、さらに追加投資も計画されています。
これは米国で行われる外国企業による製造業投資としては最大規模の一つであり、米国の半導体製造能力強化に大きく貢献するものです。
6工場体制へ
TSMCは最終的に、アリゾナ州に半導体製造工場6棟、先進パッケージング(封止)工場2棟、研究開発(R&D)センター1棟を設ける計画を進めています。
この大規模投資により、アリゾナ州は米国における最先端半導体製造の一大拠点となる見込みです。
第1工場(Fab21 P1)の稼働
4nmプロセスで量産開始
第1工場(Fab 21 P1)は2024年末に4nmプロセスで量産を開始しました。当初は2024年の早い時期に生産開始予定でしたが、熟練作業員の不足により遅延が生じていました。
最先端の回路線幅4nmの半導体製造には、高度な専門知識を持つ技術者が必要です。米国では半導体製造装置の設置に必要な熟練作業員が不足しており、これが遅延の主な原因でした。
米国初のNvidia Blackwellウェハー
アリゾナ州フェニックスのTSMC工場で、米国初のNvidia Blackwellウェハーの生産が開始されました。Blackwellは、Nvidiaの最新AIチップアーキテクチャであり、データセンター向けAI処理の中核を担う製品です。
これにより、AI半導体の重要な製造拠点が米国本土に確立されたことになります。
第2・第3工場の計画
第2工場は2027年稼働へ前倒し
第2工場(Fab21 P2)は、2026年第3四半期(7〜9月)に設備搬入を開始し、2027年に3nmプロセスで生産を開始する予定です。
これは当初の2028年量産開始から約1年前倒しとなります。米国の関税政策や顧客の需要に応えるため、フル稼働で建設が進められています。
2nmプロセスへの対応
第2工場では3nm量産準備が進む一方、2nmプロセスも前倒しで生産する可能性が高いとされています。2nmは次世代の最先端プロセスであり、より高性能・低消費電力の半導体製造が可能になります。
第3工場は2nm・A16を採用
第3工場(P3)は2025年5月に着工式典を開催しました。この工場では2nmおよびA16(1.6nmに相当)プロセスを採用する予定であり、TSMCの最先端技術が米国で製造されることになります。
米国半導体戦略における位置づけ
CHIPS Actによる支援
TSMCの米国投資は、米国の「CHIPS and Science Act」による半導体製造支援策と連動しています。米国政府は国内の半導体製造能力強化のため、補助金や税制優遇を提供しています。
TSMCはこれらの支援を受けながら、米国での大規模投資を進めています。
サプライチェーンの多元化
米中対立が深まる中、半導体サプライチェーンの地政学的リスクが注目されています。台湾への依存度を下げ、製造拠点を多元化することは、米国の安全保障上の優先事項となっています。
TSMCのアリゾナ工場は、この文脈において戦略的に重要な位置を占めています。
人材確保の課題
米国での半導体製造拡大には、熟練技術者の確保が大きな課題です。TSMCは台湾から技術者を派遣しつつ、米国での人材育成にも注力しています。
地元の大学や専門学校との連携、トレーニングプログラムの実施など、長期的な人材確保に向けた取り組みが進められています。
今後の展望
2026年の動向
2026年は、第1工場の本格稼働と第2工場の建設が並行して進む重要な年となります。Nvidia Blackwellの量産が軌道に乗れば、AI半導体の米国内供給が本格化します。
競合との関係
インテルやサムスンも米国内での半導体製造を強化しており、TSMCとの競争が激化しています。各社とも補助金獲得や人材確保で競い合う状況です。
地政学リスクへの対応
台湾海峡をめぐる緊張が続く中、TSMCの米国投資は「地政学リスクへの保険」としての意味合いも持っています。万が一の事態に備え、最先端半導体の製造能力を台湾外にも確保する動きです。
まとめ
TSMCは米国アリゾナ州で、総投資額400億ドル超の大規模半導体工場を展開しています。第1工場は2024年末に4nmプロセスで量産を開始し、米国初のNvidia Blackwellウェハー生産を実現しました。
第2工場は2027年に3nmプロセスで稼働予定へ前倒しされ、第3工場では2nm・A16という最先端プロセスが採用されます。最終的には6工場体制となり、アリゾナ州は米国の半導体製造一大拠点となる見込みです。
米中対立を背景としたサプライチェーン再編の中、TSMCの米国投資は今後も注目されます。
参考資料:
関連記事
日経平均5万4000円突破、高市政権の解散観測で半導体株が急騰
日経平均株価が史上初めて5万4000円台に到達。高市首相の早期解散観測による「高市トレード」が半導体関連株を押し上げています。背景と今後の展望を解説します。
Apple、スマホ世界首位を3年連続で維持 2025年市場の勝因を解説
2025年のスマートフォン世界出荷台数でAppleが3年連続首位を獲得。iPhone 17の好調な売れ行きと中国市場での躍進が成長を牽引。メモリ不足による値上げ懸念で駆け込み需要も発生した市場動向を詳しく解説します。
日経平均5万3500円突破、高市トレード再燃で史上最高値
衆院解散観測を受けて「高市トレード」が再加速し、日経平均株価が初の5万3000円台に到達。防衛・半導体銘柄が主導した歴史的高値更新の背景と今後の展望を解説します。
ラピダスが挑む半導体復権、官民7兆円投資の成否
かつて世界シェア50%を誇った日本の半導体産業。国策企業ラピダスは2nm半導体の量産化で復活を狙うが、TSMCとの技術格差や人材確保など課題は山積している。
地方に13兆円の投資誘致、半導体で産業集積が加速
2021~25年度、国の補助金を活用した地方への投資が13兆円に達しました。熊本県はTSMCを誘致し、三重県は住民1人当たりの投資額が東京都の7倍に。半導体を中心とした産業集積が地方経済を活性化させています。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。