Research
Research

by nicoxz

9割が間違う「普段の呼吸」が不調と死亡リスクに影響

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

「腰が痛い」「疲れが取れにくい」「眠りが浅い」——年齢を重ねるにつれ、こうした不調を感じる人は少なくありません。実は、その原因が毎日無意識に繰り返している「呼吸」にあるかもしれません。

呼吸コンサルタントの大貫崇氏は「1日約2万回も呼吸をしているのに、9割の人が正しい『体に良い呼吸』ができていない」と指摘しています。本記事では、体に悪い呼吸とはどのようなものか、どんな健康リスクがあるのか、そして改善するにはどうすればよいかを、最新の研究知見とともに解説します。

「体に悪い呼吸」の正体

口呼吸がもたらす深刻な影響

体に悪い呼吸の代表格が「口呼吸」です。本来、呼吸は鼻から行うのが正常ですが、多くの人が無意識のうちに口で呼吸する習慣がついています。口呼吸では、鼻にある繊毛やフィルター機能が使われないため、細菌やウイルスを含んだ空気が直接体内に取り込まれます。

口呼吸の影響は多岐にわたります。口腔内が乾燥することで口臭や虫歯、歯周病のリスクが高まります。さらに、舌の位置が下がることでいびきや睡眠時無呼吸症候群を引き起こしやすくなり、睡眠の質が低下します。睡眠の質が悪くなれば、日中の疲労感や集中力の低下にもつながります。

浅い呼吸の負のループ

もう一つの問題が「浅い呼吸」です。デスクワークやスマートフォンの長時間使用により、猫背の姿勢が常態化すると、横隔膜の動きが制限され、呼吸が浅くなります。1回の呼吸で取り込む空気の量が少なくなるため、呼吸数が増加します。

呼吸が浅くなると血中の二酸化炭素のバランスが崩れ、酸素が組織に届きにくくなります。その結果、さらに疲れやすくなり、また呼吸が浅くなるという負のループに陥ります。大貫氏はこのメカニズムが、多くの人が抱える慢性的な疲労感の原因になっていると説明しています。

呼吸が死亡リスクにも影響する科学的根拠

機能不全呼吸と慢性疾患の関連

医学的に「機能不全呼吸(dysfunctional breathing)」と呼ばれる状態は、近年の研究で深刻な健康リスクとの関連が明らかになっています。2025年の研究では、機能不全呼吸のスコアが高いほど、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の重症度や急性増悪の頻度が上がり、入院や死亡のリスクも高まることが示されました。

機能不全呼吸は喘息患者だけの問題ではありません。地域住民を対象とした調査では、喘息を持たない一般成人にも相当数の機能不全呼吸が確認されています。知らないうちに体に負担をかける呼吸パターンが定着しているケースは、想像以上に多いのです。

慢性疲労との意外なつながり

2025年に発表された研究では、慢性疲労症候群の患者の多くが機能不全呼吸を併発していることが判明しました。患者の約3分の1が過呼吸の状態にあり、それが疲労症状をさらに悪化させているという結果が報告されています。

呼吸パターンの改善が慢性疲労の治療につながる可能性が示唆されており、従来の治療法では効果が限られていた患者にとって、新たな選択肢となることが期待されています。

生活習慣病への波及

悪い呼吸習慣は、高血圧、糖尿病、心疾患などの生活習慣病とも関連している可能性が指摘されています。自律神経のバランスが乱れることで、血圧の調節機能や血糖値のコントロールに影響が及ぶためです。1日2万回の呼吸の質が少しでも改善されれば、これらのリスクを軽減する効果が期待できます。

正しい呼吸法と改善のポイント

鼻呼吸を基本にする

改善の第一歩は、鼻呼吸を意識することです。鼻呼吸を行うと、鼻腔内のフィルター機能で空気が浄化・加湿されます。さらに、鼻呼吸により一酸化窒素(NO)が産生され、気管支の拡張や殺菌効果が得られます。

姿勢も自然と良くなり、肋骨の筋肉が広がることで横隔膜が使いやすくなります。腹部も活用した、ゆったりとした深い呼吸が実現します。

横隔膜を意識した腹式呼吸

大貫氏が提唱する「きほんの呼吸」では、横隔膜を正しく動かすことが重要とされています。横隔膜がきちんと動けば、少ないエネルギーで効率の良い呼吸が可能になります。

具体的な方法としては、まず楽な姿勢で座り、鼻からゆっくりと息を吸います。このとき、胸ではなくお腹が膨らむことを意識します。次に、口をすぼめて細く長く息を吐きます。吸う時間の2倍程度の時間をかけて吐くことがポイントです。

日常に取り入れるコツ

呼吸の改善は、特別な時間を設けなくても日常生活の中で実践できます。デスクワーク中に1時間に1回、数回の深呼吸を意識するだけでも効果があります。就寝前に5分間の腹式呼吸を行うことで、副交感神経が優位になり、睡眠の質の向上も期待できます。

アスリートの間でも呼吸法の見直しが広がっています。研究によると、機能不全呼吸パターンは筋骨格系の障害リスクやパフォーマンスの低下と関連しており、呼吸スクリーニングの重要性が認識されつつあります。

注意点・展望

呼吸法の改善は手軽に始められる健康対策ですが、いくつかの注意点があります。まず、極端な呼吸法の実践は逆効果になる場合があります。過度な深呼吸は過呼吸を引き起こすリスクがあるため、無理のない範囲で行うことが大切です。

また、慢性的な息切れや呼吸困難がある場合は、呼吸器疾患や心疾患などの基礎疾患が隠れている可能性があります。呼吸の問題が続く場合は、まず医療機関で検査を受けることが推奨されます。

今後は「応用呼吸科学」として、生理学と心理学の両面から呼吸を科学的にアプローチする分野がさらに発展することが見込まれています。

まとめ

1日約2万回行う呼吸の質は、慢性的な不調から生活習慣病、さらには死亡リスクにまで影響を与える可能性があります。口呼吸や浅い呼吸といった「体に悪い呼吸」は9割の人に当てはまるとされ、多くの人が改善の余地を持っています。

鼻呼吸を基本にし、横隔膜を意識した腹式呼吸を日常に取り入れることで、健康リスクの軽減が期待できます。特別な道具も費用もかからない呼吸法の見直しは、最もシンプルで効果的な健康対策の一つです。

参考資料:

関連記事

最新ニュース