電通グループ株価急落、海外事業売却交渉が暗礁に乗り上げた背景

by nicoxz

はじめに

2026年1月14日、電通グループの株価が後場に急落し、前日比11%以上の下落となりました。きっかけは、英フィナンシャル・タイムズ(FT)が「海外事業の売却交渉から買い手候補が撤退した」と報じたことです。

電通グループは、不振が続く海外事業の立て直しを模索する中、英国拠点の海外事業売却を検討してきました。しかし、複数の買い手候補が相次いで撤退し、売却交渉は事実上崩壊したとされています。この記事では、電通の海外事業がなぜ不振に陥ったのか、売却交渉が頓挫した背景、そして今後の再建の見通しについて解説します。

売却交渉崩壊の経緯

FT報道の内容

FTによると、電通は2025年から英国拠点の海外事業(Dentsu International)の売却を検討してきました。2024年の純売上高は45億ドル以上に上る大規模な事業体です。買収候補として、競合する広告グループ各社やプライベートエクイティ(PE)ファンドのアポロなどが交渉に参加していました。

しかし、アポロを含む主要な買い手候補は昨年の段階で交渉から撤退。ベインキャピタルが唯一残った入札者となりましたが、「大きな懸念を抱いている」とされ、最終的に五十嵐博CEO が取締役会に対し、ベインとの交渉も継続困難になったと報告したとされています。

市場の反応

この報道を受け、電通グループの株価は東京市場で11%下落し、時価総額は約8,350億円(53億ドル)に縮小しました。投資家は、海外事業の再建に向けた有力な選択肢が消えたことを懸念しました。

電通グループは「海外事業について何ら発表を行っていない」とコメントしていますが、売却交渉の頓挫は、グループ再建の先行きに大きな不透明感をもたらしています。

海外事業不振の根本原因

Aegis買収から始まった海外展開

電通の海外事業の蹉跌を理解するには、2012年のAegis買収にさかのぼる必要があります。電通は約4,000億円(当時約23億ポンド)を投じて英国の広告グループAegisを買収し、海外事業を統括する「電通イージス・ネットワーク」を設立しました。

その後7年間で、世界の中小広告会社約200社を傘下に収め、積極的なM&Aによるグローバル展開を推進しました。しかし、買収した企業の多くは旧来型の代理店ビジネスであり、デジタル化の波に対応できていませんでした。

構造的な問題点

電通の海外事業が抱える問題は複合的です。

1. ビジネスモデルの不適合

電通は日本市場で、メディア、エンターテインメント、広告、プロモーションを垂直統合したビジネスモデルで成功を収めてきました。しかし、このモデルは欧米市場では再現できず、現地の人材獲得にも苦戦しています。

2. デジタル化の遅れ

日本の広告市場はテレビ広告への依存度が高く、デジタル化が遅れています。高齢化社会において従来型メディアが根強い支持を得ているためですが、海外では事情が異なります。デジタル広告やデータドリブンマーケティングへの対応が競合に後れを取りました。

3. 競争環境の激化

広告業界ではオムニコムとIPGの合併検討、ピュブリシスの台頭など、競争環境が大きく変化しています。電通の旧来型ビジネスモデルでは、こうした競争に対応できないとの見方が広がっています。

巨額の減損損失

海外事業の不振は財務面にも深刻な影響を及ぼしています。2024年に14億ドル、2025年に11億ドルの減損損失を計上しました。2025年12月期の連結最終損益は529億円の赤字となる見通しで、3期連続の赤字となります。

構造改革の取り組み

3,400人の人員削減

電通グループは2025年8月、海外で従業員の約8%にあたる約3,400人を削減すると発表しました。対象はヘッドクオーターとバックオフィス部門で、2027年までに年間約520億円のコスト削減を目指します。これは2020年に発表した5,800人超の削減に次ぐ規模です。

2025年は「これまでのうみを出し切る期間」と位置づけ、割増退職金などの構造改革費に270億円を投じています。不採算市場からの縮小・撤退も進めており、2026年には「赤字マーケットゼロ」を目標に掲げています。

中期経営計画2025-2027

電通グループは2025年2月に中期経営計画を発表し、M&A偏重の成長戦略を見直してオーガニック(自力)成長への回帰を打ち出しました。2025年は収益性の回復に集中し、2027年に成長軌道への復帰を目指す計画です。

遠藤茂樹グローバル最高財務責任者(CFO)は「海外の各事業からの撤退や一部売却を含め、26年早々にグループ全体の再建の方向性を示したい」と述べており、売却以外の選択肢も模索しています。

外部資本の受け入れも視野

五十嵐CEOは「さらに踏み込んだ施策として包括的かつ戦略的なパートナーシップを検討している」と述べ、一部に外部資本を受け入れる可能性にも言及しています。全面売却ではなく、部分的な資本提携という選択肢も残されています。

注意点・今後の展望

経営陣への信任問題

FTによると、電通の取締役会は、2026年3月の株主総会で五十嵐CEOの再任が株主によって阻止される可能性を懸念しています。海外事業の立て直しや売却が度重なる失敗に終わったことで、経営陣への信任が揺らいでいるためです。

広告業界全体の構造変化

電通の苦境は同社固有の問題だけでなく、広告業界全体の構造変化を反映しています。デジタル広告の台頭、AI技術の進展、クライアント企業のインハウス化など、従来の広告代理店モデルを脅かす変化が進んでいます。

業界専門家は「電通の売却検討、WPPの混乱、オムニコムとIPGの合併協議は、広告業界の巨人たちがつまずいていることを示している。これは自然淘汰であり、適応するか絶滅するかだ」と指摘しています。

日本事業は好調

一方で、日本国内の事業は堅調です。五十嵐CEOは「日本事業は純売上高と基礎的な営業利益で過去最高を達成し、9四半期連続の成長を記録した」と述べています。国内事業の好調が海外事業の不振を一部カバーしている状況です。

まとめ

電通グループの株価急落は、海外事業売却交渉の崩壊という報道を受けたものでした。2012年のAegis買収に始まる海外展開は、M&A偏重の戦略と旧来型ビジネスへの依存が裏目に出て、巨額の減損損失と3期連続の赤字につながりました。

売却という選択肢が消えた今、電通グループは構造改革による自力再建の道を模索せざるを得ません。3,400人の人員削減や不採算事業からの撤退を進めながら、2027年の成長軌道復帰を目指しています。経営陣への信任問題も浮上する中、日本を代表する広告グループの行方が注目されます。

参考資料:

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