エチレン減産が暮らしを直撃、ホルムズ封鎖で原料枯渇
はじめに
中東情勢の緊迫化が長期化するなか、日本の石油化学産業に深刻な影響が及び始めています。基礎化学品エチレンの原料であるナフサの調達が困難になり、三菱ケミカルグループは2026年3月6日から茨城県の事業所でエチレンの減産を開始しました。出光興産も千葉県と山口県の製造設備で生産停止の可能性を取引先に通知しています。
エチレンは食品包装フィルムやプラスチック容器など、日常生活のあらゆる場面で使われる製品の原料です。ホルムズ海峡の事実上の封鎖がもたらすサプライチェーンの途絶は、私たちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょうか。本記事では現状と今後の見通しを3つのポイントで解説します。
日常生活にどう影響するか
エチレンは「産業の米」
エチレンは石油化学産業における最も基本的な化学品であり、「産業の米」とも呼ばれています。エチレンから作られるポリエチレン(PE)は食品包装フィルムやレジ袋、EC向け梱包袋に使用され、ポリプロピレン(PP)は樹脂パレットやコンテナ部品、自動車部品に欠かせない素材です。
物流メディアの報道によれば、日本の物流はこれらの石化製品に深く依存しており、特に物流センターで使われる樹脂パレットはPPが主要素材です。エチレンの減産が長期化すれば、食品包装から物流、自動車、家電製品に至るまで、幅広い産業に連鎖的な影響が及ぶ恐れがあります。
4月以降の物流資材不足リスク
物流専門メディアの報道では、石化プラントの減産が続けば、物流に不可欠な梱包資材やパレットの供給が4月以降に逼迫する可能性が指摘されています。特にEC(電子商取引)の拡大で包装資材の需要が増加している現状では、供給不足の影響は消費者にも直結します。
国内のナフサ備蓄と供給体制
在庫は約20日分、3月下旬に限界か
日本の石化プラントが保有するナフサの在庫は、国内全体で約20日分とみられています。ホルムズ海峡が2月28日に事実上封鎖されたことを考えると、3月下旬には在庫の限界に達するプラントが出てくると予想されています。
日本はナフサ輸入の7割以上を中東に依存しており、ホルムズ海峡はその輸送ルートの生命線です。Zero Carbon Analyticsの分析では、日本はホルムズ海峡の混乱によるリスクが世界で最も高い国とされています。
企業の対応状況
三菱ケミカルグループは茨城事業所(神栖市)のエチレン製造装置の稼働率を引き下げ、減産対応を開始しました。Bloombergの報道によれば、同社は「原料ナフサの調達減が避けられない」と判断し、早期に生産調整に踏み切った形です。
出光興産は国内全体の約16%のエチレン生産能力を持つ千葉県と山口県の2カ所の設備について、中東からの供給停止が長期化した場合の生産停止の可能性を取引先に通知しています。FNNの報道では、出光は最悪のシナリオに備えた事前通知として位置づけているとのことです。
アジア全体に広がる影響と代替策
アジアの石化メーカーが軒並み影響
ホルムズ海峡の封鎖による影響は日本だけにとどまりません。Chemical & Engineering News(C&EN)の報道によれば、アジアの石化プラントはナフサ原料の70〜80%を中東に依存しており、ナフサ輸送の停止がアジア全域の化学メーカーを混乱させています。
韓国、台湾、インドの石化メーカーも同様にナフサ調達の遅延に直面しており、エネルギー専門メディアは「アジアの石化メーカーがナフサ供給途絶に直面」と報じています。サプライチェーンのグローバルな連鎖が、問題をさらに複雑にしています。
代替調達ルートの模索
ナフサの調達先を中東以外に多角化する動きも始まっています。アジア太平洋地域では、米国からのナフサ輸入や、オーストラリア・東南アジアからの調達を検討するメーカーが増えています。ただし、中東からの供給量を短期間で代替することは困難であり、コスト増も避けられません。
日本のエチレン価格は1トンあたり約800ドルで、米国の約400ドルの2倍です。供給ルートの変更は、さらなるコスト上昇要因となり得ます。中長期的には、石油由来のナフサに依存しない製造技術(バイオマス由来のエチレンなど)への転換も課題として浮上しています。
注意点・今後の展望
現時点では減産や生産停止の「通知」段階であり、実際に消費者が日用品の品不足を実感するまでにはタイムラグがあります。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、3月下旬から4月にかけて影響が顕在化する可能性があります。
特に注意すべきは、エチレン減産の影響が川下産業に波及するまでの時間差です。化学品メーカーの在庫が枯渇した後、食品メーカーや物流会社、自動車メーカーなどが順次影響を受けることになります。政府による緊急備蓄の放出や、代替調達の支援策がどの程度迅速に実施されるかが鍵を握ります。
まとめ
ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、日本の石油化学産業はナフサ調達の危機に直面しています。三菱ケミカルが減産を開始し、出光興産も生産停止を視野に入れるなど、影響は急速に拡大しています。
エチレンは食品包装から物流、自動車まで幅広い産業の基盤であり、減産の長期化は日常生活に直結します。国内在庫は約20日分とみられ、3月下旬が一つの分岐点です。消費者としては過度な買い占めを避けつつ、サプライチェーンの動向を注視していくことが重要です。
参考資料:
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