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by nicoxz

コマツ・日立建機が関税停止後も値上げ継続する理由

by nicoxz
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はじめに

2026年2月、米連邦最高裁がトランプ政権の相互関税を違憲と判断し、各国向けの上乗せ関税が停止されました。日本に課されていた15%の相互関税も撤廃され、輸出企業にとっては一見追い風となる判決です。しかし、北米市場を主戦場とするコマツや日立建機などの建設機械大手は、関税停止後も値上げ方針を維持する姿勢を明確にしています。

ラスベガスで2026年3月3日から7日まで開催された北米最大の建機展示会「CONEXPO-CON/AGG 2026」の場で、各社幹部がこの方針を表明しました。14万人以上が来場した同展示会は、建設業界の活況を象徴するイベントとなっています。なぜ関税が軽減されても値上げを続けるのか、その背景と戦略を解説します。

相互関税の違憲判決と残る一律関税の影響

最高裁判決の概要

米連邦最高裁は2026年2月20日、9人の判事のうち6人の多数意見により、トランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に課した相互関税を憲法違反と判断しました。IEEPAは本来、関税や税に関する権限を大統領に付与するものではないという判断です。

この判決を受け、米税関・国境警備局は2月24日付で相互関税の徴収を停止しました。日本向けの15%の相互関税も撤廃されています。

残存する10%の一律関税

ただし、相互関税が停止されたことで関税負担がゼロになったわけではありません。トランプ政権は通商法122条を根拠に、世界一律10%の関税を新たに発動しています。建機メーカーにとっては、依然として輸入コストの上昇要因が残っている状況です。

コマツの場合、米国で販売する機械の約50%を日本や中国の工場で製造しており、完成品や部品の輸入比率が高い構造です。10%の関税だけでも、年間の利益に数百億円規模の影響を及ぼします。

建機大手が値上げを継続する3つの理由

北米の建設需要が極めて旺盛

値上げ継続の最大の背景は、北米における建設需要の強さです。米国では超党派インフラ投資法(IIJA)による1.2兆ドル規模のインフラ投資が進行中で、道路・橋梁に1,100億ドル、公共交通に390億ドル、鉄道に660億ドルが配分されています。

さらに、半導体やEV関連の製造拠点を国内に回帰させる「オンショアリング」の動きも加速しており、工場建設ラッシュが建機需要を押し上げています。米国の商業建設市場は2024年の約1,713億ドルから2029年には2,035億ドルに成長する見通しです。

CONEXPO-CON/AGG 2026には128カ国から14万人以上が来場し、2,000社以上が出展しました。この盛況ぶりは、建機業界が値上げをしても需要が維持されるという自信の裏付けとなっています。

コスト構造の根本的な問題

建機メーカーが値上げを維持するもう一つの理由は、コスト構造にあります。コマツは2026年3月期の連結業績見通しにおいて、米関税の影響額を943億円と試算しています。内訳は関税によるコスト増785億円と需要減少による利益悪化158億円です。

関税の一部が撤廃されても、鋼材価格の高止まりや物流コストの上昇、さらにサプライチェーン再構築のための投資コストが重なっています。一度引き上げた価格を元に戻せば、こうした構造的コスト増を吸収できなくなるリスクがあります。

日立建機も関税による原価増を約300億円と見込んでおり、販売価格の引き上げで一定程度吸収する計画です。同社は価格転嫁により40億円の増益効果を見込んでいます。

業界全体の価格規律

建機業界では、コマツ、日立建機、キャタピラーなど主要メーカーが軒並み値上げの方針を示しています。業界全体が足並みを揃えて価格改定に動いているため、個社だけが値下げに転じる合理性は低い状況です。

コマツは北米で約4%の価格引き上げを計画しており、北米売上高が全体の25%を占める同社にとって、収益改善の重要な施策です。各社とも5カ月分程度の在庫を抱えながら段階的に新価格を浸透させる戦略をとっています。

各社の具体的な対応策

コマツの多角的アプローチ

コマツは値上げに加え、サプライチェーンの再編にも着手しています。米国を経由せずカナダに直接輸送するルートを開拓し、高関税を回避する動きを見せています。米国内で一時保管していた部品を、カナダや中南米に直送する体制も検討中です。

これらの対策により、関税コストの損益影響額は当初見通しの785億円から550億円に改善する見通しです。値上げとサプライチェーン最適化の両面で収益を守る姿勢が鮮明です。

日立建機の選択と集中

日立建機は2026年3月期の売上高と営業利益の見通しをそれぞれ5.5%、14.1%下方修正しましたが、値上げによる収益改善を織り込んでいます。CONEXPO-CON/AGG 2026では電動ショベルなど次世代機の展示にも力を入れ、付加価値の高い製品で価格競争力を維持する戦略を示しました。

クボタの北米生産拠点の活用

クボタは小型建機に特化した北米戦略を展開しており、カンザス州の新工場を軸に開発・生産・販売の一体体制を構築しています。現地生産比率を高めることで関税の影響を軽減しつつ、旺盛な小型建機需要を取り込む方針です。

注意点・今後の展望

エンドユーザーへの影響

建機の値上げは最終的に建設コストの上昇として工事発注者に転嫁されます。インフラ投資の予算が固定されている場合、コスト上昇分だけ工事の規模や件数が縮小するリスクがあります。ただし、現時点では米国の建設需要は供給を大幅に上回っており、値上げが需要を大きく減退させる兆候は見られません。

関税政策の不透明感

最高裁判決により相互関税は停止されましたが、トランプ政権は新たな法的根拠を模索する可能性があります。関税を巡る法的・政治的な不確実性が続く中、建機メーカーにとっては値上げを維持しつつ柔軟に対応できる体制を整えておくことが合理的な判断です。

徴収済みの関税約1,330億ドル(約21兆円)の還付問題も残されており、還付が実現すれば企業の財務状況に好影響をもたらす可能性があります。

為替リスク

円高が進行した場合、日本メーカーの北米での価格競争力が低下するリスクもあります。関税だけでなく、為替動向も含めた総合的な価格戦略が問われる局面です。

まとめ

コマツや日立建機が相互関税の停止後も値上げを継続する背景には、10%の一律関税の残存、原材料・物流コストの高止まり、そして何より北米の旺盛な建設需要があります。インフラ投資法による大規模な公共工事やオンショアリングによる民間投資が建機需要を下支えしており、値上げをしても受注が落ちにくい市場環境が続いています。

投資家や建設関係者にとっては、今後の関税政策の動向に加え、各社の現地生産比率の引き上げやサプライチェーン再編の進捗が注目ポイントとなります。建機業界は「値上げできる力」を持つ数少ないセクターとして、引き続き市場の関心を集めることになるでしょう。

参考資料:

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