日経平均5万7000円時代、企業に求められる成長戦略
はじめに
2026年2月、日経平均株価が取引時間中に初めて5万7000円台を突破しました。衆議院選挙での自民党圧勝による政治的安定と、AI関連需要を中心とした企業業績の好調が重なり、日本の株式市場は歴史的な高値圏にあります。
しかし、株価は企業の将来の成長を先取りするものです。市場が織り込んだ「期待」に企業が実力で応えられなければ、株価の調整は避けられません。本記事では、上場企業の業績動向と、株高に見合う成長戦略として何が求められているのかを解説します。
上場企業の業績は過去最高水準に
AI・半導体が牽引する増益基調
2025年度の上場企業の業績は極めて好調です。東証プライム市場の企業の1株当たり利益(EPS)は過去最高を更新し、多くの企業が増益を達成しています。
特にAI関連の需要拡大は目覚ましく、アドバンテストは2026年3月期の上半期決算で売上高5,267億円(前年同期比60.0%増)、営業利益2,324億円(同145.0%増)と大幅な増収増益を記録しました。ソニーグループも2026年3月期の連結純利益が1兆500億円に上振れする見通しを発表しています。
NEC(日本電気)も2026年3月期の上半期で営業利益が前年同期比165.3%増と大幅に伸び、AI関連事業が全体を押し上げる構図が鮮明になっています。
期初の懸念は和らいだ
2025年度の期初には、米国の関税政策による悪影響が懸念されていました。しかし、日米間の関税合意が成立したことで不透明感が後退し、企業業績への影響は限定的にとどまっています。
TDKは2026年3月期の連結純利益予想を1,800億円(前年比8%増)に上方修正し、「関税影響は想定より軽微」との見解を示しています。こうした上方修正の動きは多くの企業に広がっており、市場全体の業績見通しを押し上げる要因となっています。
株高の背景にある3つの追い風
衆院選での政権安定
2026年2月8日の衆議院選挙で自民党が316議席を獲得し、歴史的な圧勝を収めました。連立パートナーとの合計で352議席に達し、高市早苗首相の政策実行力が格段に高まりました。
市場は「政権安定」「積極財政」「良好な日米関係」の3つを評価し、選挙翌営業日の2月9日には日経平均が一時3,000円以上の上げ幅を記録しました。高市政権が掲げる「戦略17分野」への投資加速が期待されており、AI・半導体、防衛、宇宙、バイオなどの分野に複数年度にわたる予算措置が講じられる方向です。
脱デフレの「転換点」が鮮明に
日本経済は長年のデフレから脱却しつつあります。インフレ率(GDPデフレーター)がプラス圏に定着し、2025年度・2026年度の名目GDP成長率は3%以上が見込まれています。名目GDPの高い伸びは企業の売上拡大に直結するため、業績の底上げ要因として重要です。
野村證券のストラテジストは「脱デフレの転換点が鮮明になった」と指摘し、2026年の日経平均について強気の見通しを維持しています。経営者20人への調査でも全員が最高値更新を予想し、高値予想の平均は5万7,350円となりました。
AI関連投資の加速
世界的なAI投資ブームの恩恵を日本企業も大きく受けています。半導体検査装置、データセンター関連、AI活用ソリューションなど、幅広い分野でAI関連の受注が拡大しています。
高市政権が「AI・半導体」を戦略分野の筆頭に位置づけていることも、国内での投資拡大を後押ししています。民間企業のAI関連設備投資と、政府の産業政策が相互に補完する好循環が生まれつつあります。
企業に求められる「成長シナリオ」
賃上げの継続と加速
2025年春闘の賃上げ要求は平均6.09%と、32年ぶりの高い伸び率を記録しました。2026年も同程度かそれ以上のベースアップ率が期待されています。
賃上げは単なるコスト増ではありません。消費を活性化し、名目GDPの成長を支える好循環の起点となります。企業にとって持続的な賃上げを実現するには、それを支える生産性向上と収益力の強化が不可欠です。
設備投資の質的転換
2026年度の民間設備投資は底堅い動きが予想されています。特に注目されるのは、省力化投資やソフトウェア投資の拡大です。人手不足を背景に、AI・自動化による生産性向上を目指す投資が主流になりつつあります。
製造業では世界経済の不透明感が残るものの、比較的堅調な投資が継続する見通しです。非製造業では前年度の大幅増の反動で一服感がありますが、DX(デジタル変革)関連の投資は引き続き活発です。
株主還元とのバランス
2024年度における上場企業の株主還元額は合計39.4兆円で、前年度比34%増と大幅に拡大しました。しかし、過去10年の平均伸び率を見ると、株主還元は年12.1%である一方、従業員給与の増加率はわずか0.8%にとどまっています。
この不均衡は持続可能とは言えません。企業は株主還元を充実させると同時に、人的資本への投資(賃上げ・人材育成)と成長投資(研究開発・設備投資)のバランスを取ることが重要です。短期的な株主還元に偏重すれば、長期的な成長力を損なうリスクがあります。
注意点・展望
楽観シナリオのリスク
現在の株高は複数の好材料が重なった結果であり、すべてが順調に進む保証はありません。米中関係の変化、AI投資バブルの懸念、金利上昇による企業財務への影響など、潜在的なリスク要因は存在します。
特にAI関連銘柄については、期待先行で株価が実態以上に上昇している可能性もあり、業績の裏付けがなければ調整局面を迎える可能性があります。
今後の注目ポイント
2026年後半に向けては、3月期決算の本決算発表が重要な転換点となります。企業が市場の期待に応える業績と成長戦略を示せるかどうかで、日経平均6万円の壁を突破できるかが決まります。
また、高市政権の「戦略17分野」に対する具体的な予算措置や規制改革の進展も注目材料です。政府と民間の連携がうまく機能すれば、日本経済の構造的な成長力が一段と高まる可能性があります。
まとめ
日経平均株価が5万7000円台に達した現在、上場企業は株高に見合う実力を示す局面にあります。AI関連需要の拡大や政権安定を追い風に業績は好調ですが、市場の期待はさらにその先を見据えています。
企業に求められるのは、賃上げ・設備投資・株主還元のバランスを取りながら、中長期的な成長シナリオを明確に描くことです。好業績の今こそ、将来の競争力を高める投資を加速させる絶好の機会と言えます。投資家・従業員・社会のすべてのステークホルダーに対し、力強い成長の道筋を示すことが企業経営者の責務です。
参考資料:
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