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by nicoxz

メタウォーターとNTTがAIで水道点検を自動化へ

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はじめに

日本の上下水道インフラは、高度経済成長期に整備されたものが多く、老朽化と人手不足という二つの深刻な課題に直面しています。こうした状況のなか、水処理専業で国内最大手のメタウォーター株式会社がNTTグループと手を組み、生成AI(人工知能)やIoTセンサーを活用した上下水道施設の保守点検自動化に本格的に取り組んでいます。将来的には点検業務にかかる時間を約6割削減できる見通しで、2026年4月をめどに実証の範囲をさらに広げる計画です。本記事では、この取り組みの背景にある課題、具体的な技術の仕組み、そして今後の展望について詳しく解説します。

深刻化する水道インフラの老朽化と人手不足

耐用年数を超えた水道管が全国に拡大

日本全国に敷設された水道管の総延長は約74万kmにおよびます。水道管の法定耐用年数は40年とされていますが、2022年時点で耐用年数を超えた水道管は約17.6万kmに達し、管路経年化率は約23.6%となっています。同年に更新された水道管はわずか約4,800kmで、更新率は0.64%にとどまりました。このペースが続けば、今後20年で経年化率は約69%にまで上昇するという試算もあります。

老朽化した水道管は漏水や破損のリスクが高く、実際に年間2万件以上の漏水・破損事故が全国で発生しています。更新には莫大な費用がかかるため、とりわけ小規模な自治体では計画的な更新が進みにくい状況にあります。

技術職員の大幅な減少

インフラの老朽化に追い打ちをかけているのが、現場を支える技術職員の不足です。水道事業に携わる職員数は、団塊世代の退職などにより30年前と比べて約3割減少しました。2022年度までの15年間だけを見ても、上水道の技術職員は6%、下水道の職員にいたっては25%以上も減っています。

下水道事業の職員数は、ピーク時の1997年度には約4.4万人いましたが、2023年度には約2.7万人にまで落ち込みました。1事業あたりの平均職員数も10.5人から7.4人へと約3割減少しています。給水人口5万人未満の上水道事業では、技術職がわずか4人未満という事業体も珍しくありません。処理区域内人口3万人未満の下水道事業では、担当者が1人しかいないケースも存在します。

こうした深刻な人手不足のなか、限られた人員で広大なインフラの保守点検を効率的に行う手段として、AIやIoT技術への期待が急速に高まっています。

メタウォーターとNTTグループの実証プロジェクト

プロジェクトの全体像

メタウォーター、NTT、NTT東日本、NTT-MEの4社は2025年9月30日、IoTとAIを活用した上下水道施設の保守点検業務自動化に向けた共同実証実験の開始を発表しました。実証の舞台は、栃木県宇都宮市にある清原水再生センターです。期間は2025年10月1日から2027年3月までを予定しています。

メタウォーターグループは宇都宮市から「清原水再生センターほか2か所包括的維持管理業務委託契約」(2024年4月〜2029年3月)を受託しており、この受託業務の品質向上と業務改善を目的として実証実験が行われています。現場作業員が日常的に行っている機器や設備の目視確認、異常判断、記録といった一連の保守点検業務を、通信ネットワークとAI技術によって人手を介さずに実現するソリューションの開発と検証が進められています。

活用する技術の仕組み

この実証実験で鍵となる技術は、大きく三つあります。

第一に、**IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)**を活用した場内ネットワークの構築です。Wi-Fi HaLowは920MHz帯を利用するIoT向けの新しいWi-Fi規格で、最大約1kmの長距離通信が可能です。従来のWi-Fiと比べて省電力で広範囲をカバーできるため、広大な水処理施設内にセンサーやカメラを効率よく配置できます。NTTグループがこのネットワーク基盤の構築を担当しています。

第二に、ネットワークカメラとIoTセンサーによるセンシングです。施設内の各所に設置されたカメラやセンサーが、画像・音声・振動・温度などのデータをリアルタイムで収集します。従来は作業員が現場を巡回して目視や聴音で確認していた作業を、機械が24時間体制で代替します。

第三に、生成AIによるデータ分析と異常検知です。収集された画像や音声などのデータを生成AIが分析し、設備の正常・異常を自動で判定します。AIが異常を検知した場合は、現場作業員へ即座に警報が発報されます。

オペレーションサポートセンターとの連携

異常検知時には、メタウォーター独自の**オペレーションサポートセンター(OSC)**にも同時に通知が届きます。OSCは名古屋事業所内に設置された遠隔監視拠点で、ベテランスタッフが24時間体制で受託プラントの運転状況を一元的に監視しています。AIからの通知を受けたベテランスタッフが、現場作業員に対して必要な助言や対応指示を行うことで、プラントの安定運転を支えます。

また、メタウォーターが独自に開発した水・環境事業向けクラウドプラットフォーム**「WBC(ウォータービジネスクラウド)」**もこの仕組みの中核を担います。WBCは施設の運転データ、機器台帳、点検履歴、画像・音声記録などを一元的に収集・蓄積・活用できるクラウド基盤です。PCやタブレット、スマートフォンから「いつでも・どこでも・誰でも」施設の状況を確認できる仕組みを実現しています。

注意点と今後の展望

この取り組みには大きな期待が寄せられる一方で、いくつかの課題も指摘されています。まず、AIによる異常検知の精度をどこまで高められるかという技術的な課題です。水処理施設は季節や気象条件によって運転状況が変動するため、誤検知を減らしつつ見逃しを防ぐ精度の両立が求められます。

また、全国の上下水道事業体は約1,800あり、その多くが中小規模の自治体です。導入コストの面から、こうした小規模事業体への展開をどう進めるかも重要な論点です。WBCのようなクラウド型サービスであれば、自前のシステム構築が不要なため導入ハードルは下がりますが、運用を担う人材の確保と教育も欠かせません。

他の企業も水道インフラへのAI活用を進めています。日立システムズは2025年5月に「CYDEEN 水インフラ監視サービス」のオプションとして「AI異常検知サービス」の提供を開始しました。センサーが取得した水圧や流量のIoTデータをAIで分析し、正常時の基準値からの逸脱を検知する仕組みです。神戸市水道局との共同研究を経て実用化されたもので、業界全体としてAI活用の動きが加速していることがわかります。

メタウォーターとNTTグループの実証実験は2027年3月まで続く予定で、成果を踏まえて全国の受託施設への本格展開が視野に入っています。点検業務時間の約6割削減が実現すれば、限られた人員をより高度な判断業務や緊急対応に振り向けることが可能になり、水道事業の持続可能性を大きく高めることが期待されます。

まとめ

メタウォーターとNTTグループによる上下水道施設の保守点検自動化プロジェクトは、老朽化と人手不足という日本の水道インフラが抱える構造的な課題に、生成AIとIoT技術で正面から挑む取り組みです。Wi-Fi HaLowによる広域ネットワーク、ネットワークカメラ・IoTセンサーによるリアルタイム監視、生成AIによる異常検知、そしてベテランスタッフによる遠隔サポートを組み合わせた仕組みは、水道事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の一つのモデルケースとなりえます。宇都宮市での実証成果が、全国の水道事業体にとっての指針となるか、今後の進展に注目が集まります。

参考資料

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