白馬岩岳が目指す「ニセコにしない」持続可能なリゾート開発戦略
はじめに
長野県白馬村の「白馬岩岳マウンテンリゾート」が注目を集めています。2025年12月には宿泊施設1軒と飲食店2軒が一気に開業し、山麓エリアの再開発が本格化しました。元農林水産省のキャリア官僚を中心とするチームが、冬季のみ営業するスキー場を春夏秋も楽しめる通年型リゾートに変身させています。しかし、彼らの合言葉は「白馬はニセコにしない」。住民が住み続けられるリゾートを目指す、その独自の開発戦略について解説します。
白馬岩岳リゾートの再生物語
元官僚が挑む地域再生
白馬岩岳マウンテンリゾートの再生を牽引するのは、元農林水産省官僚の和田寛氏です。東京大学法学部を卒業後、農水省のキャリア官僚として勤務しましたが、「地方をより直接的に元気にする仕事がしたい」という強い思いから、官僚を辞めて外資系コンサルティング会社を経て白馬村へ移住しました。
和田氏は「日本の地方を元気にしたい」という長年の夢を実現するため、農水省でのキャリアや外資系コンサルでの経験を捨ててまで白馬に移りました。官僚時代の2〜3年間、法律業務や組織管理に従事していましたが、地方を改善する仕事により直接的に関わりたいという強い欲求を持ち続けていました。
V字回復を遂げた来場者数
和田氏のリーダーシップのもと、岩岳リゾートは驚異的な成長を遂げました。グリーンシーズン(春夏秋)の来場者数は、2017年の約2万人から2018年には6万人、2019年には13万人へと急増しました。わずか1年で来客数が2.7倍に達し、COVID-19パンデミック期間中でも記録的な来場者数を達成しています。
現在では「冬よりも夏に多くのお客様が来場するスキー場」と呼ばれるほど、通年型リゾートとしての地位を確立しています。
通年型リゾートへの転換戦略
グリーンシーズンの魅力創出
白馬岩岳は、標高1,289mの山頂に絶景テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」を設置し、北アルプスや白馬三山を望む360度の展望を提供しています。春は新緑、夏は高原の爽やかな緑、秋には北アルプスの三段紅葉を楽しめます。
2025年のグリーンシーズンは4月24日から11月16日まで営業し、以下のアクティビティを提供しています。
- マウンテンカート(2021年夏に国内初導入)
- 北アルプスをバックに山頂から山麓まで下りられるマウンテンバイクコース
- 標高1,100mに設置された、絶景を目下に開放感とスリルを味わえる超大型ブランコ(2023年秋誕生)
飲食・宿泊施設の充実
2023年12月には、全国で約60店舗を展開する食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo 白馬店」が長野県内初出店としてオープンしました。グリーンシーズンにも営業し、絶景と食を組み合わせた体験を提供しています。
2025年12月には、宿泊施設1軒と飲食店2軒が一気に開業し、山麓ベースエリアの再開発が本格化しています。
大規模インフラ投資
新ゴンドラリフトとベースセンター改装
岩岳リゾートは2025-2026シーズンに向けて大規模な投資を実施しました。
新ゴンドラリフト 約21億円を投資し、10人乗りの新型ゴンドラリフトを導入。2025年12月から運行を開始しました。
ベースセンター改装 約2.8億円を投資し、既存のゴンドラリフト基地駅を多目的施設に改装。チケットセンター、ロビー、ショップ、レンタルショップ、レストラン、スキー・スノーボードスクールを備えた施設として、2025-2026冬シーズンの開幕に合わせてオープンしました。
ハイグレードホテル誘致計画
岩岳リゾートは三菱地所および清水建設と土地売買契約を締結し、国際的なハイグレードホテルの誘致を進めています。約2万平方メートルの土地を15億円で譲渡し、2026年3月の引き渡しを予定しています。
「白馬はニセコにしない」の真意
ニセコの教訓から学ぶ
白馬村とニセコはともにインバウンド観光で注目される国際的スキーリゾートですが、そのアプローチは大きく異なります。
ニセコの現状
- 外資主導の大規模リゾート・コンドミニアム開発が中心
- 過去5年間で地価が急騰
- 水道インフラが限界に達し、倶知安町が建物の床面積や高さを制限する規制を導入
- 地元住民の生活コスト上昇(家賃高騰、物価上昇)
白馬村の対応 白馬村は約5〜6年前から「地元主導の観光開発」を追求しています。土地所有者が個別に外部開発業者へ売却するのではなく、コミュニティ全体で持続可能な開発を考える姿勢を取っています。
日本経済新聞の記事で「第2のニセコ」と報じられることが多いものの、当事者たちは明確に「白馬はニセコにしない」と宣言しています。
住民が住み続けられるリゾート
白馬岩岳チームが目指すのは「住民が住み続けられるリゾート」です。この理念は、ニセコで起きた問題への明確な対策として位置づけられています。
白馬村も地価上昇に直面しています。過去5年間で地価が約4倍に上昇し、2023年7月には全国最高の地価上昇率32.1%を記録しました。スキー場の混雑、交通渋滞、家賃や物価の上昇など、ニセコと同様の課題が顕在化しています。
しかし、白馬は「民宿発祥の地」として小規模ホテルやペンションを多数保持しており、大規模外資中心のニセコとは異なる基盤を持っています。
持続可能な開発への取り組み
環境への配慮
2008年10月、白馬岩岳を含む村内7つのスキーリゾートが「白馬エコ・スキーリゾート宣言」に署名し、より環境に優しいリゾート運営を約束しました。
岩岳リゾートは「持続可能な開発目標(SDGs)」を今後の事業運営に組み込み、スキーリゾート運営を通じてより良い自然環境の創造に貢献しています。
白馬村は日本で初めて「気候非常事態宣言」を行った自治体でもあります。この宣言は地元の高校生が気候変動への懸念を提起したことがきっかけで、スキーリゾートや宿泊施設が再生可能エネルギーへの移行を進めています。
コミュニティ主導の開発モデル
白馬の開発戦略は、小規模家族経営からコミュニティスタイルの共同管理モデルへの移行を含みます。この手法により、大規模投資が可能になると同時に、地元のコントロールを維持できます。
土地所有者が外部開発者に土地を売却するのではなく、住民が白馬の強みを最大限に活かす施設の種類を検討し、より持続可能な開発戦略を練り上げるアプローチを取っています。
今後の課題と展望
バランスの取り方
白馬岩岳は、観光収入の最大化と住民の生活の質の維持という二つの目標のバランスを取る必要があります。地価上昇と物価高騰が続く中、地元住民が生活し続けられる環境をいかに保つかが最大の課題です。
インフラの整備
ニセコが直面した水道インフラの限界という教訓から、白馬村は開発のペースとインフラ整備のバランスを慎重に管理する必要があります。
国際競争力の維持
「ニセコにしない」という方針を維持しながら、国際的な競争力を保つことも重要です。ハイグレードホテルの誘致や通年型リゾートへの転換は、この両立を目指す取り組みと言えます。
まとめ
白馬岩岳マウンテンリゾートは、元農水省官僚のリーダーシップのもと、通年型リゾートへの転換と持続可能な開発を推進しています。「白馬はニセコにしない」という明確なビジョンのもと、住民が住み続けられるリゾートを目指す姿勢は、日本の地域再生モデルとして注目されています。
ニセコの教訓を活かし、地元主導の観光開発、環境への配慮、コミュニティ主導の開発モデルを実践する白馬村の取り組みは、インバウンド観光と地域コミュニティの共存という課題に対する一つの解答となる可能性があります。今後の展開が期待されます。
参考資料:
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