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by nicoxz

非上場株の4倍格差と事業承継税制の難しい均衡

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はじめに

非上場株式の相続税評価が、いま税制の難所として浮上しています。問題は単純な「増税か減税か」ではありません。同じように会社を受け継ぐ場面でも、会社規模や株主区分、選べる評価方式によって評価額が大きく変わり、結果として税負担に大きな差が生まれているからです。

会計検査院は2024年11月公表の令和5年度決算検査報告で、取引相場のない株式の評価について、各方式の間で相当の乖離があり、公平性が必ずしも確保されていないと指摘しました。国税庁も、会社規模区分や特定評価会社の要件を意識して税負担の軽減を図る納税義務者が現に存在すると説明しています。他方で、中小企業の多くは後継者難に直面しており、評価強化だけを急げば事業承継の阻害要因にもなりかねません。本記事では、4倍差がなぜ生まれるのか、国税庁が何を問題視しているのか、そしてなぜ事業承継への配慮が不可欠なのかを整理します。

4倍差を生む現行ルールの仕組み

評価方式が複数に分かれる理由

国税庁のNo.4638によると、取引相場のない株式は、株式を取得した人の支配力と会社規模に応じて、原則的評価方式または特例的評価方式で評価されます。原則的評価方式は、大会社なら類似業種比準方式、小会社なら純資産価額方式、中会社なら両者の併用方式が原則です。少数株主などは特例的評価方式である配当還元方式を使います。

この設計自体には合理性があります。国税庁は、上場会社に近い大会社は類似会社の株価との均衡を取り、小会社は個人企業に近いので正味財産に着目するのが適当だと説明しています。会計検査院も、会社規模や支配力が多様である以上、同一の方法で一律評価するのは適当でないという前提自体は共有しています。

問題は、複数方式を設けたことではなく、方式間の価格差が大きく開き過ぎたことです。会計検査院の報告によると、評価明細書で類似業種比準価額と純資産価額の両方を確認できた延べ616社について、類似業種比準価額の中央値は11,622円、純資産価額の中央値は42,648円でした。類似業種比準価額は純資産価額の27.2%にとどまり、逆に見れば純資産価額は約3.7倍です。さらに、純資産価額に対する類似業種比準価額の割合の中央値は0.25倍で、全体の77.9%が0.5倍未満でした。実務感覚で言えば「4倍近い差が普通に起き得る」水準です。

類似業種比準方式が低く出やすい理由

なぜここまで差が開くのか。会計検査院は、類似業種比準価額の計算式や選択範囲の改正が長年にわたり、評価額を下げる方向で重なってきたことを指摘しています。国税庁の評価通達では、類似業種比準価額は、類似業種の株価と配当・利益・純資産の3要素で比較して計算します。大会社ではその比準価額がそのまま評価額になり、中会社や小会社でも一定割合で組み込まれます。

ところが、会計検査院によれば、昭和41年から平成29年にかけて、しんしゃく割合の引下げ、類似業種株価の選択範囲拡大、利益金額の選択範囲拡大といった改正が重なりました。これにより、より低い株価や利益を採りやすくなり、類似業種比準価額が下がりやすくなったとされています。純資産価額の計算式が長く大きく変わっていないのに対し、比準方式だけが下がる方向へ累積的に調整されてきたことで、両者の差が広がったわけです。

国税庁が問題視する「過度な節税」

会社規模や資産構成を意識した操作

会計検査院報告の中で特に重いのは、国税庁自身が「税負担の軽減を図る納税義務者が現に存在する」と説明している点です。具体的には、会社の規模区分を変えるための操作や、特定の評価会社の要件に該当しないようにするための操作が挙げられています。

これは、ルール違反というより、現行ルールの隙間を突いた合法的な設計変更が行われているという意味です。例えば、総資産価額や取引金額、保有資産の構成を調整し、より低い評価が出やすい区分へ寄せる発想です。制度が複雑であるほど、専門家の助言を得られる人とそうでない人の差も広がります。公平性の問題は、税額差そのものだけでなく、制度を使いこなせるかどうかの情報格差も含んでいます。

会計検査院は、延べ612社の分析で、純資産価額に対する申告評価額の中央値が大会社で0.32倍、中会社で0.50倍、小会社で0.61倍だったと示しました。規模が大きい区分ほど、純資産価額より相対的に低い評価が出やすい構造です。しかも、申告評価額の合計168億9281万円に対し、純資産価額方式による合計は396億7909万円で、227億円超の差がありました。ここまで差が出ると、国税庁が見直し圧力を受けるのは自然です。

少数株主向け配当還元方式の古さ

もう一つの論点が、配当還元方式です。会計検査院は、還元率10%が昭和39年の通達制定以来、約60年間見直されていないと指摘しました。金利水準が長期的に低下してきた現在からみると、10%という還元率は相対的に高く、そのぶん評価額を低く出しやすいと考えられます。

検査院の試算では、配当還元方式の還元率を9%から5%へ仮に引き下げた場合でも、大部分の会社で原則的評価方式を上回らず、評価額の合計は27億0754万円から最大54億1509万円まで増える可能性がありました。少数株主向けの簡便法が、時代の金利水準とずれている可能性が高いという指摘です。

一方で、国税庁は2026年3月25日、純資産価額方式の「評価差額に対する法人税額等相当額」の算定で使う割合を見直しました。令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設されたためで、2026年4月1日以後の相続・贈与等から、37%を前提としてきた控除割合は38%へ修正されます。ただ、これは税率改正への機械的対応であって、4倍差のような構造問題に手を入れたものではありません。現時点の公式改正はまだ限定的です。

事業承継に配慮が不可欠な理由

自社株強化は後継者資金を直撃する

非上場株の評価を厳格化すれば、公平性は改善するかもしれません。しかし、企業承継の現場ではそれだけでは済みません。相続税評価額が上がれば、後継者は納税資金を別途確保しなければならず、配当、借入、資産売却、あるいは会社経営への圧迫につながります。特に設備投資や雇用維持が重い中小企業では、自社株の評価増がそのまま資金繰りリスクになり得ます。

だからこそ、現行制度には法人版事業承継税制があります。国税庁のNo.4148によれば、認定を受けた非上場会社の株式を相続した後継者は、一定要件の下で相続税の納税猶予や免除を受けられます。特例措置では全株式が対象で、猶予割合は100%です。ただし、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日で、これはすでに過ぎました。いまから新たに特例ルートへ入ることはできませんが、一般措置は残ります。

つまり、評価見直しを進めるなら、「過度な節税の封じ込め」と「本当に会社を引き継ぐ後継者の資金負担をどう緩和するか」を一体で設計しなければなりません。単純に評価額だけ上げれば、公平には近づいても承継は難しくなります。逆に猶予制度だけ厚くして評価の歪みを放置すれば、節税目的の誘因が残ります。ここが最も難しい均衡点です。

望ましい見直しの方向

実務的に望ましいのは、一律の増税ではなく、歪みの大きい部分から狙い撃ちで補正することです。例えば、類似業種比準方式の選択肢やしんしゃく割合の再検証、配当還元方式の還元率見直し、特定評価会社の判定の精緻化などです。会計検査院も、方式ごとの評価額の乖離と金利変化の双方に着目しており、全面統一よりもまず「ずれの大きい箇所の是正」を促しているように読めます。

そのうえで、本当に事業承継が必要な会社には、納税猶予制度の使いやすさを高めることが必要です。制度の厳格化と承継支援は、本来セットで動かすべき政策です。非上場株の評価見直しは、富裕層対策の文脈だけで語ると設計を誤ります。

注意点・展望

この論点でまず避けたいのは、「評価額が低いのだから全部が不当節税だ」と決めつけることです。非上場株は市場価格が明確でなく、経営支配力の有無でも価値が変わります。一定の評価差があること自体は制度上やむを得ません。問題は、差が合理的範囲を超え、会社規模や株主区分の操作で税額差を作りやすくなっていることです。

逆に、「事業承継が大変だから現行維持でよい」とも言い切れません。会計検査院が示した中央値や合計額の差、そして国税庁自身の説明を見る限り、現行制度が公平性の面で相当苦しい局面にあるのは確かです。2026年3月の通達改正は技術的な税率調整にとどまりましたが、構造論としての見直し圧力は続くはずです。

今後の焦点は、どこまでを「正常な事業承継上の配慮」とし、どこからを「過度な節税」と線引きするかです。この線引きが曖昧なままでは、納税者も税務当局も不安定な状態が続きます。制度の予見可能性を高める意味でも、早い段階で見直しの方向性を明確にする必要があります。

まとめ

非上場株の相続税評価で4倍近い差が生じる背景には、会社規模と株主区分で分かれた複数方式の間に、大きな価格差が残っている現実があります。会計検査院は、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の27.2%にすぎないことを示し、公平性への疑問を突きつけました。

国税庁も、会社規模や特定評価会社の要件を意識した税負担軽減の操作が存在すると説明しています。ただし、自社株評価の厳格化を急げば、中小企業の事業承継を傷める副作用も大きいでしょう。必要なのは、評価の歪みを縮める改革と、真に承継が必要な企業を支える制度を同時に設計することです。非上場株の評価見直しは、節税封じだけでも、承継支援だけでも解けない問題です。

参考資料:

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