三菱商事がDKSHと提携、東南アジアで日本食品販路を拡大
はじめに
三菱商事がスイスの市場拡大サービス大手DKSHと業務提携し、東南アジアでの日本食品の販売を本格化させる動きが注目を集めています。DKSHはアジアを中心に36カ国で事業を展開し、東南アジア6カ国で数十万の小売店舗に商品を届ける流通網を持つグローバル企業です。
訪日外国人旅行者の急増を背景に、帰国後も日本の味を求める「帰国後需要」が拡大しています。この提携は、日本の食品メーカーが東南アジア市場へ本格参入するための重要な足がかりとなる可能性があります。本記事では、提携の狙いと東南アジアにおける日本食品市場の動向を解説します。
DKSHとの提携が意味するもの
アジア最大級の流通網を活用
DKSHはスイス・チューリッヒに本社を置く市場拡大サービス企業で、世界36カ国に780以上の拠点を構えています。2024年度の売上高は約111億スイスフランに達し、消費財部門だけで約34億スイスフランを計上しました。東南アジアでは82カ所の物流センターを運営し、大手小売チェーンから個人商店まで幅広い販路を持っています。
ネスレやペプシコといったグローバルブランドの流通を担ってきた実績があり、三菱商事はこのネットワークを通じて日本食品を東南アジア全域に届ける体制を構築する狙いがあるとみられます。
三菱商事グループの食品戦略と連動
三菱商事は食品産業グループを通じてアジア各国で幅広い食品事業を展開しています。2025年には傘下の三菱食品に対しTOBを実施し、完全子会社化を進めました。三菱食品は「Made in Japan / Made by Japan」をコンセプトに、日本の食文化の輸出拡大を掲げて海外事業開発に取り組んでいます。
三菱商事のグローバルネットワークと三菱食品の国内食品流通の知見、そしてDKSHの東南アジアにおける現地流通網を組み合わせることで、日本の食品メーカーにとって輸出から現地販売までをワンストップで担える体制が整うことになります。
「帰国後需要」と東南アジア市場の急拡大
訪日外国人の急増が生む新たな需要
東南アジアからの訪日旅行者数は近年急増しています。ジェトロの調査によると、2024年のASEAN主要6カ国からの訪日客数は合計約430万人と過去最高を記録しました。タイからは約115万人が訪日し、コロナ禍以降初めて100万人を突破しています。2025年にはASEAN6カ国合計で約480万人に達し、前年比11.5%増とさらに拡大しました。
訪日中に日本の食品を体験した旅行者が、帰国後もその味を求めるという「帰国後需要」は、食品輸出を後押しする大きな要因となっています。農林水産省も「食かけるプロジェクト」を通じて、訪日客が帰国後も日本の食を再体験できる環境整備を推進しています。
東南アジアで広がる日本食文化
東南アジアにおける日本食レストランの増加も、日本食品への関心の高まりを裏付けています。農林水産省の調査では、海外の日本食レストラン数は2025年時点で約18万1,000店に達しました。東南アジアではインドネシアで2年間に約2,580店が増加し約6,580店に、タイでは2024年時点で5,916店舗と前年比2.9%の増加を記録しています。
レストランでの外食にとどまらず、家庭での日本食材の使用も広がりを見せています。日本食の認知度が高まるにつれて、現地スーパーや小売店での日本食品の需要も拡大しており、DKSHの持つ末端小売店舗までの流通網が大きな意味を持つことになります。
日本の食品輸出をめぐる追い風
輸出額は過去最高を更新
日本の農林水産物・食品の輸出額は拡大基調にあります。農林水産省の発表によると、2024年の輸出額は1兆5,073億円となり、初めて1.5兆円を超えて過去最高を更新しました。前年比3.7%増で、農産物は9,818億円(前年比8.4%増)と好調でした。
輸出先では米国が2,429億円で首位となり、香港、台湾が続きました。中国向けはALPS処理水問題の影響で減少した一方、東南アジア向けは堅調に推移しています。政府は2025年に2兆円、2030年に5兆円という輸出目標を掲げており、東南アジアは成長市場として位置づけられています。
総合商社の食品輸出参入が加速
三菱商事に限らず、大手総合商社による食品輸出への取り組みは加速しています。東南アジア市場は中間層の拡大が続き、地理的に日本に近く輸送コストが抑えられるため、食品メーカーにとって最も参入しやすい海外市場の一つとされています。
特に日本産の加工食品や菓子類、調味料などは、品質の高さと安全性で高い評価を受けています。三菱商事がDKSHとの提携で構築する流通基盤は、中小の食品メーカーにとっても海外販路を開く機会になる可能性があります。
注意点・展望
課題となる価格競争力と現地適応
東南アジア市場では、日本食品の高品質さが評価される一方で、現地の所得水準との価格差が課題となります。タイやベトナムでは中間層が拡大しているとはいえ、日本の小売価格そのままでは購買層が限られます。現地の嗜好に合わせたパッケージサイズの変更や価格帯の調整が必要になるでしょう。
また、東南アジア各国はそれぞれ異なる食品規制や表示基準を設けています。国ごとの規制対応が求められるため、DKSHのような現地に精通したパートナーの存在が重要になります。
今後の見通し
訪日外国人旅行者数は2025年に約4,268万人に達し、過去最高を更新しました。東南アジアからの訪日客は増加傾向が続いており、帰国後需要のさらなる拡大が見込まれます。三菱商事とDKSHの提携は、こうした需要を取り込む先行的な動きとして、他の商社や食品メーカーの東南アジア戦略にも影響を与える可能性があります。
まとめ
三菱商事とスイスDKSHの業務提携は、東南アジアにおける日本食品市場の開拓に向けた大きな一歩といえます。DKSHが持つ東南アジア全域の流通網と、三菱商事グループの食品事業基盤を組み合わせることで、日本の食品メーカーにとって海外展開の障壁が大きく下がることが期待されます。
訪日外国人の増加による「帰国後需要」と、現地の日本食文化の浸透という二つの追い風を受けて、東南アジアは日本食品輸出の次なる成長市場として注目度が高まっています。食品輸出額が過去最高を更新し続ける中、こうした戦略的提携の動向には今後も注視が必要です。
参考資料:
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