FRBパウエル議長に刑事捜査、市場は一時400ドル安に動揺

by nicoxz

はじめに

2026年1月12日、米国の金融市場に激震が走りました。米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が刑事捜査の対象になっていることが明らかになり、ダウ平均株価は一時400ドル以上下落。米国債やドルにも売り圧力がかかる「トリプル安」の様相を呈しました。

この捜査は表向きFRB本部の改修工事に関するものですが、パウエル議長自身が「政権による圧力」と公言するなど、中央銀行の独立性を巡る深刻な対立に発展しています。本記事では、事態の背景と市場への影響、今後の展望について詳しく解説します。

刑事捜査の経緯と概要

司法省からの召喚状

1月9日(金曜日)、米司法省はFRBに対して大陪審への召喚状を送付しました。捜査対象は、パウエル議長が2025年6月に上院銀行委員会で行ったFRB本部の改修工事に関する証言です。

FRB本部(マリナー・エクルズ・ビル)の改修工事は当初予算から6億ドル以上膨らみ、総額25億ドル(約3,750億円)に達しています。捜査では、パウエル議長がこの費用超過について議会で虚偽の証言をした可能性が調べられています。

この捜査は、トランプ大統領が指名した連邦検事ジャニーン・ピロ氏が率いるワシントン連邦地検が、2025年11月に承認したものです。

パウエル議長の異例の反論

1月11日(日曜日)、パウエル議長は異例のビデオメッセージを公開し、捜査の背景にある政治的意図を明確に批判しました。

パウエル議長は「刑事訴追の脅しは、FRBが大統領の意向ではなく、国民のために最善と判断した金利設定を行ってきたことへの報復だ」と述べました。さらに「これは、FRBが今後も経済状況とデータに基づいて金利を決定できるのか、それとも政治的圧力や威嚇によって金融政策が左右されるのかという問題だ」と警告しています。

政治的発言を極力避けてきたFRB議長がここまで直接的に政権を批判するのは極めて異例のことです。

市場の反応

株式市場は一時急落後に回復

1月12日(月曜日)、ニューヨーク株式市場は反落して取引を開始しました。ダウ平均株価は一時前週末比450ドル近く下落し、4万9,050ドル近辺まで売られました。

ただし、その後は買い戻しが入り、取引終了時にはS&P500とダウ平均がともに史上最高値を更新するという乱高下の展開となりました。投資家の間では「捜査は政治的なものであり、実際の訴追には至らない」との見方が広がったことが回復の背景にあります。

米国債とドルに売り圧力

より深刻な影響が出たのは債券・為替市場です。米10年国債利回りは4.20%まで上昇(債券価格は下落)し、8月下旬以来の高水準に達しました。30年国債利回りも4ベーシスポイント以上上昇して4.86%となりました。

ドル指数(DXY)は約10年ぶりの安値に下落しました。投資家が米国資産に対して「政治リスクプレミアム」を要求し始めた形です。

ゴールドマン・サックスやエバーコアISIなどの大手金融機関は、顧客向けレポートで「この捜査は市場にとって大きな危機であり、FRBの信認を恒久的に損なう可能性がある」と警告しています。

歴代FRB議長らが共同で批判声明

超党派の金融界重鎮が結集

1月12日、アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキ、ジャネット・イエレンら歴代FRB議長に加え、ヘンリー・ポールソン、ティモシー・ガイトナー、ロバート・ルービン、ジェイコブ・ルーら元財務長官も署名した共同声明が発表されました。

声明は「パウエル議長に対する刑事捜査の報道は、検察権力を利用してFRBの独立性を損なおうとする前例のない試みだ」と厳しく非難しています。超党派の金融界重鎮がこれほど明確に現政権を批判するのは異例中の異例です。

共和党議員からも懸念の声

与党・共和党内からも反発の声が上がっています。上院銀行委員会のトム・ティリス議員(共和党・ノースカロライナ州)は「トランプ政権内の一部がFRBの独立性を終わらせようとしていることに、もはや疑いの余地はない」と述べ、「この法的問題が完全に解決するまで、FRB議長人事を含むすべてのFRB関連人事に反対する」と表明しました。

ケビン・クレイマー議員(共和党・ノースダコタ州)も「パウエル議長は犯罪者ではないと思う。この刑事捜査が早く決着することを願う」とコメントしています。

トランプ大統領とFRBの対立の背景

利下げ要求と金融政策

トランプ大統領は以前からFRBに対して積極的な利下げを求めてきました。しかし、FRBは2025年に3回の利下げを実施したものの、インフレ圧力を考慮して慎重なペースを維持しています。

パウエル議長は今回の声明で、刑事捜査の真の目的がFRBの金融政策への政治的介入にあることを示唆しました。「公益のために最善と判断した金利設定を行った結果として、刑事訴追の脅しを受けている」という発言は、この対立を端的に示しています。

議長人事を巡る駆け引き

パウエル議長のFRB議長としての任期は2026年5月に満了します。ただし、FRB理事としての任期は2028年1月まで残っています。

金融調査会社エバーコアISIのクリシュナ・グハ副会長は「今回の召喚状により、パウエル氏が議長任期終了後もFRB理事として留まり、FRBの独立性を守ろうとする可能性が高まった」と分析しています。

一方、パウエル議長の後任として有力視されている国家経済会議(NEC)委員長のケビン・ハセット氏は、トランプ大統領と同様にFRBは利下げを継続すべきとの立場を示しています。

金融政策と市場への今後の影響

利下げ見通しの後退

今回の対立により、FRBの金融政策見通しに変化が生じています。JPモルガンのアナリストは「FRBは2026年を通じて金利を据え置くと予想する」とのレポートを発表しました。

FRBが政治的圧力に屈して利下げを行えば「独立性の喪失」と見なされ、逆に据え置きを続ければ「政権との対立激化」という難しい立場に置かれています。

「Fed Put」への信頼低下

従来、投資家は市場が大きく下落した際にFRBが金融緩和で支援する「Fed Put」(FRBによる株価下支え)を期待してきました。しかし、今回の事態により、FRBの政策決定が政治的要因に左右される可能性が意識され、この「保険」への信頼が揺らいでいます。

注意点・展望

憲法上の論点

FRBの独立性は米国の金融システムの根幹をなす原則です。行政府が司法権を使って中央銀行に圧力をかけることは、三権分立の観点からも重大な問題を提起します。一部のアナリストはこの事態を「憲法上の危機」と表現しています。

実際の訴追可能性

法律専門家の間では、今回の捜査が実際の起訴に至る可能性は低いとの見方が多いです。しかし、捜査自体が持つ「威嚇効果」や、FRBの政策判断への間接的な影響は無視できません。

グローバル市場への波及

米国の中央銀行への信頼低下は、ドル基軸通貨体制や米国債市場の地位にも影響を与える可能性があります。新興国を含む世界の中央銀行がドル資産の保有比率を見直す動きが加速するかもしれません。

まとめ

FRBパウエル議長への刑事捜査は、単なる改修工事の費用超過問題ではなく、中央銀行の独立性という金融システムの根幹に関わる問題へと発展しています。市場は一時的に動揺を見せたものの、株価は回復基調にあります。

しかし、米国債利回りの上昇やドル安という形で「政治リスクプレミアム」が意識され始めており、今後の金融政策や市場環境に不確実性をもたらしています。パウエル議長の任期満了(5月)に向けて、政権とFRBの駆け引きから目が離せない状況が続きそうです。

参考資料:

関連記事

最新ニュース