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by nicoxz

日本株の慎重論を読む 自社株買い頼み相場と企業収益の不確実性

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はじめに

日本株が大きく反発しても、運用の現場がすぐ強気に転じるとは限りません。2025年から2026年にかけての日本株には、賃上げ、内需回復、企業統治改革、自社株買いといった追い風が確かにありました。その一方で、株価上昇が想定を先回りし、企業の投資計画や利益見通しがそれほど強くない局面では、プロほど慎重になります。

今回の論点は、相場が上がったかどうかではなく、その上昇を何が支えているかです。本稿では、日銀短観、TSE改革、自社株買い、海外運用会社の見方、中東リスクをつなぎながら、日本株の「相対優位」がなぜ揺らぎやすくなっているのかを解説します。

上昇相場を支えた構造要因とその限界

改革相場はまだ続くが、期待の織り込みが進行

日本株の強気材料そのものは消えていません。2025年1月に東京証券取引所は、「資本コストや株価を意識した経営」の開示企業リストを改訂し、更新日や投資家との対話希望欄を追加しました。単なる要請にとどまらず、企業に継続的な改善説明を求める段階へ移ったことになります。

こうした改革は株価評価の底上げ要因です。実際、Invescoは2025年12月時点で、TOPIXが3,000を、日経平均が50,000を初めて上回ったと整理し、その背景に高市政権の成長期待や企業統治改革を挙げています。ただし同社は同時に、市場はすでに政策の「最良シナリオ」をかなり織り込んだとも指摘しました。強気材料が残っていても、株価が先に走れば追加的な上昇余地は小さくなります。

自社株買いは強力だが、万能ではない下支え

需給面で日本株を支えてきた主役の一つが自社株買いです。QUICKによると、2025年4月の自己株取得決議額は4月28日時点で3.5兆円超に達しました。同社は、2024年以降に海外投資家が現物と先物の合計で日本株を純売りする一方、日本の事業法人が最大の買い手となってきたと分析しています。

この構図は重要です。日本株の上昇が企業改革と利益成長だけで説明できず、企業自身の買い支えにも依存していたことを意味するからです。自社株買いは一株利益や需給改善に効きますが、恒常的な利益成長の代わりにはなりません。QUICKも、次の焦点は株主還元の「第一歩」の後に、事業再編や成長投資へ進めるかどうかだと整理しています。

慎重姿勢が残る本当の理由

日銀短観が示す投資と収益の減速感

慎重論の根拠として最も重いのは、実体経済の数字です。日銀の2026年3月短観では、全規模全産業の売上高見通しが2025年度プラス2.3%、2026年度プラス1.3%でした。固定投資計画は2025年度プラス7.9%に対し、2026年度はプラス1.3%まで鈍化しています。企業の経常利益見通しも全産業ベースで2025年度マイナス0.6%、2026年度プラス1.2%にとどまりました。

収益率の見通しも伸び切れていません。全規模全産業の売上高経常利益率は2025年度7.28%に対し、2026年度は7.02%見通しです。さらに、借入金利の上昇を見込むDIは全規模で2025年12月調査の46から2026年3月調査で63へ上昇し、6月予想は64でした。賃上げと価格転嫁が進んでも、金利とコストの負担が重なれば、株価の上値を追いにくくなります。

バリュエーションと物色の難しさ

海外運用会社の見方も、全面強気ではありません。J.P. Morgan Private Bankは2026年見通しで日本株を「建設的だが、すでに織り込みが進んだ市場」と位置付け、2026年末のTOPIX見通しを3,350〜3,400としつつ、投資判断はタクティカルに中立としました。上昇余地が残っていても、大きな押し目が買い場になるという整理です。

Arcusも2025年末時点で、2025年の世界株高を経て過大評価の領域が増え、日本では大型株と中小型株のバリュエーション格差が大きいと述べています。これは、日本株全体を一括りで「まだ割安」と見るのが難しくなったことを示します。大型株指数が強くても、実際の投資は銘柄選別の比重が高まり、運用巧者ほど機械的に買いにくくなります。

地政学リスクが日本株に与える追加の重し

中東情勢は日本株に直結しやすい構造

慎重姿勢を強めるのは企業業績だけではありません。2026年3月11日のG7首脳オンライン会合では、中東情勢が世界経済、金融市場、エネルギー市場に与える影響が主要議題になりました。日本政府は同会合で、ホルムズ海峡の通航困難化がエネルギー価格上昇を通じて世界経済に深刻な結果をもたらし得ると説明しています。

日本にとってこれは抽象的な話ではありません。資源エネルギー庁によると、2023年度の日本の原油輸入の94.7%は中東由来です。3月19日には日本、フランス、英国、ドイツなどが、ホルムズ海峡での安全航行確保を求める共同声明を出しました。エネルギー価格、輸送コスト、保険料率の上昇は、製造業にも内需株にも効きます。株価が反発しても、地政学ショックの尾を引く間は、積極的にリスクを取りにくいわけです。

注意点・展望

ここで避けたい誤解は、「慎重=悲観」ではないという点です。日本株の構造改革、自社株買い、賃上げ定着、NISAによる個人マネー流入は、なお中期の支援材料です。QUICKの2026年2月調査でも、市場参加者の1カ月先の日経平均予想は54,087と、前回の51,526から上向きました。相場の基調が完全に壊れたわけではありません。

ただし、慎重論はもっと実務的です。株価が上がった後は、1. 利益率が維持できるか、2. 自社株買いの勢いが続くか、3. 地政学リスクが企業計画を傷めないか、の三点を確認する時間が必要になります。日銀短観で投資計画が鈍り、金利上昇見通しも強まる局面では、指数全体よりも財務体質、価格転嫁力、設備投資の質を見極める相場になりやすいです。

まとめ

日本株に慎重論が残るのは、上昇材料が消えたからではありません。むしろ、改革や自社株買いで押し上げられた評価が、今度は利益成長や投資拡大で裏付けられる段階に入ったからです。2026年3月短観は、その裏付けがまだ十分に強くないことを示しました。

急反発の局面で運用巧者が身構えるのは合理的です。今の日本株は、全面安でも全面強気でもなく、上がる銘柄と失速する銘柄の差が広がりやすい市場です。買い場を測る視点も、指数の勢いだけでなく、利益の質と需給の持続性へ移っています。

参考資料:

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