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by nicoxz

防衛装備品ローン残高が急膨張、円安が追い打ち

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はじめに

日本の防衛費が歴史的な転換期を迎えています。2022年末に策定された「防衛力整備計画」に基づき、5年間で43兆円規模の防衛力強化が進む中、装備品調達に伴う「後年度負担」、いわゆる兵器ローンの残高が急速に膨張しています。2026年度の未払い残高は約16兆円に達し、現行計画が始まる直前の2022年度と比べて約3倍の水準です。

この急増の背景には、護衛艦やミサイル、戦闘機といった高額装備品の大量調達に加え、ドル建て契約における円安の影響があります。防衛予算の半分以上がローン返済に充てられる現状は、次期計画の策定にも影を落としています。

後年度負担とは何か

複数年度にわたる「ツケ払い」の仕組み

後年度負担とは、護衛艦や戦闘機など納入までに複数年度を要する装備品について、分割で支払う契約のことです。防衛省は巨額の費用を一括で支払う代わりに、原則5年以内の範囲で複数年度に分けて支払う契約を結びます。これにより、単年度の予算負担を抑えつつ、安定的に高額装備品を調達できるメリットがあります。

しかし、この仕組みは「将来の予算で支払う約束」を積み上げていくことを意味します。新規に契約するローンが返済額を上回れば、未払い残高は雪だるま式に増えていきます。

残高16兆円超、過去最高を更新

2026年度予算案では、新規の後年度負担額として約6兆8,953億円が計上されました。この結果、未払い残高は約16兆350億円に達し、過去最高を更新しています。2022年度時点では約5兆円台だった残高が、わずか4年で3倍に膨れ上がった計算です。

2026年度の防衛関係費は9兆353億円と、当初予算として初めて9兆円の大台を突破しました。このうち、過去に契約したローンの返済にあたる「歳出化経費」が全体の50%超を占めています。つまり、防衛予算の半分以上が過去の装備品購入の支払いに消えている状況です。

円安が押し上げるドル建て調達コスト

FMS調達と為替リスク

防衛装備品の調達コストを押し上げている大きな要因が円安です。特に、米国政府から装備品を購入する「有償軍事援助(FMS)」はドル建てで契約されるため、為替変動の影響を直接受けます。

会計検査院の調査によると、2023〜2025年度のFMS支払いにおいて、円安の影響で約3,000億円の追加負担が発生する見通しです。契約時には1ドル=110円前後だったレートが、支払い時には137〜150円台まで円安が進んだことが原因です。

2026年度の支出官レートは149円

2026年度予算では、ドル建て契約の換算に用いる「支出官レート」が1ドル=149円に設定されています。2022年度に1ドル=110円前後だったことを考えると、同じ装備品でも円建ての支払額は大幅に膨らむことになります。

護衛艦や潜水艦、F-35戦闘機をはじめとする主要装備品の多くは、米国製の構成部品やシステムを含んでおり、円安の影響は国産装備品にも波及しています。防衛省は「必要な装備の購入を進めており、円安や人件費の高騰の影響も受ける」と説明しています。

43兆円計画の進捗と次期計画への影響

現行計画は77%が計上済み

現行の防衛力整備計画(2023〜2027年度)は、5年間で43兆円規模の防衛力強化を目指しています。2026年度までの経費を合算すると、計画全体の約77%が予算計上された計算です。スタンド・オフ防衛能力の強化や無人アセットの整備、統合防空ミサイル防衛など7つの重点分野で装備品の調達が進んでいます。

しかし、急速に積み上がった後年度負担は、計画最終年度の2027年度だけでなく、2028年度以降の次期計画にも重くのしかかります。衆議院調査局の試算では、現行計画に基づく装備品調達を完了した場合、2028年度以降に支払うべき物件費は16.5兆円程度に達すると見込まれています。

予算の硬直化リスク

後年度負担の膨張は「予算の硬直化」を招く深刻な問題です。毎年の防衛予算のうちローン返済に充てる割合が高まれば、新規の装備品調達や訓練費、人件費など、他の必要経費に回せる余裕が縮小します。

野村総合研究所の分析では、防衛費のさらなる増額は国民負担の増加につながる可能性が指摘されています。政府は2027年度にGDP比2%の防衛費を目指していますが、安定財源の確保が課題として残されています。増税や国債発行による財源確保をめぐっては、与野党間でも意見が分かれている状況です。

注意点・展望

後年度負担の急増について、いくつかの注意点があります。まず、ローン残高の「3倍」という数字は、2022年度からの比較であり、それ以前から後年度負担は存在していた点です。安保3文書に基づく大幅な防衛力強化が始まったことで、増加ペースが加速したと理解すべきです。

また、後年度負担は装備品の「分割払い」であり、借金そのものではありません。ただし、将来の予算を拘束する点では実質的にローンと同じ機能を果たしています。

今後の焦点は、2028年度以降の次期防衛力整備計画の策定です。現行計画で積み上がった後年度負担をどう消化しつつ、新たな装備品調達を進めるのか。為替動向も含め、防衛財政のかじ取りは一層難しくなります。円安が今後も継続すれば、FMS調達を中心にさらなるコスト増が避けられません。

まとめ

防衛装備品の後年度負担残高は4年間で3倍の16兆円超に膨張し、過去最高を更新しました。43兆円規模の防衛力整備計画に基づく大量調達と、ドル建て契約における円安の影響が主な要因です。防衛予算の半分以上がローン返済に充てられる現状は、次期計画の策定に大きな制約を課すことになります。

防衛力の強化と財政の持続可能性をどう両立させるか。2027年度のGDP比2%目標の達成と、その先の安定的な防衛力整備に向けて、財源確保の議論がますます重要になっています。

参考資料:

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