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by nicoxz

JALがJR東日本と協業、「対新幹線」から共存戦略への転換

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はじめに

日本航空(JAL)がJR東日本と東日本エリアの地方創生に向けた連携強化協定を締結しました。JALにとってJR東日本は、定時性で勝る新幹線を擁する全日本空輸(ANA)以上の「積年のライバル」です。その高い壁を突き崩したのは、日増しに悪化する国内線の経営環境でした。

特に東北地域では路線維持すら困難な状況に直面しており、JALは意地の張り合いよりも協業による実利を得る戦略に転換しました。この記事では、協業の背景にある国内線の構造的課題と、両社が描く「地域未来創生戦略」の全容を解説します。

国内線が直面する構造的な赤字

航空6社の国内線が営業赤字

JALの戦略転換を理解するには、まず国内線を取り巻く厳しい経営環境を知る必要があります。国土交通省の分析によると、2024年度は航空6社の国内線が軒並み営業赤字となり、国交省が各社と今後の方針について議論を開始する事態にまで至っています。

赤字の背景には3つの構造的要因があります。第一に、コロナ後もリモートワークの定着によりビジネス需要が完全には回復していないこと。第二に、インバウンド旅行者の国内移動が新幹線に流れやすく、航空会社の取り込みが不十分なこと。そして第三に、新幹線との競合路線で航空運賃の価格転嫁が困難な構造があることです。

搭乗率5割以下の路線も

JALの国内線では搭乗率が5割を下回る路線も存在しており、特に新幹線と競合する東北路線は深刻な状況です。JALは有識者会議の資料の中で、新幹線競合路線では「新幹線運賃への対抗が必要」と明言しており、価格競争力の限界を認めています。

ANAも同様の課題を抱えており、新幹線競合路線である羽田=小松線の2便減便や伊丹=福岡線の1便減便など、供給量を絞ることで収益性の回復を図っています。

JAL×JR東日本「地域未来創生戦略」の全容

3つの「創出」が柱

2026年2月6日に締結された連携強化協定では、両社の取り組みを「地域未来創生戦略」と位置づけ、3つの「創出」を軸に展開します。

第一の柱は「広域観光モデルの創出」です。従来の旅行は行きも帰りも同じ交通手段を使うのが一般的でしたが、新幹線と航空を組み合わせた新しい旅行スタイルを提案します。例えば、行きは新幹線で東北の車窓を楽しみ、帰りは航空便で時間を節約するといったルートが考えられます。

第二は「関係人口・定住人口の創出」です。東日本エリアの地域との関わりを深め、移住や二拠点生活を促進する仕組みづくりに取り組みます。

第三は「新たなマーケットの創出」です。後述する物流サービスなど、旅客輸送以外の事業領域での協業を進めます。

鉄道と航空の交通費削減も

2026年からは、鉄道と航空を組み合わせた移動にかかるコスト削減の取り組みも開始される予定です。さらに将来的には、乗客が1回の予約で鉄道と航空の移動を1枚のチケットで完結できる「チケット一体化」の実現を目指しており、2029年度以降の導入を検討しています。

物流革命「JAL de はこビュン」の衝撃

新幹線×航空で輸送時間半減

旅客輸送に先行して成果を上げているのが、物流分野の協業です。2026年1月13日に開始された「JAL de はこビュン」は、JR東日本の新幹線貨物輸送サービス「はこビュン」とJALの国際線貨物を組み合わせたワンストップ輸送サービスです。

東北新幹線などで東京駅まで運び、羽田空港や成田空港から国際線に積み替えるこの仕組みにより、従来のトラック輸送と比べて輸送時間を半分に短縮できます。第1弾として東北のカニなどの生鮮品を対象に、地方から最短13時間で台湾への輸出を実現しました。

地方生産者の販路拡大に貢献

このサービスの意義は、単なる輸送手段の改善にとどまりません。これまで鮮度の問題から海外輸出が難しかった地方の生鮮品に、新たな販路を開拓する可能性があります。地方の生産者にとっては、国内市場の縮小を補う海外マーケットへのアクセスが格段に改善されることになります。

注意点・展望

JALとJR東日本の協業は始まったばかりですが、両社が長年のライバル関係を超えて手を組んだインパクトは大きいです。ただし、チケット一体化などの本格的なサービス統合には技術的・制度的なハードルが残っており、実現は2029年度以降となる見通しです。

また、この協業モデルが成功すれば、ANAとJR西日本・JR東海など、他の航空会社と鉄道会社の組み合わせにも波及する可能性があります。日本の交通インフラ全体のあり方を変える先例となるかもしれません。

一方で、航空と鉄道の連携が進むことで、地方空港の路線がさらに削減されるリスクも指摘されています。地域の交通アクセスの維持という観点からも、今後の動向を注視する必要があります。

まとめ

JALとJR東日本の協業は、国内線の構造的赤字という現実に直面した航空会社が、ライバルとの共存を選んだ歴史的な転換点です。「広域観光」「関係人口」「新マーケット」の3つの創出を軸とした地域未来創生戦略と、「JAL de はこビュン」に代表される物流革命は、地方活性化の新たなモデルとなる可能性を秘めています。

「意地より実利」の決断が、日本の交通産業と地方経済にどのような変化をもたらすか、注目が集まります。

参考資料:

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