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by nicoxz

伊藤忠が米ERI社と都市鉱山リサイクル事業に参入

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はじめに

伊藤忠商事が米国の電子機器リサイクル大手Electronic Recyclers International(ERI)と資本・業務提携し、日本でIT機器リサイクルの合弁会社を設立することを発表しました。新会社「ERIジャパン」は2026年4月を目途に設立され、使用済みスマートフォンやパソコンなどの電子機器から希少金属を回収し、国内で資源を循環させる仕組みを構築します。

世界的に資源ナショナリズムが強まるなか、日本国内に眠る「都市鉱山」の活用は経済安全保障の観点からも重要性を増しています。本記事では、この提携の背景と狙い、都市鉱山の可能性、そして日本の資源循環戦略への影響について詳しく解説します。

伊藤忠とERIの提携が目指すもの

ERIジャパンの事業概要

新たに設立される合弁会社「ERIジャパン」は、伊藤忠商事とERIの50対50の出資比率で設立されます。ERIは米国最大規模の電気電子機器リサイクル企業であり、創業以来100万トン以上のE-waste(電子廃棄物)を処理してきた実績を持ちます。

ERIジャパンでは、使用済みIT機器の回収からデータ消去、粉砕、分別までをワンストップで手掛けます。ERIが米国で培ったAIやロボットアームを活用した高精度の自動分別技術を日本に導入し、電子基板やプラスチックなどの素材を効率的に選別します。回収された希少金属は国内の製錬会社やリサイクルパートナーに原料として提供される計画です。

子会社Belongとの連携

伊藤忠商事は完全子会社の「Belong」を通じてERIとの協業を進めます。Belongは中古スマートフォンの販売事業を手掛けており、関東地域に既存の運営拠点を持っています。再利用可能な機器はBelongのリユース事業に回し、再利用が難しい機器はERIの技術でリサイクルするという、リユースとリサイクルを一体化したビジネスモデルを構築します。

ERIジャパンの拠点は関東地域を中心に検討されており、Belongの既存インフラを活用することで、迅速な事業立ち上げが期待されています。

トレーサビリティの確保

注目すべき特徴の一つが、リサイクルのトレーサビリティシステムの導入です。いつ、どこで、どのようにリサイクルされたかを個別に追跡できる仕組みを整備し、資源の流れを可視化します。これにより、企業がESG(環境・社会・ガバナンス)情報として資源循環の実績を開示する際にも活用できる体制を目指しています。

都市鉱山の可能性と日本の資源課題

日本に眠る膨大な資源

「都市鉱山」とは、都市部に蓄積された使用済み電子機器の中に含まれる貴金属やレアメタルを鉱山に見立てた概念です。1988年に東北大学の南條道夫教授らが提唱しました。

日本の都市鉱山には世界有数の資源が眠っています。独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)の推計によると、日本国内に蓄積された金は約6,800トンで世界の埋蔵量の約16%に相当します。銀は約6万トン(世界の約23%)、インジウムは世界の約16%、タンタルは約11%を占めるとされています。

資源ナショナリズムへの対抗

近年、レアメタルやレアアースの生産国による輸出規制が相次いでいます。中国をはじめとする資源国が戦略的に輸出を制限する動きは、半導体やEV(電気自動車)などの先端産業に不可欠な素材の安定供給を脅かしています。

こうした資源ナショナリズムの高まりに対し、都市鉱山からの資源回収は有効な対抗策となります。日本で廃棄された電子機器が海外に流出し、そこに含まれるレアメタルが国外で回収されるケースも少なくありません。国内にリサイクルの循環網を構築することで、こうした資源流出を防ぎ、経済安全保障の強化につながります。

政府の資源循環政策

日本政府もサーキュラーエコノミー(循環経済)の推進を積極的に進めています。環境省は循環経済の市場規模を2030年までに80兆円に拡大する目標を掲げており、電子機器からの金属リサイクル材料の処理量を倍増させる計画を示しています。経済産業省も鉱物資源政策の一環として、都市鉱山の活用を重要な柱に位置付けています。

産業技術総合研究所(産総研)では、都市鉱山から効率的にレアメタルを回収する技術開発が進められています。風力選別やAI検出技術を組み合わせた全自動の分別システムなど、実用化に向けた研究が加速しています。

注意点・展望

事業化の課題

都市鉱山のリサイクルには、回収インフラの整備やコスト面での課題が残ります。天然鉱山からの採掘と比較して、リサイクルのコスト競争力をどう確保するかが重要なポイントです。また、消費者からの使用済み機器の回収率を高めるための仕組みづくりも不可欠です。

市場拡大の見通し

世界のE-waste発生量は年々増加しており、国連の報告では2030年には年間7,400万トンを超えると予測されています。一方で、適切にリサイクルされている割合はまだ20%程度にとどまります。伊藤忠とERIの取り組みは、この巨大な未開拓市場を狙うものでもあります。

ERIジャパンの成功は、日本の資源循環ビジネスのモデルケースとなる可能性があります。他の商社や素材メーカーも同様の取り組みを加速させることで、日本全体の資源自給率向上に寄与することが期待されます。

まとめ

伊藤忠商事と米ERI社の提携は、単なるリサイクル事業への参入にとどまらず、日本の経済安全保障と資源循環戦略における重要な一歩です。AIやロボット技術を活用した高精度の分別処理、トレーサビリティの確保、そしてリユースとリサイクルの一体化という総合的なアプローチが特徴です。

資源ナショナリズムが世界的に強まるなか、国内に眠る都市鉱山の価値を最大限に引き出す取り組みは今後さらに重要性を増していきます。消費者としても、使用済み電子機器の適切な回収に協力することが、日本の資源循環を支える一歩となるでしょう。

参考資料:

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