還付金詐欺の巧妙な手口と身を守るための対策
はじめに
「累積医療制度に関する書類を送りましたが、申請がされていません」――市役所職員を名乗る人物からこのような電話がかかってきたとき、あなたはどう対応するでしょうか。
65歳を迎えると、年金や介護保険、各種予防接種券など、行政からの書類が増えます。そのため「見逃したかもしれない」と不安になる心理を巧みに突いてくるのが、還付金詐欺の手口です。実際に市役所に問い合わせてみると、「累積医療制度」なる制度は存在せず、還付金詐欺の一種であることが判明するケースが報告されています。
この記事では、還付金詐欺を含む特殊詐欺の最新の手口と、被害を防ぐための具体的な対策について解説します。
特殊詐欺の被害実態
年間700億円超の被害額
警察庁の統計によると、2024年の特殊詐欺の認知件数は2万987件に達し、被害額は700億円を超えました。前年比で約6割の増加という深刻な状況です。
オレオレ詐欺と預貯金詐欺を合わせた認知件数は8,927件で、前年比33.1%の増加を記録しています。還付金詐欺はその中でも増加傾向にある手口の一つです。
高齢者だけの問題ではなくなっている
特殊詐欺の被害者は高齢者が中心というイメージがありますが、最新のデータはその認識の修正を迫っています。2024年の統計では、65歳以上の高齢者の被害が全体の65.4%を占めていました。しかし2025年上半期に入ると、65歳未満の被害者が50%を超え、被害の年齢層が逆転する事態が起きています。
特に20〜30代の若年層における被害が急増しており、SNSを利用した新たな手口が広がっていることが背景にあります。特殊詐欺はもはや高齢者だけの問題ではなく、全世代が注意すべきリスクとなっています。
還付金詐欺の巧妙な手口
基本的な手口のパターン
還付金詐欺の典型的な手口は以下のような流れで進行します。
まず、自治体の職員や税務署、年金事務所の職員を名乗る人物から電話がかかってきます。「医療費の過払い金がある」「保険料の還付金がある」「累積医療費の返金がある」といった名目で、お金を受け取れるという内容を告げます。
次に、「申請期限が迫っている」「今日中なら手続きができる」と時間的な焦りを与えます。そして「提携している銀行のATMで手続きができる」とATMに誘導し、電話で操作を指示しながら、実際には犯人の口座への送金操作をさせるのです。
「累積医療制度」という架空の制度名
最近の手口で特徴的なのが、「累積医療制度」という実在しない制度名を使う点です。65歳を過ぎると、実際に高額療養費制度や後期高齢者医療制度など、さまざまな医療関連の制度に関する通知が届くようになります。
そのため、「累積医療制度」と聞いても「知らない制度かもしれないが、あり得る話だ」と感じてしまいやすいのです。行政からの書類が増えるタイミングを狙った、心理的な隙を突く手法です。
劇場型の進化した手口
近年は、複数の犯人が役割を分担する「劇場型」の手口も増えています。最初に市役所職員を名乗る人物が電話をかけ、次に「銀行の担当者」を名乗る別の人物から電話がかかってくるパターンです。
2人以上の登場人物が口裏を合わせて一貫したストーリーを語ることで、被害者は疑いを持ちにくくなります。さらに、実際の自治体の電話番号を偽装表示させる技術も使われており、発信元を確認しても見抜けないケースが増えています。
被害に遭わないための具体的対策
電話での対応の原則
最も重要な原則は「お金に関する電話は一度切って確認する」ことです。本物の行政機関であれば、電話で急かされることはありません。以下のポイントを覚えておくことが有効です。
- ATMで還付金の手続きはできません: 行政機関がATMでの操作を指示することは絶対にありません。ATMへの誘導があった時点で詐欺と判断してください。
- 自分から折り返す: 相手の電話番号ではなく、自分で市役所や税務署の代表番号を調べて折り返しましょう。
- 「今日中」に惑わされない: 本物の行政手続きに「今日中でないと無効」となるものは基本的にありません。
技術的な対策
電話機やスマートフォンでの対策も効果的です。
- 迷惑電話フィルターの導入: 携帯電話キャリアが提供する迷惑電話対策サービスや、トビラフォンなどの専用サービスを利用することで、詐欺電話をブロックできます。
- 留守番電話の活用: 固定電話は常に留守番電話に設定し、相手の名乗りを確認してから出るようにします。
- 国際電話の着信制限: 海外の電話番号を偽装した詐欺電話を防ぐため、固定電話への国際電話着信をブロックする設定が有効です。
家族や地域での見守り
高齢の家族がいる場合は、日頃からの声かけが重要です。「最近、変な電話はなかった?」と定期的に確認するだけでも効果があります。
また、「合言葉」を家族で決めておくことも有効な対策です。電話でお金の話をされた場合、家族間で決めた合言葉で確認し合う仕組みを作っておくと、なりすましを見破りやすくなります。
注意点・展望
還付金詐欺を含む特殊詐欺は、手口が年々巧妙化しています。2025年に入ってからは、警察官を装って捜査名目で現金をだまし取る手口の被害額が316億円に達するなど、新たなパターンも登場しています。
今後の傾向として、AIを使った音声合成技術の発展により、知人や家族の声を模倣した詐欺電話が増える可能性も指摘されています。技術の進歩は詐欺の手口にも影響を与えるため、常に最新の情報を把握しておくことが重要です。
被害に遭った場合は、すぐに最寄りの警察署に届け出ることが大切です。また、消費者ホットライン(188番)や警察相談専用電話(#9110)に相談することもできます。
まとめ
還付金詐欺は「累積医療制度」などの架空の制度名を使い、行政への信頼と時間的な焦りを巧みに利用する手口です。特殊詐欺の被害は年間700億円を超え、もはや高齢者だけでなく全世代にとってのリスクとなっています。
身を守るための基本は「ATMで還付金の手続きはできない」という事実を知っておくことです。お金に関する電話は必ず一度切り、自分で公式の電話番号に折り返し確認する習慣をつけましょう。家族や周囲との日頃のコミュニケーションも、被害防止の重要な防波堤となります。
参考資料:
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