2026年度税制改正で39項目の課税減免、物価高に対応
はじめに
2025年12月に閣議決定された令和8年度(2026年度)税制改正大綱は、物価上昇への対応を柱の一つに据えた大規模な改正となりました。国税21件、地方税18件の合計39の税制措置で、課税を減免する基準額が引き上げられます。
長年据え置かれてきた各種の免税点や非課税限度額が、インフレの実態に追いつく形で見直されるのは画期的です。不動産取得税は53年ぶりの改定、従業員への食事補助の非課税額は42年ぶりに倍増するなど、歴史的な改定が相次ぎます。
本記事では、家計や企業に直接影響する主要な課税減免措置のポイントを解説します。
所得税・住民税の基礎控除引き上げ
「103万円の壁」から「178万円」へ
今回の税制改正で最も注目を集めたのが、いわゆる「年収の壁」の引き上げです。基礎控除の本則額が現行の58万円から62万円に引き上げられるとともに、給与所得控除の最低保障額も65万円から69万円に引き上げられます。
さらに、中低所得者向けの特例として基礎控除が42万円まで上乗せされ、給与所得控除の最低保障額も追加で5万円引き上げられます。これにより、すべての納税者の所得税の負担開始水準は178万円以上となります。
物価連動の自動調整メカニズム
特筆すべきは、令和10年(2028年)以降に導入される物価連動型の自動調整メカニズムです。消費者物価指数の上昇率に基づいて基礎控除等が自動的に調整される仕組みが導入されます。これにより、将来のインフレ局面でも税制が実態から乖離するリスクが軽減されます。
この仕組みは、直近2年間で約6%の物価上昇があったにもかかわらず、税制の基準額が長年据え置かれてきた反省に基づくものです。単なる減税ではなく、税制のインフレ調整という構造改革の側面があります。
不動産取得税と固定資産税の見直し
不動産取得税の免税点を大幅引き上げ
不動産取得税の免税点は、長年にわたり据え置かれてきました。今回の改正では、土地と建物の免税点が45万円から116万円へと大幅に引き上げられます。物価上昇により不動産の評価額が上昇した結果、従来は課税対象外だった小規模な取引にも課税されるようになっていた不均衡が是正されます。
53年ぶりの改定という事実が、いかに長くこの基準が放置されてきたかを物語っています。物価水準が当時とは大きく異なる中、ようやく現実に即した見直しが実現しました。
固定資産税の免税点も引き上げ
固定資産税についても見直しが行われます。家屋の免税点は20万円から30万円に、償却資産の免税点は150万円から180万円にそれぞれ引き上げられます。これにより、小規模な資産を保有する個人や中小企業の税負担が軽減されます。
食事補助の非課税限度額が42年ぶりに倍増
月3,500円から7,500円へ
企業が従業員に提供する食事補助の非課税限度額が、月額3,500円から7,500円へと引き上げられます。1984年の制度創設以来、42年間一度も見直されていなかった基準がようやく改定されます。施行は2026年4月の予定です。
現行の月3,500円(20日勤務で1日あたり約175円)では、昨今のランチ価格の高騰を考えると、従業員の負担軽減として機能不全に陥っていました。倍増により、企業が社員食堂の値下げやメニューの充実に取り組みやすくなります。
深夜勤務時の夜食代も引き上げ
深夜勤務者に対する夜食の現金支給の非課税上限も、1回300円から650円へと引き上げられます。夜勤のある製造業や医療、物流などの業種で働く従業員にとって、実質的な手取り増加につながる改正です。
「第3の賃上げ」としての期待
この改正は、基本給の引き上げ(第1の賃上げ)、賞与の増額(第2の賃上げ)に続く「第3の賃上げ」として注目されています。企業にとっては、非課税枠の範囲内で福利厚生を充実させることで、人材確保・定着にもつなげられる施策です。
その他の主要な課税減免措置
少額減価償却資産の特例拡充
中小企業が即時償却できる少額減価償却資産の取得価額基準が、30万円未満から40万円未満に引き上げられます。物価上昇で備品や設備の価格が上がる中、中小企業の設備投資を後押しする措置です。適用期限も3年間延長されます。
インボイス制度の経過措置延長
免税事業者からの仕入税額控除に関する経過措置の最終適用期限が2年間延長されます。控除率は段階的に引き下げられ、2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%となります。中小事業者への配慮が継続されます。
注意点・展望
改正の実施時期に注意
39の税制措置すべてが同時に施行されるわけではありません。法改正が必要なものは現在国会で審議中であり、成立時期や施行日は項目によって異なります。特に不動産取引を予定している場合は、改正後の免税点が適用されるタイミングを確認することが重要です。
減税効果は限定的との見方も
基礎控除の引き上げ幅について、物価上昇率に比べて不十分だとする指摘もあります。また、39項目の課税減免は家計や企業の実質的な負担増を「緩和」するものであり、純粋な意味での減税とは異なる面があります。インフレによる「隠れ増税」を是正する措置として捉えるのが適切です。
今後の自動調整メカニズムに注目
2028年以降に導入予定の物価連動型自動調整メカニズムが実際にどのように機能するかは、今後の注目点です。諸外国では同様の仕組みを導入している例があり、日本の税制がようやく国際標準に近づく一歩となる可能性があります。
まとめ
2026年度税制改正は、長年放置されてきた各種基準額をインフレの実態に合わせて見直す、歴史的な改正です。不動産取得税の53年ぶり改定、食事補助非課税額の42年ぶり倍増など、物価高に苦しむ家計や企業にとって一定の負担軽減が期待できます。
企業の経理担当者は、食事補助制度の見直しや少額減価償却資産の適用範囲拡大など、自社に関係する改正内容を早めに確認し、対応を進めることが重要です。個人としても、基礎控除の引き上げが自身の税負担にどう影響するか、把握しておくことをおすすめします。
参考資料:
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