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by nicoxz

円安で変わるご当地料理、国産食材シフトの最前線

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はじめに

長引く円安の影響で、輸入食材の価格が軒並み上昇しています。かつて「庶民の味」として親しまれてきたご当地料理の食材コストも例外ではありません。しかし、日本各地の食文化はこの逆風にしなやかに対応し始めています。

北海道では羊肉の代わりに豚肉や鶏肉を使った「豚ジン」「鶏ジン」が人気を集め、回転寿司大手のくら寿司はAIを活用した自社養殖に本格参入しています。〆さばの原価が2倍に跳ね上がる中、国産食材への回帰と生産力の強化が各地で加速しています。本記事では、円安時代に変貌するご当地料理の最前線を詳しく解説します。

ラム肉高騰で生まれた新定番「豚ジン」「鶏ジン」

輸入羊肉の価格が急騰した背景

北海道のソウルフードであるジンギスカンは、長年にわたりオーストラリアやニュージーランドからの輸入羊肉に支えられてきました。日本国内で消費される羊肉のほとんどは輸入品であり、円安の進行は直接的な価格上昇につながります。

さらに追い打ちをかけたのが、中国やアメリカでの羊肉需要の急拡大です。世界的な需給バランスの変化により、ラム肉の国際価格は2020年代に入って大幅に上昇しました。札幌市内のスーパーでは、ラム肉のジンギスカン用パックが100グラムあたり400円を超える場面も珍しくなくなっています。

豚肉・鶏肉で楽しむジンギスカン文化

こうした状況の中で注目を集めているのが、豚肉を使った「豚ジン」と鶏肉を使った「鶏ジン」です。札幌市内のスーパーでは100グラム200円前後と、ラム肉の半額程度で購入できます。

豚ジンは単なるラム肉の「代替品」ではありません。ジンギスカン専用の甘辛いタレとの相性が良く、豚肉ならではのジューシーさが家庭の食卓で新たなファンを獲得しています。北海道の食品メーカーからは、味付き豚ジンギスカンや鶏ジンギスカンの専用商品も発売され、通販サイトでも取り扱いが広がっています。

ジンギスカン文化を「羊肉でなければならない」という固定観念から解放し、身近な食材で日常的に楽しめる料理へと進化させた点が、豚ジン人気の本質です。家計への負担を抑えながらも、北海道の食文化を守り続ける知恵といえます。

〆さば原価2倍の衝撃と水産業界の苦悩

ノルウェー産サバの漁獲枠削減

日本人に馴染み深い〆さばの原材料であるサバも、大きな価格変動に見舞われています。日本が輸入するサバの約9割を占めるノルウェー産サバは、2024年に漁獲枠が2割削減されたことを機に国際価格が急騰しました。

さらに深刻なのは、2026年のノルウェーサバの漁獲枠がさらに大幅に削減される見通しであることです。かつてキロあたり200円程度だった原料価格は、2025年時点で3倍近くにまで上昇しています。円安による為替差損も加わり、〆さばの原価は実質的に2倍以上に膨れ上がっています。

小売・飲食店への波及

かつて2枚1パックで200〜300円ほどだったサバのフィーレは、400円、500円と上昇を続けています。居酒屋や定食店にとって「庶民の魚」だったサバは、もはやコスト管理の難しいメニューになりつつあります。

こうした状況を受け、国産サバへの注目度が高まっています。国内漁獲量には限りがあるものの、為替変動の影響を受けにくい国産品への切り替えを検討する飲食店が増えています。未利用魚の活用や、これまで流通に乗りにくかった地場の魚種を積極的に取り入れる動きも広がっています。

くら寿司が切り開く「自社養殖」の未来

KURAおさかなファームの挑戦

回転寿司大手のくら寿司は、輸入魚価格の高騰に対して、より根本的な解決策に乗り出しています。2021年11月に100%出資の子会社「KURAおさかなファーム」を設立し、回転寿司チェーンとして初めて水産専門会社を持つ企業となりました。

同社が推進するのは、AI・IoT技術を駆使した「スマート養殖」です。AI搭載のスマート給餌機を活用し、魚の状態に応じた最適な餌やりを自動化することで、飼料コストの削減と品質の安定化を実現しています。2022年には業界初となるAIスマート給餌機によるハマチの養殖に成功し、全国の店舗で「AIはまち」として販売しました。

養殖から加工・販売まで一気通貫

KURAおさかなファームの事業は「自社養殖」「委託養殖」「卸売」の3本柱で構成されています。2025年5月には愛媛県宇和島市で委託養殖したクロマグロの初出荷も実現しました。

さらに注目すべきは、希少な高級魚「スマ」をAI技術で養殖した「AIスマガツオ」の販売です。従来は市場にほとんど出回らなかった天然魚を、スマート養殖によって安定供給することに成功しています。養殖から加工・販売まで一気通貫の体制を構築することで、為替変動に左右されない安定した食材調達を目指しています。

このモデルは、円安対策としてだけでなく、日本の水産業が抱える後継者不足や漁獲量減少といった構造的課題に対する解決策としても期待されています。

注意点・展望

国産回帰は万能ではない

国産食材へのシフトは円安対策として有効ですが、いくつかの課題も存在します。まず、国内の生産能力には限界があり、すべての輸入食材を国産に置き換えることは現実的ではありません。養殖事業も軌道に乗るまでには数年単位の投資と技術蓄積が必要です。

また、国産品の価格も人件費や飼料代の上昇により徐々に上がっています。帝国データバンクの調査によれば、2025年の食品値上げは2万品目を超え、原材料高に加えて物流費や人件費の上昇が主要因となっています。

今後の見通し

一方で、輸入品と国産品の価格差が縮小していることは、国産食材を選びやすい環境を生み出しています。飲食店においても輸入肉から国産肉への切り替えが進んでおり、この流れは今後も続くと見られます。

くら寿司のようなスマート養殖の取り組みが業界全体に広がれば、水産物の安定供給と価格抑制の両立が期待できます。スシローなど他の回転寿司チェーンも陸上養殖や完全養殖に取り組み始めており、業界全体で国産シフトの機運が高まっています。

まとめ

円安による輸入食材の高騰は、日本のご当地料理に大きな変化をもたらしています。北海道の「豚ジン」「鶏ジン」は、コスト圧力の中からジンギスカン文化を守る新たな形として定着しつつあります。〆さばの原価高騰は水産業界に国産回帰を促し、くら寿司のスマート養殖は食材調達の構造そのものを変えようとしています。

これらの動きに共通するのは、円安という制約を「国産食材の再評価」と「生産技術の革新」に転換する発想です。消費者にとっては、地元の食材や新しい食べ方を発見するきっかけにもなっています。食卓の変化を前向きに捉え、日本の食の底力に注目してみてはいかがでしょうか。

参考資料:

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