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by nicoxz

メガバンク政策保有株1兆円削減へ、最後に残る岩盤の正体は何か

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はじめに

3メガバンクによる政策保有株の圧縮が、次のガバナンス改革の焦点になっています。銀行が取引先株を持つ慣行は、日本企業の安定株主構造を支えてきましたが、いまは資本効率を下げ、経営の規律を弱めるとの見方が強まっています。売却で得た資金を成長投資や株主還元に振り向ける流れは、保険会社だけでなく銀行にも本格的に波及しています。

ただし、話は単純ではありません。売りやすい銘柄はすでにかなり処分され、残るのは関係性が濃く、相手企業の側にも「安定株主でいてほしい」理由がある株式です。この記事では、3行の公開目標を基に今後3年程度でなぜ1兆円規模の削減が視野に入るのか、そして最後に売却が難しくなる企業群はどこなのかを読み解きます。

1兆円規模が射程に入る売却計画

各行の公開目標と進捗

まず公開資料を並べると、圧縮ペースはかなり明確です。MUFGは2025年6月時点で、2024年度に戦略保有株を2760億円売却し、2024年度から2026年度までの3年間で7000億円を売却する目標を掲げています。2025年3月末時点で市場価値ベースの保有残高は純資産比20.1%で、20%未満への引き下げを現在の中期計画期間中に前倒ししました。

みずほFGは、2015年度初めに約2兆円あった政策保有株の簿価を、2024年度末時点で約0.8兆円まで減らしたうえで、2025年度からの3年間でさらに3500億円以上を削減する新計画を示しています。加えて、みなし保有株も同じ3年間で2000億円削減し、時価ベースで純資産比20%未満を目指す方針です。

SMFGは、2024年3月末からの5年間で6000億円を削減する計画を掲げ、2024年度だけで2490億円を減らしました。2025年3月末時点の国内上場株の保有銘柄数も858銘柄から777銘柄へ減っています。公開目標の期間は各行で完全には一致しませんが、MUFGの残目標、みずほの新計画、SMFGの残余計画を機械的に重ねると、向こう3年程度で1兆円規模の圧縮が視野に入るという見立てには十分な整合性があります。

ガバナンス改革と資本効率の圧力

なぜここまで売却が進むのか。背景には、金融庁と東京証券取引所が進めてきたガバナンス改革があります。金融庁は2025年6月時点でも、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの改訂を含む改革を継続すると明示しています。

政策保有株に対する見方も変わりました。T. Rowe Priceは、こうした持ち合いが資本効率を損ねるだけでなく、「友好的な戦略株主」が経営陣を少数株主の声から遠ざけると指摘しています。RIETIの研究でも、2015年のコーポレートガバナンス・コード導入後に持ち合い解消が不連続に増えたことが示されました。銀行にとっても、他社株を抱えることは価格変動リスクを持ち込むため、ROEやCET1比率を意識する現在の経営では、以前より説明しにくい資産になっています。

なぜ最後の売却が難しいのか

残った株ほど関係が濃い現実

政策保有株は、減れば減るほど売却難易度が上がります。みずほは2025年の開示で、2024年3月末時点の国内上場株のうち、約30%が継続保有基準を満たしていなかったと説明しました。それでも一気に処分せず、取引先との対話を通じて着実に減らす方針を取っています。SMFGも2025年度の検証で、国内上場株の簿価ベース16.2%について「保有合理性がない」と判断しつつ、売却同意の取得や対話を前提に計画的削減を進めています。

この点は重要です。合理性が薄いと判断されても、すぐ市場で売れない銘柄が相当あるという意味だからです。銀行にとっては融資、社債、M&A助言、事業承継、オーナー支援など複数の取引が重なります。取引先から見れば、銀行が株主であること自体が「関係の深さ」のシグナルとして機能してきました。だから残存分ほど、単なる投資資産ではなく関係資産の色彩が強くなります。

岩盤になりやすい創業家企業と親密先

ここで岩盤になりやすいのが、安定株主を重視する企業群です。これは公開資料からの推測を含みますが、創業家の影響力が強い企業や、取引金融機関との長期関係を経営安定の一部とみなす企業ほど、銀行株主の退出を急がない傾向が強いと考えられます。T. Rowe Priceが指摘する「友好的な戦略株主」の機能は、まさにこうした企業で大きいからです。

実際、ロイターは2022年、なお日本株市場の3分の1近くを企業持ち合い株主が保有していると伝えました。大口売却は株価への悪影響を避けにくく、野村が持ち合い解消支援の信託サービスを立ち上げたのも、その需給ショックを和らげるためです。売却が難しいのは、銀行がためらうからだけでなく、相手企業側も株主構成の変化を警戒するからです。

売却資金の使い道と市場への影響

成長投資より株主還元に向かいやすい資金

売却で得た資金はどこへ向かうのか。建前としては成長投資や資本効率改善ですが、RIETIの研究では、日本企業全体では持ち合い解消で得た資金が設備投資や研究開発より、自社株買いに使われる傾向が強いと示されています。銀行も例外ではありません。保有株圧縮は、株価変動リスクの圧縮と自己資本の有効活用に直結するため、株主還元と相性が良いからです。

ただし銀行の場合、単純な自社株買いだけでは終わりません。金利正常化局面では、法人金融、資産運用、海外業務など収益性の高い分野に資本を再配分する意味も大きくなります。みずほがRORA改善と政策保有株削減を同じ文脈で語っているのは、その象徴です。

需給ショックと対話の綱引き

もっとも、売却が正しいからといって短期間に進めればよいわけではありません。大口放出は株価に下押し圧力をかけますし、相手企業の資本政策とも衝突します。トヨタのような大型案件では、自社株買いと組み合わせて消化する方法が注目されたのもそのためです。

今後は、銀行が市場で一方的に売るのではなく、発行会社の自己株取得、オフフロア取引、信託スキームなどを組み合わせながら減らすケースが増えるでしょう。売却交渉は、ガバナンス改革と資本市場実務が交差する領域になっています。

注意点・展望

注意したいのは、政策保有株を減らせば必ず企業価値が上がるわけではない点です。RIETIは、持ち合い解消後の企業業績改善について明確な証拠はないとしています。要するに、売却は必要条件であって十分条件ではありません。資金を何に振り向けるのか、取締役会がどう監督するのかまで伴わなければ、単なる資産入れ替えで終わります。

それでも方向感は明確です。金融庁の改革継続、機関投資家の要求、銀行自身の資本効率志向が重なり、政策保有株は「持つ理由を説明できるか」ではなく、「いつ、どう減らすか」を問われる段階に入りました。今後の焦点は、売却額そのものより、残った岩盤銘柄をどの順番と手法で崩していくかに移ります。

まとめ

3メガバンクの政策保有株圧縮は、単なる株売却ではありません。資本効率、ガバナンス改革、株主構成の組み替えを同時に進める、日本企業改革の中核テーマです。公開計画をみる限り、向こう3年程度で1兆円規模の圧縮が視野に入るという見方には十分な根拠があります。

ただし本当に難しいのは、最後に残る株です。銀行と企業の関係が深く、安定株主ニーズが強いほど売却は難しくなります。創業家色の強い企業や親密先が「岩盤」になりやすいのはそのためです。今後は、売却額の大きさだけでなく、売却後に資本をどう使い、どんな株主構成へ移るのかが問われます。

参考資料:

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