ナミビアでレアアース埋蔵確認、日本の脱中国戦略
はじめに
日本政府がアフリカ南西部のナミビアでレアアース(希土類)の埋蔵を確認し、鉱山開発に乗り出すことを明らかにしました。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の現地調査により、電気自動車(EV)のモーターなどに使うジスプロシウムやテルビウムの十分な埋蔵量が確認されています。
レアアースは先端技術に不可欠な資源ですが、世界の生産量の約7割を中国が占めています。日本も2024年時点で63%を中国から調達しており、供給途絶のリスクは経済安全保障上の重大課題です。ナミビアでの鉱山開発は、2028年末までに一部レアアースの「中国依存度ゼロ」を目指す政府計画の中核をなす取り組みです。
ナミビア鉱山開発の詳細
JOGMECの現地調査と埋蔵確認
JOGMECは2020年頃からアフリカ南部ナミビアでの鉱山調査を進めてきました。数年にわたる地質調査の結果、レアアースの中でも特に希少性が高い「重希土類」に分類されるジスプロシウムとテルビウムの埋蔵が確認されました。
ジスプロシウムはEVモーターや風力発電機に使われる高性能磁石(ネオジム磁石)の耐熱性を高めるために不可欠な元素です。テルビウムも同様に磁石の性能向上に必要で、いずれも代替が困難な戦略的資源です。
JOGMECはナミビアのレアアース鉱床を対象にジョイントベンチャー(JV)調査を実施しており、外国企業と共同で鉱物資源の探査を進めてきました。今回の埋蔵確認はその成果です。
鉱山開発企業の募集と精錬工場の構想
政府はすでに鉱山を開発する企業の募集を開始しています。単に鉱石を採掘するだけでなく、不純物を取り除く精錬工場の建設も検討しています。レアアースは採掘後の精錬プロセスが技術的に難しく、現在はこの工程でも中国への依存度が高いため、精錬能力の確保は極めて重要です。
JOGMECは日本企業がアフリカの鉱物資源開発に参入しやすくなるよう、プロジェクトへの出資や債務保証といった金融支援も提供しています。官民一体で資源確保を進める体制が整いつつあります。
日本のレアアース確保戦略の全体像
中国依存度の低減に向けた多角的アプローチ
日本のレアアース調達における対中依存度は、2010年の89.8%から2024年には62.9%まで低下しました。ベトナム(32.2%)やタイ(4.8%)からの調達拡大が貢献しています。しかし、依然として6割以上を中国に頼っている状況です。
政府の資源確保戦略は、大きく3つの柱で構成されています。第一がナミビアを含む海外鉱山の開発です。オーストラリアやカナダなど同盟国・友好国からの優先調達を志向する「フレンドショアリング」の動きも加速しています。2025年10月には、日本の総合商社がオーストラリアから重希土類のレアアースを初めて輸入する実績も生まれました。
第二が南鳥島沖のレアアース泥の開発です。2026年1月に深海6000メートルからの試掘に成功し、2027年には大規模な実証試験が予定されています。南鳥島沖にはジスプロシウムが日本の需要の400年分以上存在するとされ、2028年度以降の産業化が見込まれています。
第三がレアアースを使わない技術(レアアースフリー技術)の開発です。プロテリアル(旧日立金属)などの部品メーカーが、レアアースを使わないモーターの開発を進めています。2027〜2028年にかけての量産化を目指す動きが出ています。
中国の輸出規制リスクと経済への影響
中国は2025年4月から、ジスプロシウムやテルビウムなど重希土類7種を含むレアアース関連品目の輸出管理を実施しました。野村総合研究所の試算によると、3カ月の供給途絶が起きた場合の経済損失は約6600億円に上ります。自動車や電子機器産業への影響が特に大きいとされています。
ただし、2025年11月の米中合意に基づき、レアアースの輸出管理措置は2026年11月10日まで暫定停止されています。とはいえ、地政学リスクを考慮すれば、中国以外からの調達ルートを確保する必要性は変わりません。
注意点と今後の展望
商業化までの課題
ナミビアの鉱山開発には、いくつかの課題が残っています。まず、鉱山開発から本格的な生産開始までには数年以上の期間が必要です。環境影響評価やインフラ整備、現地の法規制への対応なども求められます。
精錬技術の確立も重要な課題です。レアアースの精錬には高度な技術が必要で、中国が世界の精錬能力の大部分を握っています。日本が精錬能力を自前で確保できるかどうかが、サプライチェーンの自立度を左右します。
レアアース需要の拡大見通し
レアアースの需要は2040年までに2024年比で2倍以上に増加すると予測されています。EVの普及や風力発電の拡大、防衛装備品の高度化など、幅広い分野で需要が拡大する見込みです。供給確保の重要性は今後さらに高まります。
アフリカとの資源外交の深化
日本はTICAD(アフリカ開発会議)などを通じてアフリカ諸国との関係強化を図っています。JOGMECは複数のアフリカ諸国と重要鉱物の確保に向けた合意文書を締結しており、ナミビアのプロジェクトはこうした資源外交の具体的な成果の一つです。
まとめ
ナミビアでのレアアース埋蔵確認は、日本の経済安全保障にとって重要な前進です。南鳥島沖の海底資源開発やフレンドショアリングの推進と合わせて、中国依存からの脱却に向けた動きが着実に進んでいます。
レアアースは「産業のビタミン」とも呼ばれ、少量でも先端技術に不可欠な存在です。資源の安定供給は国家の技術競争力に直結するだけに、ナミビアでの鉱山開発の進展を注視する必要があります。企業にとっても、調達先の多角化やレアアースフリー技術の導入は、リスク管理上の重要な経営課題です。
参考資料:
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