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by nicoxz

香川アリーナ開館1年で稼働率9割、地方アリーナの成功モデルに

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はじめに

2025年2月24日に開館した香川県立アリーナ「あなぶきアリーナ香川」(高松市サンポート地区)が、開館から1年を迎えました。県が約202億円を投じて建設した中四国最大級のこの多目的アリーナは、開業からわずか10カ月で来場者数60万人を突破し、施設稼働率は約9割という驚異的な数字を記録しています。サザンオールスターズの41年ぶりの高松公演でこけら落としを飾り、ユネスコの国際建築賞「ベルサイユ賞」の最優秀賞を受賞するなど、話題に事欠かない1年でした。全国でアリーナ建設ラッシュが続くなか、地方アリーナの成功モデルとして注目を集めるあなぶきアリーナ香川の1年間を振り返ります。

圧倒的な集客力を証明した1年間の実績

開業半年で46万人、稼働率94%の衝撃

あなぶきアリーナ香川の集客力は、開業当初から関係者の予想を上回るものでした。KSB瀬戸内海放送の報道によれば、2025年8月末時点、つまり開業からわずか半年の段階で、来館者数は延べ46万人に達しています。メインアリーナ、サブアリーナ、武道施設を合わせた施設稼働日は173日で、全開館日185日の約94%にあたります。

香川県教育委員会の淀谷教育長は「計画を上回る高い稼働率となり、順調なスタートを切れた」と評価し、今後はコンサートやスポーツイベントだけにとどまらず、国際会議など多様な用途での利用促進を図る方針を示しました。

サザンオールスターズが41年ぶりに高松へ

開館の象徴的な出来事となったのが、サザンオールスターズによるこけら落とし公演です。2025年3月1日と2日の2日間、「LIVE TOUR 2025『THANK YOU SO MUCH!!』」の一環として開催されたこの公演は、サザンオールスターズにとって実に41年ぶりの高松公演でした。2日間で約1万4,000人が来場し、チケットは完売。アリーナ周辺の商業施設や飲食店にも大きなにぎわいをもたらしました。

このこけら落とし公演は、地方にも最新設備を備えた大規模アリーナがあれば、トップアーティストの公演を誘致できることを証明した画期的な事例となりました。従来、中四国エリアでは1万人規模のコンサートを開催できる屋内施設がなく、大規模ツアーの公演先から外れることが少なくありませんでした。

多彩なイベントが続々開催

サザンオールスターズのこけら落としに続き、あなぶきアリーナ香川ではさまざまなジャンルのイベントが開催されました。2025年3月8日・9日には音楽フェス「Hello Arena 2025」が開催され、10-FEET、SUPER BEAVER、東京スカパラダイスオーケストラ、マカロニえんぴつなどの人気アーティストが出演しました。

5月6日には「TGC香川 2025」(東京ガールズコレクション)が高松で初めて開催され、約9,800人が来場。高松市の発表によると、メディア露出による広告換算額が6億円あまり、来場者の消費による経済波及効果が2億円あまりで、合わせて8億円を超える経済効果が生まれました。

2025年には他にも乃木坂46の「真夏の全国ツアー 2025」(8月)やINI(6月)など、多くの人気アーティストがあなぶきアリーナ香川でのライブを実施。2026年にはMr.Children(6月)、福山雅治(6月)、DREAMS COME TRUE(7月)、BUMP OF CHICKEN(11月)など、日本を代表するアーティストの公演が既に予定されており、地方会場とは思えないラインナップが揃っています。

世界が認めた建築美と地域への波及効果

ユネスコ「ベルサイユ賞」最優秀賞を受賞

あなぶきアリーナ香川の価値を世界に知らしめたのが、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が創設した国際建築賞「ベルサイユ賞」の受賞です。2025年11月に「世界で最も美しいアリーナ 2025」の1つに選出され、同年12月4日にはパリのユネスコ本部で開催された表彰式において、スポーツ部門の最優秀賞を受賞しました。日本のスポーツ施設がベルサイユ賞の最優秀賞を受賞するのは初めてのことです。

設計を手がけたのは、世界的に活躍する建築家ユニット「SANAA」の妹島和世氏と西沢立衛氏です。SANAAはプリツカー賞(建築界のノーベル賞とも称される)を2010年に受賞しており、金沢21世紀美術館やルーヴル美術館ランス別館などで知られています。

瀬戸内海と調和する革新的デザイン

あなぶきアリーナ香川のデザインは、瀬戸内海の島々をイメージしたものです。高さを抑えたシェル構造の屋根が、メインアリーナ、サブアリーナ、武道施設の3棟を緩やかにつないでいます。瀬戸内海や讃岐平野の山々の風景との連続性を意識したフォルムが特徴で、周囲の景観に配慮しながらも、独特の存在感を放っています。

建物内部には壁で仕切らない開放的な空間が広がり、観客席上部にも壁を設けないことでアリーナとの一体感を実現しています。ベルサイユ賞の選考でも「この建築から発する詩情が、空間をまとまりのある独自の景観へ変貌させている」「瀬戸内海を望み、高松駅や港に近接するこの開放的な建物は、既存の広場、公園、港を一体化し、街と海をつなげている」と高く評価されました。

2026年2月24日には開館1周年を記念して、ベルサイユ賞受賞記念セレモニーが開催されました。香川県の池田知事らが出席し、受賞看板やメダルがお披露目されたほか、普段は立ち入れないVIPルームやバックヤードを含む全館を開放する「ARENA OPEN DAYS」が6日間にわたって実施されています。

サンポート高松の再開発を加速

あなぶきアリーナ香川の成功は、周辺エリアの再開発にも大きな弾みをつけています。サンポート高松地区では、2027年夏に世界最高級ホテルブランド「マンダリンオリエンタル」の進出が予定されているほか、徳島文理大学の新キャンパス開校など、大型プロジェクトが相次いでいます。

JR高松駅ビル「TAKAMATSU ORNE」を含む商業開発も進行中で、アリーナの集客力が周辺の不動産開発や商業投資を呼び込む好循環が生まれつつあります。アリーナを核とした「ウォーカブルなまちづくり」の実現に向けて、エリアマネジメントの取り組みも本格化しています。

全国アリーナ建設ラッシュのなかで

65超の構想が浮上する空前のブーム

あなぶきアリーナ香川の成功は、全国的なアリーナ建設ラッシュのなかでも際立っています。東洋経済の調査によれば、新設・改修を予定しているスタジアム・アリーナは全国で少なくとも65カ所に上り、100億円超を投じるプロジェクトは20以上あるとされています。

この背景には、2016年に政府が掲げた「スポーツの成長産業化」政策があります。経済産業省とスポーツ庁が推進する「スタジアム・アリーナ改革」に加え、Bリーグ(プロバスケットボール)が2026-2027年シーズンから収容人数5,000席以上のホームアリーナ確保をトップカテゴリー参入の条件としたことも、各地での建設を後押ししています。

しかし、すべてのアリーナが成功するわけではありません。「令和のハコモノ」と批判される計画もあり、岡山では建設中止を求める署名活動も起きています。あなぶきアリーナ香川の高い稼働率と多彩なイベント誘致の実績は、建設費の回収や持続的な運営に課題を抱える他の自治体にとって、重要な参考事例となるでしょう。

今後の展望と課題

あなぶきアリーナ香川は今後、さらなる利用拡大を目指しています。2026年3月には香川県初のフルマラソン「かがわマラソン」の発着点となることが決まっており、プロバスケットボールB3リーグの香川ファイブアローズの試合も予定されています。

一方で、課題がないわけではありません。周辺のアクセス整備や駐車場の確保、コンサート開催時の周辺住民への配慮など、大規模施設ならではの問題への対応が引き続き求められます。また、202億円という建設費に見合う長期的な経済効果を継続的に生み出せるかどうかも注視されています。

まとめ

あなぶきアリーナ香川の1年間は、地方アリーナの可能性を大きく広げる成果に満ちたものでした。開業10カ月で来場者60万人超、稼働率約9割という実績は、適切な立地選定、世界水準のデザイン、そして官民連携による積極的なイベント誘致が組み合わさった結果です。ユネスコのベルサイユ賞受賞は、単なるスポーツ施設を超えた文化的価値が国際的に認められたことを意味します。全国で65を超えるアリーナ計画が進むなか、あなぶきアリーナ香川の成功モデルは、地方創生と文化振興の交差点に立つ重要な事例として、今後ますます注目を集めることになるでしょう。

参考資料

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