回転寿司コンベヤーから読む景気と中国デフレの商機
はじめに
日本の外食産業は、コロナ禍で大きな打撃を受けた時期を乗り越え、市場規模がほぼ回復しつつあります。2025年の国内外食市場は約35兆7,000億円と見込まれ、2026年にはコロナ前の水準を上回る見通しです。
中でも回転寿司市場は力強い成長を続けており、その成長を象徴する存在が回転寿司コンベヤーの製造メーカーです。国内トップシェアを誇る石野製作所(金沢市)の動向を通じて、外食産業の現在地と、中国のデフレが日本企業にもたらす新たな商機について読み解きます。
回転寿司市場の堅調な成長
コロナ禍からの力強い回復
回転寿司市場は、外食産業全体の中でも特に回復力のある分野です。2023年の回転寿司市場規模は約7,530億円で、前年比4%増となりました。その後も成長は続き、2025年には約7,250億円超の売上高を記録し、前年比7.6%増と高い伸び率を示しています。
国内の店舗数も約4,220店舗に達し、前年比1.9%増で推移しています。スシロー、はま寿司、くら寿司の大手3社が市場の約80%を占める寡占状態となっていますが、そのことがかえって業界全体の効率化と品質向上を促進しています。
コンベヤーメーカーから見える業界の体温
回転寿司の「装置産業」としての側面を支えているのが、コンベヤーメーカーです。石野製作所は1974年に「自動給茶装置付寿司コンベア機」を開発し、回転寿司という食文化の急速な普及に貢献しました。現在、国内外合わせて7,000店舗以上への納品実績を持ち、世界30カ国・地域に製品を供給しています。
コンベヤーの受注状況は、外食産業の設備投資意欲を映す「先行指標」ともいえます。新規出店や既存店のリニューアル需要が活発であれば、コンベヤーの受注も増加するためです。現在、石野製作所にはアジア圏を中心に大型コンベヤーの受注が増えていると報じられており、業界全体の成長期待を裏づけています。
中国デフレが生む日本企業の商機
中国経済のデフレ状況
中国経済は2023年以降、実質GDP成長率が名目成長率を上回る「名実逆転」が3年連続で続いています。GDPデフレーターのマイナスが長期化し、特に食料品価格の下落が顕著です。野菜が前年比約13%減、果物が約3%減、水産品が約1.3%減と、生鮮品を中心に広範な価格下落が生じています。
2026年の中国経済は実質GDP成長率が4.4%程度に減速すると見込まれ、内需の弱さから「デフレの輸出」が続く構図が予想されています。大和総研の分析によれば、中東情勢の緊迫化も加わり、中国のデフレ圧力は容易には解消しない見通しです。
日本の外食チェーンが見出す勝機
一見するとネガティブに映る中国のデフレですが、日本の外食企業にとっては複数の商機を生んでいます。
第一に、中国の食材価格の下落は、日本企業の仕入れコスト削減につながる可能性があります。水産物や農産物の価格低下は、原材料費の高騰に悩む外食チェーンにとって追い風です。
第二に、中国国内の消費低迷により、現地の外食市場では低価格帯の需要が高まっています。日本式の回転寿司は、高品質でありながら比較的手頃な価格帯を提供できるため、中国の消費者にとって魅力的な選択肢となっています。
第三に、訪日中国人観光客の増加により、帰国後も日本食への需要が続く好循環が生まれています。訪日外国人の飲食費は2024年に約1兆7,000億円に達し、外食市場の約5%を占める規模にまで成長しました。
海外展開を加速する回転寿司チェーン
スシローの積極攻勢
スシローを運営するFOOD & LIFE COMPANIESは、海外展開を経営の柱として位置づけています。2025年12月には上海に初出店し、2店舗同時オープンでは入場待ち時間が10時間を超えるほどの反響を呼びました。
2026年9月期には海外で過去最大の出店ペースを計画しており、全体で300〜320店舗体制を目指しています。海外売上の構成比は35%にまで高まる見通しで、中華圏だけで210〜222店舗に拡大する方針です。中国のデフレ環境下でも、品質と価格のバランスに優れた日本式回転寿司は強い集客力を発揮しています。
くら寿司の再挑戦とDX戦略
くら寿司は一度中国市場から撤退した経験を持ちますが、2023年に台湾・高雄に「グローバル旗艦店」を開設し、再挑戦の姿勢を明確にしました。同社はテクノロジー開発部を新設し、AI活用による省人化と顧客体験の向上を推進しています。
回転寿司業界全体でもDX化が加速しています。AIによる需要予測で食品ロスを削減し、画像認識技術による自動会計でオペレーションを効率化するなど、テクノロジーの活用が競争力の源泉になりつつあります。石野製作所が手がける「特急レーン」も、注文品をスピーディに届けるシステムとして国内外で需要が拡大しています。
注意点・展望
リスク要因にも目配りが必要
中国市場への進出には、地政学リスクや日中関係の不安定さといった懸念も付きまといます。2023年の福島第一原発の処理水放出問題では、中国で日本産水産物の輸入規制が強化され、回転寿司チェーンにも影響が出ました。今後も外交関係の変動によるリスクは無視できません。
また、中国国内では地場の回転寿司チェーンも台頭しており、価格競争の激化が予想されます。デフレ環境下での消費者の価格感度の高まりは、日本企業にとって諸刃の剣となりえます。
今後の見通し
外食産業全体の見通しとしては、2026年以降も緩やかな成長が続くと予想されます。ただし、国内市場は成熟しつつあり、伸び率の鈍化は避けられません。回転寿司チェーン各社にとって、海外市場の開拓とテクノロジーを活用した収益性向上が成長戦略の両輪となるでしょう。
石野製作所のようなコンベヤーメーカーへの受注動向は、この業界の未来を占う重要なバロメーターです。アジア圏からの大型受注が続けば、回転寿司の国際的な広がりがさらに加速することを示唆しています。
まとめ
回転寿司コンベヤーメーカーの動向は、外食産業の景気を映す鏡のような存在です。国内市場はコロナ禍からの回復を果たし、2026年にはコロナ前水準を上回ると見込まれます。
中国のデフレは一見するとリスク要因ですが、食材コストの低下や現地での「お値打ち高品質」ニーズの高まりなど、日本の回転寿司チェーンには追い風となる側面もあります。スシローの積極的な海外展開やくら寿司のDX戦略が示すように、テクノロジーとグローバル化の両面から成長機会を掴む動きが加速しています。回転寿司というユニークな食文化が、世界の景気変動の中でどのように進化していくか、今後も注目に値します。
参考資料:
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