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by nicoxz

村木厚子が語るリーダー像「第3の道」とは

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はじめに

2026年3月、日本経済新聞の人気連載「私の履歴書」に元厚生労働事務次官・村木厚子氏が登場し、大きな反響を呼んでいます。第22回では、若手時代に先輩から問われた「どんなリーダーになるか」という問いと、その後に模索した「第3の道」について語られています。

「強いリーダー」か「温かいリーダー」か——管理職のあり方が二項対立で語られがちな日本の組織において、村木氏が実践してきた「人に聞けるリーダー」という選択肢は、多くのビジネスパーソンにとって示唆に富む内容です。本記事では、村木氏のキャリアを振り返りながら、現代に求められるリーダーシップの新しい形を考えます。

村木厚子氏のキャリアと2人の先輩リーダー

霞が関で女性初の事務次官・松原亘子氏

村木氏が30歳頃、2期上の先輩・北井久美子氏から「松原亘子タイプか、佐藤ギン子タイプか」と問われたエピソードが語られています。松原亘子氏は、1997年に霞が関で女性初の事務次官に就任した人物です。男女雇用機会均等法の制定に深く関わり、育児休業法や介護休業法の整備にも尽力しました。

松原氏のリーダーシップは、切れ味鋭い頭脳と強い意志で組織を引っ張る「強さで道を切り開く」タイプです。部下の前では常に堂々とした姿勢を崩さず、当時の男性中心の官僚組織で結果を出し続けました。退官後はイタリア大使も務め、国際舞台でも活躍した人物です。

もうひとつのリーダー像・佐藤ギン子氏

一方の佐藤ギン子氏は、労働省で婦人局長を務めた後、駐ケニア大使や証券取引等監視委員会委員長などの要職を歴任しました。松原氏とは異なる持ち味で組織をまとめる手腕を発揮したとされています。

この2人の先輩女性リーダーは、それぞれ異なるスタイルで霞が関を生き抜きました。しかし村木氏は、どちらにも当てはまらない「第3の道」を模索することになります。

「人に聞ける力」が生む新しいリーダーシップ

完璧でなくていいという発見

村木氏が見出した「第3の道」とは、「人に聞けるリーダー」です。自分がすべてを知っている必要はなく、周囲の知見を引き出しながら最適な判断を下すスタイルです。村木氏自身、「立場は上だけど、周囲に教えてもらいながら一緒に考える」というアプローチを取ってきたと語っています。

「人に聞ける」ということは、一見弱さのように思えます。しかし村木氏は、リーダーの本質的な仕事は「決断し、責任を取ること」であり、良い決断をするためにはむしろ積極的に情報を集め、人の話に耳を傾けることが不可欠だと考えました。

この発見は、村木氏自身にとっても大きな解放だったようです。「人に聞けると自分も楽になる」という言葉には、完璧主義から脱却し、チームの力を信頼することで生まれる心理的な余裕が表れています。

調整型リーダーの真価

村木氏は官僚としてのキャリアを通じ、「低姿勢で物腰柔らかく、誰をも怒らせることなく物事を調整できる」人物として評価されてきました。敵を作らない調整型のスタイルは、複雑な利害関係が絡む政策立案の現場で大きな成果を上げました。

しかし、これは単なる「事なかれ主義」ではありません。ソフトな雰囲気の中にも確固たる信念を持ち、ブレない見識で組織を導く——この姿勢こそが、村木氏の「第3の道」の核心です。聞く力と決断力を両立させるリーダーシップは、多様性が求められる現代の組織において特に重要な意味を持ちます。

冤罪事件を乗り越えた信念の強さ

郵便不正事件と無罪判決

村木氏のキャリアを語る上で避けて通れないのが、2009年の郵便不正事件です。虚偽公文書作成・同行使の容疑で逮捕されましたが、2010年9月に大阪地裁で無罪判決が言い渡されました。この事件では検察による証拠改ざんも発覚し、日本の司法制度に大きな問題を投げかけました。

「あきらめない」姿勢で冤罪と闘い続けた村木氏の姿は、柔らかな物腰の裏にある芯の強さを示しています。無罪判決後は厚生労働省に復帰し、2013年には厚生労働事務次官に就任。女性としては松原亘子氏に続く2人目の事務次官となりました。

逆境がリーダーシップを磨いた

この経験を通じて、村木氏の「第3の道」はさらに深みを増したと考えられます。困難な状況においても周囲に助けを求め、支えてくれる人々の力を借りながら前に進む——この姿勢は、リーダーが一人で全てを背負う必要はないという信念をより強固なものにしたのではないでしょうか。

注意点・展望

2026年、女性管理職をめぐる転換点

村木氏の「第3の道」が注目される背景には、日本社会が直面する構造的な課題があります。2026年4月からは、従業員101人以上の企業に対して女性管理職比率の公表が義務化されます。これにより、企業は数値目標だけでなく、女性が管理職を目指しやすい環境づくりに本腰を入れる必要があります。

村木氏は「完璧な管理職は不要」と述べ、自分の強みを活かし、弱みは他者の助けを借りて補うスタイルであれば、より多くの人が管理職を目指しやすくなると提言しています。これは性別を問わず、すべてのリーダー候補にとって重要なメッセージです。

「強いリーダー」幻想からの脱却

従来の日本型組織では、リーダーとは「誰よりも長時間働き、すべてを把握し、強い言葉で指示を出す人」というイメージが根強くありました。しかし、多様な人材が活躍する時代には、メンバーの力を引き出す「聞くリーダーシップ」がより効果的です。村木氏が実践してきたスタイルは、まさにこの時代の要請に応えるものです。

まとめ

村木厚子氏が「私の履歴書」で語った「第3の道」は、「強さ」と「柔らかさ」の二項対立を超えた新しいリーダーシップの形です。人に聞くことを恐れず、チームの知恵を結集して決断する——このスタイルは、2026年の女性管理職比率公表義務化を控えた日本の組織にとって、大きなヒントとなるでしょう。

リーダーシップに悩む管理職やこれからリーダーを目指す方は、「完璧でなくても良い」「人に聞けることは強さである」という村木氏のメッセージを、ぜひ自分のマネジメントに取り入れてみてはいかがでしょうか。

参考資料:

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