Research
Research

by nicoxz

イラン攻撃1カ月で問う日本株の耐久力と4万6000円回復シナリオ

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

米国・イスラエルによるイラン攻撃から1カ月がたち、市場は初動の恐怖よりも「どこまで長引くか」を値付けする段階に入りました。3月上旬の日本株は原油高と金利上昇を同時に嫌気して急落しましたが、その後の見方は一枚岩ではありません。悲観派はスタグフレーション再来を警戒し、楽観派は企業収益の基調や政策対応力を重視しています。

注目すべきなのは、「中東情勢は重大だが、日本企業業績への影響は直ちに壊滅的ではない」という見方がなお根強いことです。一方で、原油高が100ドル超で居座るなら、話は変わります。この記事では、なぜ市場が影響を限定的とみるのか、なぜそれでも日本株4万6000円台回復が語られるのか、そしてどこからシナリオが崩れるのかを整理します。

市場が限定影響とみる理由

一次ショックと長期ショックの分岐点

中東発の相場変動について、海外運用会社の共通認識は比較的はっきりしています。BlackRockは3月2日時点で、この局面をまず「ボラティリティー・ショック」と位置づけ、無差別なリスク資産圧縮には慎重でした。Goldman Sachs Asset Managementも、相場の本質は紛争の長さにあり、現時点のベースケースはなお堅調な世界成長だとしています。Robecoも、エネルギー輸送とインフレへの波及が長引かない限り、信用市場の反応は秩序的だと整理しました。

日本株でも考え方は同じです。三井住友DSアセットマネジメントは、原油価格が75ドルへ低下する楽観シナリオなら夏場に向けた一段高を見込み、原油高が1年続いた場合でもTOPIXのEPS押し下げは1.24〜2.48%にとどまると試算しました。つまり、市場は「原油高それ自体」ではなく、「100〜120ドル台の長期化」や「150〜200ドル級の供給ショック」こそを本格的な業績悪化シナリオとみています。

日本企業収益を支える構造要因

強気派が日本株を見直す根拠は、地政学とは別の場所にあります。野村證券は年初時点で、2025年に日経平均が一時5万2000円台まで上昇した流れを踏まえ、2026年も株高基調が続くと説明していました。Franklin Templetonも、日本企業のROE改善と複数年のEPS成長余地を強調しています。さらに野村證券は3月6日時点で、2026年末のメインシナリオをTOPIX4000、日経平均6万円とし、企業収益を軸にした緩やかな株高シナリオは崩れにくいと説明しました。

この見方は、国内景気のクッション材ともつながります。伊藤忠総研は、WTIが100ドル近辺で高止まりした場合でも、原油高が年後半まで続かなければ2026年の実質賃金はプラス圏を維持するとの見通しを示しています。ガソリン価格やインフレには逆風が出るものの、即座に内需崩壊へつながるわけではないという判断です。市場が「業績への影響は限定的」と言うとき、その中身は楽観ではなく、長期化しなければ吸収可能という条件付きの評価です。

4万6000円回復シナリオの条件

急落で織り込んだ悲観の大きさ

3月9日の日本株は、WTI原油が一時111ドルに達した局面で日経平均が一時4,000円超急落しました。野村総合研究所は、この局面を日本の「トリプル安」が構造問題を映した場面と分析しています。日本は2025年時点で原油の94%を中東に依存しており、原油高は輸入コスト、物価、財政負担を通じて市場心理を冷やしやすいからです。

ただし、急落は裏を返せば、かなり強い悲観を前倒しで織り込んだとも言えます。野村の資料では、3月2〜4日だけで日経平均は7.8%下落しました。それでも同社は、利益確定売りや短期のリバーサルはあっても、景気失速を織り込む局面ではないとみています。市場が最悪を織り込み済みで、企業業績見通しが大崩れしなければ、戻り局面は想定より速くなる余地があります。

4万6000円をどう位置づけるか

ここでいう「4万6000円」は、参考資料が直接示した目標値ではなく、複数の公開シナリオから導く筆者の推計です。根拠は三つあります。第一に、野村の年末メインシナリオが6万円とかなり上にあることです。第二に、野村の年初見通しやFranklin Templetonが、日本株上昇の土台を一過性ではなく構造要因とみていることです。第三に、三井住友DSアセットマネジメントの楽観シナリオでは、原油の反落が確認されれば夏場に向けた一段高を見込んでいることです。

この三点を合わせると、4万6000円台は「強すぎる楽観」ではなく、紛争が局地化し、原油が鎮静化し、4〜6月期決算で利益モメンタムが維持される場合の中間的な回復水準とみることができます。もちろん、これは投資助言ではありません。市場の見方を整理すると、4万6000円は夢物語でも本命目標でもなく、悲観一色からの正常化が進んだ際の現実的な通過点という位置づけになります。

注意点・展望

注意すべきは、限定影響論の前提がかなり厳密だという点です。日本総研は、原油高が長期化した場合、2026年度のインフレ率は0.94ポイント上振れし、GDPは0.3ポイント悪化すると試算しています。電気・ガス代補助で物価の上振れを抑えるには、3〜4兆円規模の歳出が必要になるとの見立てです。つまり、相場が恐れているのは戦闘そのものより、原油高の固定化と政策コストの膨張です。

さらに三井住友DSアセットマネジメントは、100〜120ドルの長期化でTOPIXのEPSが4.95〜7.43%押し下げられ、150〜200ドル級では11.14〜17.33%の下押し要因になると試算しました。この水準まで進むと、4万6000円回復シナリオは後退し、二番底や長期低迷の確率が高まります。今後の焦点は、原油価格の水準だけでなく、日銀の姿勢、米インフレの再加速、4〜6月期決算での価格転嫁の進み具合です。

まとめ

イラン攻撃から1カ月の市場は、ショックの大きさより持続時間を見ています。日本株に対する「業績影響は限定的」という見方は、企業収益の基調、賃上げと内需の回復、企業統治改革という支えがまだ生きているからです。したがって、原油高が早期に鎮静化するなら、日本株が再び上を試す余地は十分あります。

一方で、原油が100ドル超で居座れば、物価、賃金、政策運営を通じて日本株の強気シナリオは崩れやすくなります。4万6000円台回復は、あくまでエネルギー市場の落ち着きと企業業績の持続がそろった場合の条件付きシナリオです。投資家が見るべきポイントは、戦況の見出しより、原油、金利、決算の三つが同時にどちらへ傾くかです。

参考資料:

関連記事

最新ニュース