BGM使用料、歌手・演奏家にも支払いへ——文化庁が新制度導入
はじめに
商業施設や飲食店で流れるBGM。その使用料はこれまで作詞・作曲家にのみ支払われてきましたが、文化庁がこの制度を大きく変えようとしています。歌手や演奏家にもBGM使用料が支払われる新たな法的権利を導入する方針です。
海外では広く導入済みのこの権利が、日本では法整備が遅れていました。そのため、日本の楽曲が海外で使われても、国内外で実演家が対価を受け取れない状態が続いていました。
J-POPの国際的な人気が高まる中、この制度改正はアーティストの収益機会を拡大し、日本のコンテンツ産業の稼ぐ力を高める狙いがあります。
現行制度の仕組みと課題
著作権と著作隣接権の違い
音楽には大きく2種類の権利があります。楽曲そのもの(歌詞とメロディ)を創作した人が持つ「著作権」と、その楽曲を歌ったり演奏したりして伝える人が持つ「著作隣接権」です。
著作権は作詞家・作曲家に帰属し、日本音楽著作権協会(JASRAC)などが管理しています。一方、著作隣接権は実演家(歌手、演奏家、指揮者など)やレコード製作者(レコード会社など)、放送事業者に認められています。
演奏権が含まれていない日本の著作隣接権
日本の著作権法では、実演家やレコード製作者の著作隣接権に「演奏権」が含まれていません。つまり、店舗でCDをそのまま再生してBGMとして使う場合、作詞・作曲家への使用料は発生しますが、歌手や演奏家への支払いは発生しないのです。
外国では、著作隣接権者に演奏権を認めている国も多く存在します。この国際的なギャップが、日本のアーティストにとって不利な状況を生み出してきました。
国際的な収益機会の喪失
現行制度では、日本の楽曲が海外の商業施設で使用された場合でも、日本の実演家は対価を受け取ることができません。海外の法律が実演家への報酬を認めていても、日本側の法律が対応していないため、分配を受ける仕組みがないのです。
J-POPの国際的な人気が高まる中、この問題の解決が急務となっていました。
文化庁の新制度導入へ
文化審議会での議論
文化庁は2024年8月に小委員会を設置し、レコード会社や歌手・演奏家に新たな権利を付与する議論を開始しました。年内に方向性を固め、早ければ2026年の通常国会に著作権法の改正案を提出する予定です。
文化審議会の最終的な取りまとめを受けて、2023年以降の法改正を目指しています。
新制度の概要
新制度が実現すれば、飲食店や小売店などで流す音楽について、店舗から使用料を徴収し、演奏家らに分配することになります。作詞・作曲家だけでなく、実演家やレコード製作者も、自分たちの作品がBGMとして使われるたびに対価を得られるようになります。
使用料の徴収・分配の仕組み
現在、放送やCDレンタルでの著作隣接権使用料は、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)内の実演家著作隣接権センター(CPRA)や、一般社団法人日本レコード協会などの指定団体が徴収・分配を行っています。
新制度においても、同様の仕組みが構築されることが想定されます。
飲食店・小売店への影響
新たなコスト負担への懸念
新制度の導入により、BGMを使用する飲食店や小売店には新たなコスト負担が発生する可能性があります。現在、JASRACへの著作権使用料を支払っている店舗は多いですが、これに加えて著作隣接権の使用料も発生することになります。
業界からは反発の声も上がっており、制度設計においては店舗側の負担に配慮した仕組みが求められています。
既存のBGM契約との関係
現在、多くの店舗は有線放送やBGMサービスを通じて音楽を利用しています。これらのサービス事業者がまとめて著作権処理を行っているケースが多いため、新制度導入後の具体的な負担がどのようになるかは、今後の制度設計次第です。
J-POP人気拡大を追い風に
世界で広がる日本音楽の需要
J-POPの国際的な人気は急速に高まっています。世界最大級の音楽データ分析会社Luminateによると、J-POPのシェアはアメリカで1.9%、台湾で8.5%、香港で6.9%、韓国で4.0%に達しています。
2023年には世界で再生された上位1万曲のうち、J-POPは前年比50%増の約2.1%に達し、K-POPの約2.4%に迫る勢いです。YOASOBI、Ado、Creepy Nutsなど、海外で高い人気を誇るアーティストも増えています。
ストリーミング時代の収益機会
音楽ストリーミング市場は成長を続けており、2024年にはグローバルで初めて200億ドルを突破しました。日本政府は2033年までに音楽産業の輸出額を20兆円に引き上げる計画を発表しており、アーティストの海外収益を拡大する制度整備は国家戦略とも連動しています。
国際標準への対応
海外で広く認められている実演家の権利を日本でも導入することで、国際的な相互主義に基づく収益分配が可能になります。日本のアーティストが海外で正当な対価を受け取り、海外のアーティストも日本で権利を行使できる環境が整います。
注意点・展望
実務上の課題
新制度を円滑に運用するためには、使用料の算定方法、徴収・分配の仕組み、既存のBGMサービスとの連携など、多くの実務的課題を解決する必要があります。また、どのような事業者が対象となるのか、使用料の水準はどうするのかといった制度設計も重要です。
今後のスケジュール
文化庁は文化審議会小委員会での議論を経て、方向性を固める予定です。早ければ2026年の通常国会に著作権法改正案が提出され、その後の施行に向けた準備が進められることになります。
アーティストへの期待される効果
新制度が実現すれば、歌手や演奏家にとって新たな収益源が生まれます。特に、自分の楽曲が多くの商業施設で使われているアーティストにとっては、相当な収益増加が見込まれます。また、海外で日本の楽曲が使用された場合の対価受領も可能になり、J-POP産業全体の活性化につながることが期待されます。
まとめ
文化庁は、商業施設などで流すBGMの使用料を作詞・作曲家だけでなく、歌手や演奏家にも支払う新たな法的権利の導入を進めています。
海外では広く認められているこの権利が日本で未整備だったため、J-POPの国際的な人気にもかかわらず、実演家が正当な対価を受け取れない状況が続いてきました。
新制度の導入により、アーティストの収益機会が拡大し、日本のコンテンツ産業の国際競争力強化につながることが期待されます。飲食店や小売店への影響など課題もありますが、日本の音楽産業の稼ぐ力を高める重要な一歩となりそうです。
参考資料:
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