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by nicoxz

原油高が招く米景気後退リスク、ウォール街の警戒感

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はじめに

2026年3月、米国経済に暗雲が立ち込めています。米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となり、原油価格が急騰しました。WTI原油先物は攻撃前の1バレル67ドル前後から一時120ドル近くまで上昇し、世界経済に大きな衝撃を与えています。

ウォール街のエコノミストの間では、この原油高が長期化すれば米国がリセッション(景気後退)に陥るとの見方が日増しに強まっています。本記事では、米景気後退リスクの最新状況、FRBが直面するジレンマ、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

原油価格急騰の背景と経緯

ホルムズ海峡封鎖がもたらした供給ショック

2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃は、世界のエネルギー市場を一変させました。イランが報復としてホルムズ海峡の通行を妨害したことで、世界の石油輸送の約2割を担うこの海峡が事実上の封鎖状態に陥りました。

ホルムズ海峡は日量約2,000万バレルの石油が通過する世界最大のエネルギー輸送路です。封鎖から4週間が経過した3月下旬時点でも、完全な再開には至っていません。UAE(アラブ首長国連邦)やクウェートも原油生産の削減を開始しており、供給制約は一段と深刻化しています。

原油価格の推移と今後の見通し

WTI原油先物価格は、攻撃前日の2月27日時点で1バレル67.02ドルでした。それが3月初旬には90ドルを突破し、3月9日には一時120ドル近くにまで急騰しました。その後、3月23日にトランプ米大統領がイランとの対話をSNSで明らかにし、攻撃の5日間延期を発表したことで原油価格は一時下落に転じましたが、依然として高水準で推移しています。

ブラックロックのラリー・フィンクCEOは「原油価格が1バレル150ドルまで持続的に上昇すれば、急激かつ深刻なリセッションに直結する」と警告しています。野村證券の分析でも、停戦交渉の進展如何によっては、価格が再び上昇基調に転じるリスクがあるとされています。

ウォール街が警戒するリセッションリスク

ムーディーズ・マーク・ザンディ氏の分析

米格付け大手ムーディーズのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は3月25日、米経済番組CNBCに出演し、景気後退リスクが50%近くに達していると指摘しました。同氏は「原油価格が第2四半期に1バレル125ドル前後で推移すれば、リセッションの引き金になる」とするモデル分析を提示しています。

ザンディ氏によれば、リセッションリスクの上昇は原油高だけが原因ではありません。労働市場の軟化がイラン紛争以前から進行しており、2月の非農業部門雇用者数は9万2,000人の大幅減少に転落、失業率は4.4%に上昇していました。同氏は「2026年後半までにリセッション入りする可能性が高い」との見方を示しています。

各金融機関の見通し

ゴールドマン・サックスは、今後12カ月以内にリセッションに陥る確率を30%と試算しています。同社は失業率が年末までに4.6%に上昇すると予測しており、当初の楽観的な成長見通しからの下方修正を余儀なくされています。

一方、JPモルガンのストラテジストは歴史的なパターンに注目しています。1970年代以降に発生した石油ショック5件のうち4件が景気後退につながった事実を踏まえ、「投資家は現在のエネルギーコスト高による経済的打撃を十分に織り込んでいない」と警鐘を鳴らしています。ドイツ銀行やオックスフォード・エコノミクスも、リセッションとスタグフレーションのリスク上昇を指摘しています。

FRBが直面する金融政策のジレンマ

利下げも利上げもできない「板挟み」

FRBは3月18日の会合で、政策金利を3.50〜3.75%に据え置く決定を下しました。原油高によるインフレ圧力と、景気減速の兆候という相反する要因に挟まれ、身動きが取れない状況に陥っています。

従来、市場では2026年中の追加利下げが期待されていました。しかし、原油高がインフレを押し上げたことで、利下げ観測は完全に消滅しました。短期金融市場では一時、FRBが10月までに利上げを行う確率を50%織り込む場面もありました。

スタグフレーションの懸念

インフレ率は当初の見通しである2%を大幅に上回り、年末には3%近くに達するとの予測が複数の金融機関から出ています。一方で雇用は悪化し、消費者心理も冷え込んでいます。景気が悪化しながら物価が上昇する「スタグフレーション」のリスクが現実味を帯びてきました。

パウエルFRB議長は記者会見でスタグフレーションの可能性を問われ、「その言葉はもっと深刻な状況のために取っておくものだ」と述べ、慎重な姿勢を見せました。しかし、市場関係者の間では、FRBが後手に回っているとの批判も出始めています。

株式市場への影響と投資家の動向

3月24日のダウ工業株30種平均は、朝方に大きく下落した後、買い直しも入り方向感の定まらない展開となりました。終値は前日比84.41ドル安の46,124.06ドルでした。イラン停戦交渉への期待と原油高への不安が交錯し、投資家心理は不安定な状態が続いています。

VIX指数(恐怖指数)は上昇傾向にあり、市場の警戒感の高まりを示しています。米国債利回りの上昇も、ハイテク株やソフトウェア株の売り圧力となっています。一方、エネルギー関連株や防衛関連株は堅調に推移しており、セクター間の明暗が鮮明になっています。

注意点・今後の展望

停戦交渉の行方が鍵

今後の最大の焦点は、米国とイランの停戦交渉の行方です。3月23日にはトランプ大統領がイランとの対話に言及し、攻撃延期を発表したことで市場に安堵感が広がりました。S&P500は1%超上昇し、原油価格も5%下落しました。停戦が実現すれば、原油価格の急落とともに景気後退リスクも大幅に後退する可能性があります。

しかし、楽観は禁物です。ホルムズ海峡の完全再開には時間がかかる見通しであり、仮に停戦が成立しても、サプライチェーンの正常化には数カ月を要する可能性があります。原油価格が高止まりする期間が長引くほど、消費者や企業への影響は深刻化します。

過去の教訓に学ぶ

第二次世界大戦後、新型コロナウイルスのパンデミックを除くすべての米国のリセッションは、原油価格の急騰が先行していたという歴史的事実があります。1970年代のオイルショック、1990年の湾岸戦争、2008年の原油高騰など、いずれもエネルギー価格の上昇が景気後退の引き金となりました。今回の原油高が同様のパターンをたどるかどうか、慎重な見極めが必要です。

まとめ

イラン紛争を発端とする原油価格の急騰は、米国経済にリセッションの影を落としています。ムーディーズのザンディ氏をはじめとするウォール街のエコノミストたちは、景気後退確率が50%近くに達していると警告しています。FRBはインフレと景気減速の板挟みに苦しみ、有効な金融政策を打ち出せない状況です。

今後の焦点は、停戦交渉の進展と原油価格の動向です。投資家にとっては、ポートフォリオのリスク管理を強化し、エネルギー価格の変動に備えた分散投資を検討する時期と言えます。過去の石油ショックの教訓を踏まえ、楽観的なシナリオだけでなく、景気後退が現実化した場合の対応策も視野に入れておくことが重要です。

参考資料:

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