18歳成人から4年、若者の意識と社会参加はどう変化したか
はじめに
2026年1月13日、成人年齢が18歳に引き下げられてから4度目の成人の日を迎えました。明治9年(1876年)の太政官布告以来、約146年ぶりとなる「大人と子どもの線引き」の変更は、日本社会に何をもたらしたのでしょうか。
2022年4月の改正民法施行により、18歳から親の同意なくクレジットカードや携帯電話の契約、アパートの賃貸契約などができるようになりました。施行前には消費者被害の拡大を懸念する声も多くありましたが、4年が経過した現在、目立った増加は見られていません。
一方で、若者の間には大人としての自覚や社会参加への意識が徐々に芽生えているとの調査結果も出ています。この記事では、18歳成人制度の効果と課題、そして今後の展望について詳しく解説します。
成人年齢引き下げの背景と目的
146年ぶりの大改革
日本の成年年齢は、1876年の太政官布告以来「20歳」と定められてきました。しかし2018年6月に民法の一部を改正する法律が成立し、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられました。
この改正の背景には、世界的な潮流があります。国立国会図書館の調査によると、世界187カ国のうち約9割が選挙権年齢を「18歳以上」としています。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど主要先進国でも18歳成人が一般的です。日本でも2015年に選挙権年齢が18歳に引き下げられており、民法上の成年年齢との整合性を図る必要がありました。
改正の目的
成年年齢引き下げの目的は、主に以下の2点です。
第一に、若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促すことです。少子高齢化が進む日本において、若い世代が早い段階から社会の担い手として意識を持ち、政治や経済に関与することが期待されています。
第二に、国際標準への対応です。グローバル化が進む中、日本の若者が海外で不利益を被らないよう、法制度を国際水準に合わせる意図がありました。
18歳で何が変わったのか
できるようになったこと
18歳になると、親の同意なく以下の契約や法律行為が可能になります。
- クレジットカードの申し込み
- 携帯電話の契約
- アパートなどの賃貸契約
- ローンの契約
- 10年有効パスポートの取得
- 公認会計士、司法書士などの国家資格取得
- 性別の取扱いの変更審判
また、親権から独立するため、住居地や進学先・就職先を自分の意思で決められるようになり、自分の財産を自分で管理できます。裁判員に選ばれる可能性も生じます。
変わらないこと(20歳維持)
一方で、以下の事項については20歳未満への制限が維持されています。
- 飲酒・喫煙
- 競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブル
- 大型・中型自動車免許の取得
- 養子を迎えること
これらは健康被害や非行防止の観点から、従来通り20歳を基準としています。
成人式の扱い
興味深いのは成人式の扱いです。法律上の成人は18歳になりましたが、多くの自治体は引き続き20歳を対象に式典を開催しています。名称も「成人式」から「二十歳のつどい」などに変更した自治体が多くなっています。
18歳は多くが高校生であり、受験や就職準備で忙しいこと、進学・就職に伴う出費で家計負担が大きいことなどが、20歳維持の理由として挙げられています。
若者の意識変化
「大人の自覚」は芽生えたか
日本財団が実施している「18歳意識調査」によると、「自分は大人だと思う」と回答した18歳は47.9%~49.6%程度で推移しています。約半数の若者が大人としての自覚を持ち始めていることがわかります。
しかし、国際比較では課題も見えます。2024年の6カ国比較調査では、「自分は大人だと思う」の割合は日本が最下位でした。最も高い中国との差は約40ポイントに達し、日本の次に低い韓国とも10ポイント以上の開きがあります。
社会参加意識の現状
「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」という問いに対して、日本の18歳は45.8%しか肯定的に回答していません。これも6カ国中最下位です。
政治への関心についても、「政治や選挙、社会問題について、自分の考えを持っている」が53.5%、「政治・選挙・社会問題について家族や友人と議論することがある」が50.5%と、他国と比べて低い水準にとどまっています。
投票率の推移
2016年に18歳選挙権が導入された際、参議院選挙での投票率は比較的高い水準でした。しかし、その後は低下傾向にあります。
2017年の衆院選では18歳47.87%、19歳33.25%でしたが、2019年の参院選では18歳34.68%、19歳28.05%まで低下しました。2021年の衆院選では10代全体で43.23%、20代は36.50%となっており、60代の71.38%と比べると35ポイント近い差があります。
選挙権年齢の引き下げだけでは、若者の政治離れに歯止めをかけられていないのが現状です。
消費者トラブルの実態
懸念されていた問題
成人年齢引き下げで最も懸念されていたのが、消費者被害の拡大です。未成年者が親の同意なく契約した場合、民法で定められた「未成年者取消権」によってその契約を取り消すことができます。しかし、18歳・19歳が成人となったことで、この保護が受けられなくなりました。
社会経験に乏しく、契約に関する知識も十分でない若者が、悪質な業者のターゲットになるのではないかとの懸念がありました。
実際の相談件数
国民生活センターのデータによると、2024年度に寄せられた18歳・19歳からの消費生活相談件数は8,962件でした。最も多いのは「脱毛エステ」に関するトラブルで約6.8%を占めています。
ただし、施行前に懸念されていたような爆発的な増加は見られていません。主権者教育や消費者教育の充実、周知活動の効果があったと考えられます。
注意が必要なトラブル
現在、18歳・19歳に多い消費者トラブルとして以下が挙げられています。
- 副業・情報商材やマルチ商法などの「儲け話」トラブル
- エステや美容医療などの「美容関連」トラブル
- 健康食品や化粧品などの「定期購入」トラブル
- 消費者金融やクレジットカードの「借金・クレカ」トラブル
特に問題なのは、「お金がない」と断る若者に対して、消費者金融からの借り入れやクレジットカードの利用を強引に勧め、高額な契約を結ばせる悪質な手口です。
注意点・展望
主権者教育の重要性
2022年度から高等学校に新科目「公共」が導入され、その中に主権者教育が位置付けられました。2023年5月の調査では、国公私立高等学校等の94.9%で主権者教育が実施されています。
主権者教育とは、「国や社会の問題を自分のこととして捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成すること」です。投票率向上だけでなく、若者が社会の一員として責任を持って行動するための基盤づくりが進められています。
被選挙権年齢引き下げの議論
若者の政治参加を促進するため、被選挙権年齢の引き下げを求める声も高まっています。研究によると、20代の候補者比率が高まると10代、20代の投票率が上昇する傾向があります。
「自分たちの代表」を選ぶ選挙において、同世代の候補者がいることは、若者の政治への関心を高める重要な要素となります。
今後の課題
成人年齢引き下げから4年が経過し、制度は定着しつつあります。しかし、若者の「大人の自覚」や社会参加意識が国際水準に達しているとは言えない状況です。
形式的な「成人」ではなく、実質的に社会を支える担い手として若者が活躍できる環境整備が求められています。教育、雇用、政治参加など、多面的なアプローチが必要です。
まとめ
成人年齢が18歳に引き下げられてから4年、日本社会は緩やかながら変化を見せています。懸念されていた消費者トラブルの急増は起きておらず、若者の間には少しずつ「大人の自覚」が芽生え始めています。
一方で、国際比較では日本の若者の社会参加意識や自己肯定感の低さが依然として課題です。投票率も低迷が続いており、18歳選挙権・18歳成人という制度だけでは、若者の政治離れを解消できていません。
制度改革はあくまで出発点です。若者が社会の担い手として活躍するためには、教育の充実、雇用環境の改善、政治への参加機会の拡大など、総合的な取り組みが必要です。「18歳で成人」という新しい常識を、日本社会全体でどう活かしていくかが問われています。
参考資料:
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