キリン「本麒麟」がビールに格上げ:酒税改正で変わる市場
はじめに
キリンビールは2026年1月15日、第三のビール「本麒麟」を2026年下期にビールに格上げすると発表しました。10月に控える酒税改正でビール系飲料の税率が一本化され、第三のビールの価格優位性が縮小することへの対応です。
先に同様の方針を発表したサントリー「金麦」に続く動きで、ビール業界は大きな転換点を迎えています。価格ではなく品質で勝負する時代へと移行する中、各社の戦略と消費者へのメリットを解説します。
2026年10月の酒税改正とは
段階的な税率一本化の完了
2026年10月1日、ビール系飲料の酒税が1キロリットルあたり15.5万円(350ミリリットル換算で54.25円)に完全統一されます。これは2020年10月から3段階で実施されてきた税率一本化の最終段階です。
現在の税率は、ビールが350ミリリットルあたり63.35円、発泡酒が46.99円、第三のビール(新ジャンル)は更に低く設定されています。改正後はすべて54.25円となるため、ビールは約9円の減税、第三のビールは約7円の増税となります。
価格差縮小の影響
この改正により、ビールと第三のビールの店頭価格差は現在の40〜50円程度から25〜35円程度に縮小する見通しです。これまで「安いから」という理由で第三のビールを選んでいた消費者にとって、価格差が縮まればビールを選ぶハードルが下がります。
改正の背景には「類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する」という考え方があります。税制が市場を歪めている状況を是正し、純粋な品質競争を促す狙いがあります。
キリン「本麒麟」のビール化戦略
麦芽比率引き上げで品質向上
本麒麟は現在、麦芽使用比率が50%未満の「新ジャンル」に分類されています。ビール化にあたり、麦芽比率を50%以上に引き上げ、これまで使用していた麦由来の蒸留酒も取りやめます。
キリンビールの堀口英樹社長は「ビール製法化でうまさを向上し、ブランド価値を高める」と説明しています。ビール製法に切り替えることで、麦のうまみやホップの爽やかな香りをより引き出し、満足感を高める狙いです。
価格は「第三」水準を維持
注目すべきは価格戦略です。キリンは具体的な価格を検討中としながらも、増税分を転嫁する程度にとどめ、新ジャンルと同等の価格帯を維持する方針を示しています。
現在、本麒麟のコンビニエンスストアでの想定販売価格は350ミリリットル缶で198円。増税分を単純に足すと205円前後となり、これは2026年酒税改正後の他ブランドの第三のビールとほぼ同じ水準です。
つまり消費者にとっては、同じ価格帯でありながら、品質がビール水準に向上するというメリットがあります。
サントリー「金麦」との競争激化
金麦が先行発表
サントリーは2025年9月にすでに「金麦」シリーズのビール化を発表していました。金麦本体だけでなく「金麦〈糖質75%オフ〉」もビール化され、価格は第三のビールと同じ「エコノミー価格帯」を維持する方針です。
金麦は第三のビール市場で圧倒的なシェアを持つブランドです。2024年の販売数量は3,041万箱で、キリンの本麒麟(1,360万箱)やアサヒのクリアアサヒ(1,246万箱)を大きく引き離しています。
サントリーの多田寅常務執行役員は「エコノミー市場の活性化は、ビール会社の重要な役割だと思っている」と語っており、低価格でビールの品質を提供することで市場拡大を狙っています。
ビール市場の序列に異変も
金麦のビール化により、サントリーはビール市場でのシェアを大きく伸ばす可能性があります。現在、ビール市場のシェアはアサヒ、キリン、サッポロに次ぐ4位ですが、金麦がビールに加わることで2位に浮上する見方もあります。
キリンが本麒麟のビール化で対抗したのは、サントリーに市場を奪われるリスクへの危機感の表れともいえます。各社の戦略がぶつかり合い、「ビール戦争」が再燃する様相を呈しています。
消費者へのメリットと注意点
メリット:同価格で品質向上
今回の動きは消費者にとって朗報です。これまで価格を理由に第三のビールを選んでいた人も、同程度の価格でビール品質の商品を楽しめるようになります。
ビール製法で作られることで、麦の風味やコク、ホップの香りがより豊かになります。「安いから我慢する」のではなく、「お手頃価格で本格的な味わい」を楽しめる選択肢が広がります。
注意点:チューハイ等は増税
一方で、2026年10月の酒税改正ではチューハイ等の「その他の発泡性酒類」は350ミリリットル換算で35円に引き上げられます。ビール系飲料を飲まない層にとっては、増税の影響を受ける可能性があります。
また、すべての第三のビールがビール化するわけではありません。メーカーや商品によって対応は異なるため、お気に入りのブランドがどうなるかは個別に確認が必要です。
業界への影響と今後の展望
品質競争時代の到来
酒税一本化により、低価格帯の発泡酒や第三のビールは従来の価格優位性を失います。メーカーは価格ではなく、味や原料配合の見直し、パッケージ戦略などで差別化を図る必要があります。
この変化は、ビール業界全体の品質向上を促す効果があります。消費者は価格だけでなく、純粋に味や好みで商品を選べるようになり、市場の健全な競争が期待できます。
各社の動向
キリン、サントリーに続き、アサヒビールやサッポロビールも対応を迫られています。各社がどのような戦略を打ち出すか、今後の発表に注目が集まります。
特に、現在第三のビールで一定のシェアを持つブランドがどうなるかは、消費者の関心事です。「クリアアサヒ」や「麦とホップ」などの主力商品の動向が気になるところです。
クラフトビールへの影響
酒税一本化は、クラフトビール市場にも影響を与える可能性があります。ビールの税率が下がることで、高価格帯のクラフトビールと大手のビールとの価格差が縮小し、消費者の選択肢が広がります。
一方で、低価格ビールの品質が向上すれば、価格に見合う付加価値を提供できないクラフトビールは苦戦を強いられる可能性もあります。
まとめ
キリン「本麒麟」のビール格上げは、2026年10月の酒税改正を見据えた戦略的な対応です。サントリー「金麦」と同様に、第三のビールの価格帯を維持しながらビール品質を提供することで、節約志向の消費者を取り込む狙いがあります。
消費者にとっては、同じ予算でより品質の高いビールを楽しめるようになるメリットがあります。長年続いた「税制による価格競争」から「純粋な品質競争」への移行は、市場の健全化という点でも意義があります。
酒税一本化により、ビール業界の勢力図は大きく変わる可能性があります。各社の戦略がぶつかり合う2026年下期、ビール市場から目が離せません。
参考資料:
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