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by nicoxz

供給不足薬に海外代替品の優先審査導入へ 厚労省の新制度

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はじめに

日本の医療現場では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)を中心とした医薬品の供給不足が深刻な問題となっています。2025年の調査では、医療用医薬品の約20%が通常出荷できない状態にあり、患者の治療に支障をきたすケースも報告されています。

こうした事態を受け、厚生労働省は2026年5月から、供給が不足している医薬品について、同一成分の海外代替品を優先的に審査する新たな仕組みを導入する方針を打ち出しました。この記事では、新制度の概要や背景にある医薬品供給問題、そして医療現場への影響について詳しく解説します。

新制度の概要と対象範囲

優先審査の仕組み

厚生労働省が導入する新制度は、国内で供給が不足している後発医薬品などについて、海外で承認済みの同等品を迅速に国内承認するための枠組みです。通常の薬事承認プロセスでは申請から承認まで相当の期間を要しますが、新制度ではこの期間を大幅に短縮します。

対象となるのは、国内で既に承認されている医薬品と有効成分、分量、用法、効能などが同一であり、かつ海外での使用実績がある製品です。海外での承認実績や安全性データを活用することで、国内での審査プロセスを効率化する狙いがあります。

対象5カ国の選定基準

新制度で認められる海外承認国は、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランスの5カ国に限定されています。これらの国々は、いずれも厳格な薬事規制を有しており、医薬品の品質・安全性・有効性について高い審査基準を維持しています。

米国のFDA(食品医薬品局)、英国のMHRA(医薬品・医療製品規制庁)、カナダのHealth Canada、ドイツやフランスが属するEU圏のEMA(欧州医薬品庁)は、いずれも国際的に信頼性の高い規制当局として知られています。これらの国で承認を受けた医薬品であれば、一定の品質と安全性が担保されていると判断できるため、国内審査の効率化が可能になります。

医薬品供給不足の深刻な実態

数字で見る供給不足の規模

日本の医薬品供給不足は、2020年頃から本格的に顕在化しました。2025年3月の調査によると、供給停止となっている医薬品は714品目、限定出荷の状態にある医薬品は1,646品目に達しています。通常出荷されていない医薬品の割合は全体の約21.9%に上り、そのうち約60%が後発医薬品です。

この問題は4年以上にわたって継続しており、医療現場では代替薬の確保に追われる日々が続いています。特に地方の中小病院や診療所では、必要な薬を確保できないケースが相次ぎ、患者の治療計画の変更を余儀なくされる事態も発生しています。

供給不足の構造的要因

医薬品供給不足の背景には、複数の構造的な問題が絡み合っています。

まず、2020年12月に小林化工で発覚した製造工程の不正問題をきっかけに、日医工をはじめとする複数の後発医薬品メーカーでGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)違反が次々と明らかになりました。業務停止処分や出荷停止が相次ぎ、供給量が急激に減少しました。

さらに、後発医薬品業界の構造的な問題も深刻です。国内には約190社もの後発医薬品メーカーが存在し、各社が「少量多品目生産」を行っている状況です。薬価の継続的な引き下げにより収益性が低下し、設備投資や人材確保に十分な資金を投じることが難しくなっています。

加えて、原薬(医薬品の有効成分)の約7割を中国とインドからの輸入に依存しているという地政学的なリスクも存在します。海外の供給元に問題が生じた場合、国内の製造にも直ちに影響が及ぶ脆弱なサプライチェーンとなっています。

既存の対策と新制度の位置づけ

これまでの厚労省の取り組み

厚生労働省はこれまでにも、医薬品供給不足への対策を段階的に講じてきました。2024年4月からは、製薬メーカーに対し、供給不足が発生した場合や今後6カ月以内に供給不足が見込まれる場合の報告を義務化しています。

また、薬機法の改正により「安定供給体制管理責任者」の設置が義務づけられ、原薬確保、在庫管理、生産管理に関する手順書の作成が求められるようになりました。2025年度には、製薬企業の生産から薬局での調剤まで、医薬品流通全体を把握するモニタリングシステムの構築も検討が始まっています。

新制度が果たす役割

今回の海外代替品優先審査制度は、これらの既存対策を補完する「緊急対応策」としての性格を持っています。既存の対策が供給体制の根本的な強化を目指すものであるのに対し、新制度は供給不足が現に発生している場面で、患者が必要な薬を入手できるようにする「即効性のある対策」です。

厚生労働省は2026年2月27日付の通知で、供給不足により医療への影響が大きい場合に、海外で使用されている代替品の迅速な審査・承認プロセスを整備する方針を示しました。承認は一時的なものとして位置づけられ、国内の供給状況が改善した場合には見直しが行われる仕組みです。

注意点・展望

制度運用上の課題

新制度の導入にあたっては、いくつかの課題も指摘されています。海外の医薬品は添付文書や包装が外国語で表記されているため、医療現場での取り扱いには注意が必要です。厚生労働省は例外的に外国語表記の包装を一時的に認める方針を示していますが、調剤ミスや患者への説明に関する懸念は残ります。

また、海外で承認されている医薬品であっても、日本人特有の体質や遺伝的要因による有効性・安全性の違いが生じる可能性はゼロではありません。審査期間の短縮と安全性の確保をどのように両立させるかは、制度の信頼性に直結する重要な論点です。

今後の見通し

新制度は2026年5月の運用開始が予定されていますが、これだけで医薬品供給不足の問題が解決するわけではありません。根本的な解決には、後発医薬品業界の再編による生産効率の向上、薬価制度の見直しによる企業の収益性改善、そして原薬のサプライチェーン多元化が不可欠です。

一方で、今回の制度は日本の薬事行政における大きな転換点となる可能性があります。海外の規制当局による審査結果を積極的に活用するという方針は、いわゆる「ドラッグラグ」の解消にも寄与し得るものです。日本の薬事審査制度が国際的な枠組みとより密接に連携する契機となることが期待されます。

まとめ

厚生労働省が2026年5月に導入する海外代替品の優先審査制度は、長期化する医薬品供給不足に対する重要な一手です。米国、英国、カナダ、ドイツ、フランスで承認済みの同一成分薬を迅速に国内承認できるようにすることで、患者への医薬品供給を確保する狙いがあります。

医薬品供給不足は、後発医薬品メーカーの品質管理問題、業界の構造的課題、原薬の海外依存など、複合的な要因によって引き起こされています。新制度はあくまで緊急対応策であり、根本的な解決には業界全体の体質改善が求められます。医療を受ける側としても、かかりつけ薬局への相談や、処方薬の供給状況に関する情報収集を心がけることが大切です。

参考資料:

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