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by nicoxz

カイロス3号機打ち上げ延期、民間ロケットの挑戦と課題

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はじめに

宇宙スタートアップのスペースワン(東京・港区)は2026年2月22日、小型ロケット「カイロス」3号機の打ち上げ延期を発表しました。当初2月25日に予定されていた打ち上げは、天候の見通しを総合的に分析した結果、3月中の実施を想定しています。

カイロスはこれまで初号機・2号機と2回連続で打ち上げに失敗しており、3号機は「三度目の正直」として大きな注目を集めています。本記事では、延期の背景とカイロスのこれまでの歩み、日本の小型ロケット市場の展望を解説します。

カイロス3号機の延期詳細

天候を考慮した慎重な判断

スペースワンは2月22日のプレスリリースで、今後の気象条件の見通しなどを踏まえ、2月25日の打ち上げを延期すると発表しました。2月中の打ち上げは行わず、3月中の実施を想定しています。

打ち上げ予備期間は2月26日から3月25日まで設定されており、和歌山県串本町の「スペースポート紀伊」から打ち上げます。新たな打ち上げ日は、予定日の2日前までに公表されることになっています。

搭載予定の衛星群

3号機には5機の衛星が搭載される予定です。テラスペースの「TATARA-1R」、Space Cubicsの「SC-Sat1a」、広尾学園の「HErO」、アークエッジ・スペースの「AETS-1」、台湾国家宇宙センター(TASA)の「NutSat-3」が含まれ、高度約500キロメートルの太陽同期軌道への投入が計画されています。

教育機関や海外の宇宙機関の衛星も含まれていることから、カイロスの商業打ち上げサービスとしての幅広い顧客基盤が伺えます。

カイロスロケットの挑戦の歴史

初号機:発射5秒後の爆発

2024年3月13日、カイロス初号機がスペースポート紀伊から打ち上げられました。しかし、発射からわずか約5秒後に自律的な飛行中断措置が作動し、射場直上で爆発するという衝撃的な結果に終わりました。

原因は推進薬の燃焼速度を予測するプロセスに問題があったことが判明しました。飛行正常範囲の設定が厳しすぎたために、わずかな逸脱で自動的に飛行中断が発動されたとされています。

2号機:ノズル制御異常で飛行中断

2024年12月18日に打ち上げられた2号機は、初号機での教訓を活かした改善が施されていました。しかし、発射約1分20秒後に第1段エンジンのノズル駆動制御で異常が発生しました。

スペースワンの調査によると、原因はノズルの舵角(傾きの大きさ)を検知するセンサーからの誤った信号でした。この誤信号によりノズルの角度が通常より大きくなり、第2段目の飛行経路が計画経路から逸脱したため、飛行中断措置が取られました。高度約110キロメートルまで到達したものの、衛星の軌道投入には至りませんでした。

3号機に向けた改善策

2回の失敗を経て、スペースワンは原因の特定と対策を進めてきました。2号機の失敗原因であるセンサーの異常信号への対策が施され、打ち上げ再開が決定されました。過去の失敗から得たデータと知見を活かし、信頼性向上に取り組んでいます。

スペースワンとスペースポート紀伊

民間宇宙企業としての特徴

スペースワンはキヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行が出資して設立された宇宙スタートアップです。自社でロケットと射場の両方を保有するという、日本の民間企業としてはユニークなビジネスモデルを持っています。

カイロスは全長約18メートルの3段式固体燃料ロケットで、ペイロードの軌道投入精度を高めるための液体推進系キックステージを備えています。地球低軌道(LEO)へ約250キログラム、太陽同期軌道(SSO)へ約150キログラムの打ち上げ能力を持ちます。

スペースポート紀伊の戦略的意義

和歌山県串本町に位置するスペースポート紀伊は、本州最南端に近い立地を活かした民間ロケット発射場です。2019年に着工し、2021年から運用を開始しました。

南向きに開けた地理的条件は、太陽同期軌道への打ち上げに適しています。自社射場を持つことで、顧客の衛星を迅速に打ち上げられる「オンデマンド打ち上げサービス」の実現を目指しています。

日本の小型ロケット市場の展望

成長する宇宙産業

日本の宇宙産業の市場規模は2022年時点で約1.2兆円であり、政府は2030年代に2.4兆円への倍増を目標としています。日本の宇宙スタートアップはすでに100社を超え、衛星製造やデータ解析、デブリ除去など多様な分野で事業を展開しています。

小型衛星の需要が世界的に急増する中、それらを低コストかつ高頻度で打ち上げる手段としての小型ロケットへの期待は高まっています。

国際競争の中での位置づけ

世界の小型ロケット市場では、米国のRocket Labが「エレクトロン」ロケットで先行しています。SpaceXの「ファルコン9」によるライドシェア(相乗り打ち上げ)も競合となっています。

カイロスが商業打ち上げに成功すれば、日本独自の小型衛星打ち上げ手段として重要な位置を占めることになります。特にアジア太平洋地域の顧客にとって、地理的に近い日本からの打ち上げサービスは魅力的な選択肢となり得ます。

注意点・展望

ロケット開発における失敗の意味

ロケット開発において初期段階での失敗は珍しいことではありません。SpaceXも初期のファルコン1ロケットで3回連続の失敗を経験しており、4回目で初の軌道投入に成功しています。

重要なのは、各回の失敗から的確に原因を特定し、確実に対策を講じることです。スペースワンが初号機と2号機の異なる原因をそれぞれ解明し、改善を施してきた点は評価できます。

3号機成功の意義

3号機が成功すれば、日本の民間企業による初の衛星軌道投入という歴史的成果となります。これは日本の宇宙産業にとって大きなマイルストーンであり、今後の商業打ち上げ事業の本格化に向けた重要な一歩です。

一方で、3度目の失敗となった場合には、顧客や投資家の信頼回復に時間を要する可能性があります。天候による延期は慎重な判断の表れであり、万全の態勢で打ち上げに臨む姿勢は前向きに捉えるべきでしょう。

まとめ

カイロス3号機の打ち上げ延期は天候を考慮した慎重な判断であり、3月中の打ち上げが見込まれています。過去2回の失敗を乗り越えた3度目の挑戦は、日本の民間宇宙産業の行方を左右する重要な打ち上げです。

小型衛星の需要拡大と宇宙産業の成長を背景に、スペースワンの挑戦は日本の宇宙開発の新たな扉を開く可能性を秘めています。3月の打ち上げの成否に注目が集まります。

参考資料:

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