ケンタッキーがイートイン4割へ、脱ハレの日戦略の全容
はじめに
日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が、大胆な事業戦略の転換に乗り出しています。2026年3月9日に開催された事業戦略発表会で、遠藤久社長はイートイン(店内飲食)の売上高比率を現在の約3割から2031年までに4割へ引き上げる方針を明らかにしました。
ケンタッキーといえば、クリスマスや花見といった「ハレの日」にテイクアウトで利用するイメージが根強いブランドです。この構造からの脱却を図り、ランチやディナーの日常使いを開拓する新たな成長戦略の全容を解説します。
「ハレの日」依存からの脱却
テイクアウト偏重の課題
日本KFCの収益構造は長年、テイクアウトに大きく依存してきました。クリスマスには全国の店舗に長蛇の列ができる光景が風物詩となっていますが、裏を返せば、平日のランチや夕食に日常的に利用される機会が限られていたことを意味します。
遠藤社長は「ケンタッキーは比較的グループやパーティーといった場面で利用されることが多いが、もっと日常の中で1人や2人でも食べていただける領域を増やして、利用シーンを広げていきたい」と述べています。特定のイベントに売上が集中する構造は、繁閑の差が大きく、店舗運営の効率性にも課題がありました。
新社長が描く「第二創業」
遠藤久氏は2024年11月に社長に就任しました。マクドナルドやすかいらーくでの経験を持つ外食産業のプロフェッショナルです。カーライル・グループによる買収で非上場化した日本KFCにとって、遠藤氏の就任は「第二創業」とも位置づけられています。
マクドナルドでの経験から、イートインの日常利用がブランドの成長に不可欠であることを熟知しており、その知見を日本KFCの戦略に反映させようとしています。
1700店舗への拡大と次世代店舗
東名阪を中心に出店加速
日本KFCは2025年時点で約1,339店舗を展開していますが、2030年までに1,700店舗へと約360店舗を新規出店する計画です。出店エリアは東京・名古屋・大阪の三大都市圏が中心となり、人口密集地域でまだ出店余地がある立地を重点的に攻めます。
店舗タイプも多様化させます。ショッピングセンターのフードコートや小型のテイクアウト専門店に加え、路面店の出店を強化する方針です。路面店は店内飲食のスペースを確保しやすく、イートイン比率の向上に直結します。
グローバルデザインの次世代モデル店舗
2026年4月3日に相模原大野台にオープン予定の店舗は、KFCのグローバルデザインを採用した次世代モデル店舗として注目されています。この店舗は「買って帰る場所」から「店内で過ごす時間も心地よい、地域の人々が集まる快適な空間」へと進化させるコンセプトの象徴です。
今後の全国展開における標準デザインとなる予定で、店内の居心地を重視した設計がイートイン利用の促進を後押しします。
バーガー強化で日常利用を開拓
ランチ・ディナーの主力はバーガー
イートイン比率向上の鍵を握るのが、バーガーメニューの拡充です。遠藤社長は「店内でランチやディナーを食べていただくとなると、やはりバーガーになる。バーガーの領域はまだまだチャンスがあると思っている」と語っています。
オリジナルチキンは「みんなでシェアして食べる」イメージが強く、一人でのランチ利用にはやや不向きです。一方、バーガーは個食に適しており、注文から提供までの時間も短く、ランチタイムの回転率向上にも貢献します。2026年秋にはバーガーラインナップの大幅リニューアルが予定されています。
550円ランチと新メニュー戦略
物価高騰が続く中、KFCは550円という手頃な価格帯のランチセットを投入し、日常利用のハードルを下げています。また、7年ぶりに復活した「レッドホットツイスター」など話題性のある限定商品も展開し、来店頻度の向上を図っています。
朝食・ランチ・ディナーの各時間帯に対応したメニューの充実も進めており、新たなドリンクやサイドメニューの開発にも注力しています。「いつ行っても食べたいものがある」状態を目指し、利用シーンの拡大を狙っています。
食品消費税ゼロがもたらす課題
イートインとテイクアウトの税率差拡大
KFCの戦略にとって逆風となりかねないのが、政府が議論を進めている食品消費税の2年間ゼロ化政策です。現状でも外食(消費税10%)とテイクアウト(軽減税率8%)には2%の税率差がありますが、食料品の消費税がゼロになれば、この差は一気に10%へと拡大します。
具体的には、店内で1,100円(税込)のランチを食べる場合と、同じものをテイクアウトで購入する場合に100円の差が生じることになります。アンケート調査では、71.6%の飲食店が業績に影響があると回答しており、外食産業全体にとって深刻な問題です。
KFCの対応姿勢
こうした環境下でも、日本KFCは「成長投資を優先する」姿勢を明確にしています。食品消費税ゼロが実現した場合、テイクアウトへの需要シフトが起きる可能性はありますが、イートインの魅力を店舗体験の質で差別化する戦略です。
次世代店舗の居心地の良さや、店内限定のメニュー・サービスなど、「わざわざ店内で食べたい」と思わせる付加価値の提供が重要になります。飲食店団体からは「外食も消費税ゼロにすべき」との声が上がっており、制度設計の行方も注視されています。
注意点・展望
KFCの戦略転換が成功するかどうかは、いくつかの条件にかかっています。まず、バーガー市場ではマクドナルドやモスバーガーなど強力な競合がひしめいており、KFCならではの差別化が不可欠です。チキン専門店としてのブランド力を活かしつつ、バーガーでも選ばれる理由を明確に打ち出す必要があります。
また、1,700店舗への急速な拡大には、人材確保や物件取得のコストが伴います。外食産業全体で人手不足が深刻化する中、店舗運営の質を維持しながら出店ペースを上げることは容易ではありません。
一方で、非上場化によって四半期決算のプレッシャーから解放され、中長期的な成長投資に集中できる環境が整ったことはプラス材料です。遠藤社長のマクドナルドでの経験が、KFCのイートイン強化にどう活かされるか注目されます。
まとめ
日本KFCは、クリスマスや花見の「ハレの日」に依存した収益構造からの脱却を図り、イートイン比率を4割に引き上げる野心的な目標を掲げました。2030年に1,700店舗への拡大、バーガーメニューの大幅強化、次世代店舗デザインの展開など、複数の施策を同時に推進します。
食品消費税ゼロ化というイートインにとって逆風となりうる政策環境の中でも、店内体験の質で勝負する姿勢は明確です。「買って帰る場所」から「日常的に過ごしたい空間」へと変わるケンタッキーの今後に注目です。
参考資料:
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